お兄ちゃん








「マムちゃん…………マムちゃん!」
「っ!!ほ、ホークアイ、さん」
「少し、魘されていたようだが……大丈夫か?」
「は、はい……」


そうだ。私はホークアイさんの膝を借りて寝てしまっていたんだ。
何か、夢を見ていた気がする。

――……真理の扉だ。
そこで、真理に教えられた。
この世界のこと。
そして、私がこの世界の者ではなかったこと。
夢なんかじゃ、ない。


「マム。少し買い物をしようか」
「?……はい」


そう言って連れてこられたのはブティックだった。
マスタングさんは、私にお洋服を買ってくれるそう。
孤児院で着ていたものがあるからと断ったけれど、マスタングさんはお近付きの印だからと譲らなかった。
結局、私が折れ、3人でブティックへと入った。
――のは良いけれど、好きなものを好きなだけ買ってあげようと言われてしまった。
孤児院では職員さんが買ってきてくれたものを着ていたので、私自身 洋服関係には全くの無頓着だった。
おずおずとその事を伝えると、じゃあ、とマスタングさんが服を選んでくれることになった。

無事に買い終わり、ブティックを出ると、ホークアイさんが紙袋を私に差し出した。


「これは私からのお近付きの印よ、気に入ると良いのだけれど」
「わ……! ありがとうございます、ホークアイさん!」
「ふふ、リザで良いわ。マムちゃん」


ホークアイさん――もとい、リザさんに断って中身を開けて見ると、胸元に小さなリボンがあしらわれていて、スカートの裾にフリルがついたクラシカルなワンピースが入っていた。
――現代風に言うなら、お嬢様ワンピース、だろうか。




***




そろそろ昼時だな、とマスタングさんが言った。
一緒にランチでもどうかとリザさんを誘うと、これ以上水をさしては悪いからと断られた。
リザさんはこの後予定もあるそうで、お家の前で車を停めて別れることになった。


「中佐、では」
「ああ」
「……じゃあ、またねマムちゃん」
「はい、リザさん……」


マンションの前で見送ってくれているリザさんに助手席から手を振ると、笑顔で振り返してくれた。


「では行こうか、マム」
「はい」


着いたのはオシャレな喫茶店のような場所だった。
個室に案内され、私とマスタングさんは向かい合わせに座り、メニューを開いた。
テーブルに両肘をついて顔の前で手を組み、私ににっこり笑顔を見せながらマスタングさんはこう言った。


「さあ、なんでも好きなものを頼みなさい」
「え、えぇ……っと、」


何も遠慮しなくていい。あぁ、なんならこのページのもの全部頼もうか?と矢継ぎ早に話すマスタングさん。
メニューには1ページ十数種類の料理が載っていた。
いや、2人だとはいえ流石にそんなに食べられるわけが無いでしょう……!
慌ててメニューに目を戻すと、ある料理の名前が目に入った。
この料理って確か……。


「……じゃあ、これを」




***




「……美味しいか?」
「はい!とっても!」
「ふ、そうか」


注文したコーヒーを一口飲み、一息ついたところでマスタングさんは言葉を続けた。


「……君を引き取りに来た、と言ったね」
「はい、」
「その意味は、分かるかい?」
「えっと、……私とマスタングさんが、家族になる、という……こと、ですよね?」
「ああ、そうだ。……でも、」
「?」
「申し訳ないが、君の“父親”になる覚悟は出来なくてね」
「……では、マスタングさんの事はなんと呼んだら、」
「私の事は、―――…………兄と、呼んでくれるか?」
「……兄。お兄、ちゃん………………、はい!」

//2022.05.06
//2022.05.06 加筆修正