フラッシュバック










〔お前ら、準備は出来てるな?始めるぞ〕

スタート!と無線から相澤先生の声が聞こえた。それを確認して、3人はお互い目を合わせて頷き、それぞれ別々の方向へ散った






『2共、無線聴こえる?』

〔聴こえますわ〕
〔大丈夫だ〕

無線は雑音混じりでもなく、音質は良好。距離が遠くなってもそんなに問題視する必要もなさそうだと分かり、続けた



『一応さっき作戦会議はしたけど、あくまで予想だから臨機応変にね』

〔分かりました。あちらの作戦もあるでしょうし、気を抜かずに行きましょう〕

〔一旦誰が振り分けられたか分かり次第連絡する。それまでは逃げまくれ〕

了解、と伝えて1度建物の上へ風で舞い上がり、屋根に着地した。見晴らしが良い分、注意深く辺りを見渡した。此処から見えれば楽なのだけれど、そんなにあっちもバレバレな動きしないか…

見上げると2匹の鳥がエリアを旋回する様に飛んでいるのに気付き、無線をとった



『空にエリアを旋回してる鳥2羽見つけた。口田君のかな?』

〔多分な。こっちも見つけた〕
〔あの動きは恐らく私達の動きを随時知らせる為ですわ。そろそろあちらも来まッ…〕
バチバチバチッ!



『あ』

下の背後から光と盛大な雷電音が響いた。見下ろすと、そこには上鳴君と飯田君がいた



「しまった!タイミング外した!」
「何故相手があんな高い所にいるのに届くと思ったんだ!上鳴君!」



〔今の音は何だ、不死風〕
『上鳴君がこっちに来た。あと飯田君。多分まだいると思うけど』

八百万さんが創造した簡易的な絶縁シートを羽織って一旦屋根から屋根へ移動していく。それに案の定着いてくる飯田君と上鳴君。上鳴君がアホになってない所を見ると、まだ力は温存しているらしい




『そっちにも追って来てる?』
〔あぁ、お前の予想通り切島と緑谷、あとは砂藤だな。人数的にはこっちもまだいそうだ〕

『八百万さんは?』
〔私の方には芦戸さんと耳郎さん…あとは尾白さんですわね〕

一応予想通りの振り分け。今出てこなかったメンバーは恐らくサポートか待ち伏せにまわってる




〔ひとまず出てきた鬼の対処を優先した方が良い。何かあれば無線する〕

『了解』

そう応えて追ってくる飯田君達に目をやった。さすが飯田君は個性がエンジンなだけあり、スピードが速い。立ち止まったら恐らくすぐ捕まる

上鳴君の電気も絶縁シートがあるからといって、簡易的な分防ぎきれるか分からない。近くに行かなければ多分大丈夫だろうけど…



「おいおい!不死風、俺達が飛べないの分かってんじゃね!?ずっと屋根の上移動してんじゃん!」
「大丈夫だ!こちらは囮という事を忘れるな!上鳴君!」

上鳴君と飯田君が何やら言い合ってる。空を舞っていて距離的に何て言っているのか分からないけれど…





『ホントに2人だけなッ…』
「ぐおぉおおッ!」

真下から突然黒い物体が覆い被さってきた。即座に避けたけれど、黒い物体は着地する度に追い掛けてくる

鳥みたいな形だけど…



「うぉおら!さっさと捕まっちまえやぁあ!」

声を発してる。意思を持ってる?
拳を振り下ろしてくるその黒い物体の威力といったら、コンクリートにヒビを入らせる程だ

何なんだ?人間ではないだろうし…

不意に黒い物体の背後を見ると長く尾を引いているのに気付いた。打撃を避けながら目で追うと、建物の裏道に常闇君がいた




『あぁ…これが常闇君の黒影ダークシャドウか』

このまま追いかけ回されても埒が明かない…
体勢を低くして、柊風乃は黒影ダークシャドウへ向かっていった。風の勢いを使い、向かってくる黒影ダークシャドウの目の前に瞬間的に移動する



黒影ダークシャドウッ!」
「おぉッ!」

目の前まで来た事で黒影ダークシャドウは容赦なく怒声を上げて拳を振り下ろした。それを見て目を細めた柊風乃は腕を横に振り切った

その瞬間、黒影ダークシャドウの腕がバラバラに切り裂かれた



「ぐぁあああッ!」

裂かれた腕を押さえて悶える黒影ダークシャドウ。今まで斬り裂かれた所を見た事がなかったからか、その場の3人は硬直。常闇自身初めての事だった





『影なら斬っても良いよね』
「こんのッ…!なめるなぁああッ!」

黒影ダークシャドウが完全にキレた。柊風乃の方へ再度猛接近。それに柊風乃は表情を変えずに建物から降りたかと思えば、そのまま風を纏って立ち尽くしている飯田と上鳴の所へ




「来るぞッ!上鳴君ッ!」
「Σ黒影も一緒じゃねェかよぉおッ!」

向かってくるのに応戦しようと飯田はエンジンを溜めだした。が、上鳴はどうするべきか考えが纏まらず、慌てふためいていた




「落ち着け!上鳴くッ…」
「もうどうにでもなれやぁああッ!」

そうやけくその様に上鳴は電気を纏った両腕を振り下ろした。その電気量を見て、柊風乃は簡易的絶縁シートを頭まで深く被った

キレている黒影ダークシャドウは夢中で目の前の柊風乃を追い掛ける






バチバチバチィイイッ!
「Σいやぁああッ!」
「Σかか上鳴君んんんッ!」

辺りが眩しく光った直後に容赦なく襲ってくる電流。光のせいでさっきの勢いが嘘の様に黒影ダークシャドウはしょんぼりし、一回り小さくなってめそめそしだした

電流が尽きると、飯田君はこんがり頭も爆発して気絶。上鳴君は何故か「ウェーイ」といかにもアホらしい表情をしてフラフラしている

上鳴君と飯田君が戦闘不能状態になったのを見て、頭まで被っていた絶縁シートを脱いだ。その時、建物の死角から常闇君が出てきた




「まさかここまで他の個性を把握してるとは…」

『あ…黒影ダークシャドウ大丈夫?影だから躊躇なく斬っちゃったけど』

黒影ダークシャドウは漆黒の闇さえあればいくらでも蘇る。だが…まさか上鳴の電気を利用するとは…無念だ。黒影ダークシャドウもこの通り引き腰だ」
「うぅ…お前こえぇよ。女のくせにぃ…もう嫌だ…」

めそめそと先程の凶暴性すら失われている黒影ダークシャドウの頭をとりあえず撫でて宥めた。すると常闇君は情けなさそうに小さくため息を吐いた



「もう俺にお前を捕らえる力はない。さっさと逃げろ」

黒影ダークシャドウの状態からして本当に戦闘が出来ない…というより戦意損失している様だった。ここまで上手くいくとは思わなかったけど、まぁいいか

常闇君に背を向けて再び建物の屋根まで飛び、駆けていった

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