友達
「此処が保健室!」
「此処が図書室!」
「そんで此処が食堂!」
次の日、完全に復帰し、雄英高校へ。1−Aのクラスへ改めて新入生として挨拶を終えた後の休憩時、予想外にもクラス皆から校舎の案内をすると言われ、今に至る
麗日さんや芦戸さん達に手を引かれながら校舎の案内をしてもらっていると、改めて校舎の中の広さを思い知らされた。というか…最低限の付き合いにする為にはこんな親しくしてたらダメじゃん…
『も…もう良いよ。粗方分かったし、あとは自分で見ッ…』
「この建物をなめちゃダメよ。不死風ちゃん」
蛙吹さんが癖なのか口元に指を当てながら微笑んだ。それに砂藤君が思い出し笑いなのか、面白げに上鳴君の肩を叩いた
「そうそう。広すぎて最近まで上鳴とか結構迷子になってたもんな?」
「Σちょッ!かっこわりぃだろうが!そんな事不死風に教えんなよな!」
尚嫌な顔1つせずに案内を続けようとする生徒達。ひかれている自身の手を見て思わず口元が緩んだ
またこうやって誰かに手を繋いでもらえる日が来るなんて…
「あ!今不死風ちゃん笑ったぁ!」
思わずその言葉に凍り付いた。常に透明な葉隠さんではいつ顔を覗き込まれたか気付かなかった
「葉隠ずりぃー」
「私も見逃したぁ!」
咄嗟に口元を片手で隠す様に覆った
しまった。油断した…
「ほら、皆さん。そんなにズイズイと迫っては不死風さんも困ってますわよ?」
八百万さんがありがたい事にフォローしてくれた。皆その言葉に苦笑しながら私に軽く謝罪して、再び歩き出した。内心安堵しながらも心臓は未だにバクバクとうるさい
人と仲良くする事自体が…怖くなってるッ…
『あの…ちょっとお手洗い行ってきても良い?』
「あぁ、ごめんごめん!気付かなくて!」
「トイレならあそこ曲がったすぐ突き当たりにあるよ」
「よぉし!みんなで連れショッ…てあれ?」
芦戸が意気揚々に皆に告げる前に柊風乃は教えられた道の方へ走っていった
「そんなに我慢してたのかしら?」
「結構緊張してたみたいだったからそうかもね」
皆がそれぞれ柊風乃のこの後の案内について相談している中、爆豪だけ黙って集団の輪から外れた
◇◇◇ ◇◇◇
『ハァッ…ハッ…ぐッ…』
トイレに行かずに、皆の死角に入った瞬間に壁に手をついて咳き込んだ。激しい吐き気。どうしても皆の笑顔があのクラスメイト達とダブって見えてしまう
ダメだ…ダメだダメだ…
「おい、真顔」
その声に後ろをゆっくり振り返る。そこには爆豪君が壁に寄り掛かり、元々なのか分からない鋭い目付きで私を睨み付けていた
真顔って…私の事か…
「てめェに聞きてェ事がある」
まともに喋った事がないのに何を聞きたいというのか。そんなに重要視する訳もなく黙っていると、爆豪君から予想外の質問をされた
「てめェは個性2つ持ってんのか?」
『…は?』
何を言い出すのかと思えば、まさかの質問に一瞬心臓が低く鳴った。まさか…
「イレイザーとの試験。てめェは怪我1つしてなかったな。俺の目が間違ってなけりゃあ、てめェは試験中に腕や身体に少なからず怪我してた筈だ」
『……ッ』
「そう時間が経ってねェのに、保健室で会ったてめェの身体には怪我1つ残ってなかった」
またしくじった。まさか爆豪君がいち早く気付くとは思いもしなかった。でも此処で狼狽えてたら逆に怪しいか…
『気のせいでしょ。皆はモニター越しで試験を見てたって聞いたし、病室でも爆豪君はそんなに近い距離にいなかったじゃない。見間違いだよ』
「てめェ…誤魔化すんじゃねェよ。無理にでも吐かせんぞ」
爆豪君は眉間のシワをより一層深めた。いつでも何処でも喧嘩腰な子だな…まぁ、今更手を出す出さないで怯えたりしないけど
柊風乃は浅くため息を吐いて、爆豪の目の前まで歩み寄ると目付きを鋭くさせて言い放った
『私の個性が何であれ、貴方に教える義理はないし、無理矢理言わされる筋合いもない。邪魔だから退いて』
「なッ…!待てや!」
身体を軽く押して爆豪君の目の前を通り過ぎようとした直後、咄嗟に手を掴まれた
ただ、強引に掴まれただけ
痛くなかった……なのに…
パシッ!
「Σ痛ッ…」
『ぁッ…』
ただ爆豪君に乱暴ではあるが掴まれただけなのに、身体が勝手に手を振り払ってしまった。勢いよく振り払ってしまったからか、拍子に爪が爆豪君の手を引っ掻いてしまった
爆豪君の手は浅く掠れて血が微かにだが滲んでる
「てめェ…」
『ごッ……ッ!』
爆豪君の此方を睨み付ける姿を見て、一瞬過去がフラッシュバックした。男子数人に無理矢理体育館倉庫まで連れて行かれ、押し込めらたと思えば、狭い所で何度も何度も叩かれて殴られたあの時が…
抵抗した拍子に爪で相手を引っ掻いてしまった時の男子の姿と爆豪君の姿が…酷く重なって見えてしまった
頭が痛いッ…
吐き気がする…
何なのホントにッ…
何で忘れようとしても何度も頭を掠めるのかッ…
突然頭を押さえて悲痛に表情を歪める柊風乃の姿に爆豪は怪訝に思いつつ近付こうとした瞬間、柊風乃は来ないで、と再度爆豪を睨み付けた
『近づかないで。私に関わらないで』
謝罪するのを忘れた。けれど早く爆豪君の目の前から去りたかった気持ちの方が勝っていた。目を合わせずにみんなが待っているであろう場所に行きたくないけれど戻った
「…んだよあいつ。訳わかんねェ」