気遣い
『……』
「不死風ってば」
耳郎さんの呼びかけで我に返った。周りを見渡すとみんなゾロゾロと教室をあとにしていく。どうやらノートを見つめてペン回しをしながらボーッとしてしまっていたらしい
「あんた、何ペン回しに夢中になってんの?」
『ご…ごめん。授業終わってたの気付かなかった』
「まぁ、授業って言ってもビデオ鑑賞だったしね。眠くなるよねぇ」
早く移動するよー、と大きなあくびをする耳郎さんがこちらに手を差し伸べてきた。首を傾げると彼女は顔を赤くしながら、まるで照れ隠しの様に目を逸らしながら言った
「い…嫌なら良いんだけど」
『…別に嫌じゃないよ』
差し伸べられた手を握り返した。嫌ではない…
口から滑る様に出た言葉。拒否するつもりだったのに、何故受け入れてしまったのか。私が手を繋ぐ事に躊躇がなかったのがそんなに嬉しかったのか、耳郎さんは恥ずかしそうにだが、笑顔だった
◇◇◇ ◇◇◇
「ねぇねぇ、不死風ちゃん!今日放課後に女子だけでお買い物に行こうと思うんだけど、どうかな!」
『…は?』
午前中の授業が終わり、昼休みになるや否や葉隠さんが私の机に勢いよく駆けてきた。そして、買い物に誘われた。これからまた屋上に行って、1人になろうと思ってた矢先にこれだよ…
葉隠さんのあとからゾロゾロと他の女子達も集まってきた。女子みんなって…ホントにみんなか…
『いや、私はいいよ。みんなで行ってきなよ』
「えー、行こうよ!みんなで買い物なんてきっと楽しいよ?」
「そうですわよ。一緒に行きましょう」
スゴいみんな誘ってくる
あぁ…もう何でこうもフレンドリーなのだろうか
このままじゃホントに買い物に連れていかれてしまう
『もぉ、いいってば。別に買い物行きたくなッ…』
「不死風ちゃんも買い物行きたいって!?わーい!盛り上がるぞぉお!」
透明だから分からないが、葉隠さんが私の言葉を遮って腕を組んできた。ちょっと、と続けて断ろうとしたが、周りの女子達も笑顔で喜んでいる反応を見て思わず言葉を飲み込んだ。これは観念して行くしかない…
「丁度お昼だし、みんなで食堂で買い物の計画練るっていうのはどうかしら?」
「お、良いね良いね。んじゃ、食堂にレッツゴー!」
手を引かれるままに食堂へ連れていかれた。何も言わずに黙ってついて行くと、入学して初めての食堂を見て正直驚いた。人が多く、その人数でも余裕で利用出来そうな程に広い
もうみんなは慣れている様に席を取り、今日は何にしようかと話し合っている
「不死風さんはどうなさいます?」
『私此処で食べるの初めてだから』
「そうなん?此処ではどれも美味しいけど、やっぱりお米が1番美味しいんよ?」
列に並びながら前に並ぶ麗日さんが教えてくれた。後ろから蛙吹さんもオススメを言ってきた。蛙吹さんに至ってはデザートのゼリーが美味しいらしい
ひとまずオススメされたお米のある焼魚定食というモノを注文した。厨房では1人のシェフ姿のヒーローが食事を手際よく作っている。八百万さん曰く、あの人は料理自体が個性だというが…手際の良さはさすがだと思った
席に着いて、周りを見渡すとやはり生徒は多い。みんなやはりそれなりに個性も持っていて、あの困難と言われている入試試験も受けて此処にいるんだろうな…
「不死風ちゃんどうしたの?周りキョロキョロして」
葉隠さんに尋ねられてハッと我に返った
『改めて見て生徒の数が多いなと思って』
「そりゃあ、普通科とかサポート科とかウチらヒーロー科以外にも生徒がいるからね。まだ誰がどの科とかは分からないけど」
苦笑しながら説明してくれた耳郎さん。ご飯を口に運びながら再度周りを見る。少し離れた所には緑谷君や飯田君達1−Aの男子組が揃って食べていた
「柊風乃ちゃん、あっちが気になるの?」
『え…別に。皆は男子達と食べたりしないの?』
「たまぁにね。でも今日はッ…」
「女子だけのお買い物計画の会議をするから!男子は禁制なのだー!」
ちょっと葉隠!、と割り込んできた葉隠さんを退かせた耳郎さんが続けて苦笑して言った
「ウチ的にはあいつらノリが激しいからこうやって女子だけで食べる方が好きだけどね」
「私はどっちでも良いかな。ご飯が美味しいのに変わりないし」
うまうまぁ、と満足そうにお米を頬張る麗日さん。私もどっちでも良い…というかどちらかというと1人が良いなと心の中で思いながら再び箸を進めた
「今日どうする?何か買いたいモノある人ー」
「私はノートがそろそろ終わりそうなので、買いたいですわ。あとシャーペンとか」
「私は洋服が買いたいわ。ワンピースとか特にほしいわね」
みんなそれぞれ欲しいモノを言っている。そういえば最近此処に入学したのも退院してすぐだったから、筆記用具とかハンカチとか中学の頃からの使いまわしてだったっけ…
「柊風乃ちゃんは?欲しいモノ」
『強いていえば筆記用具とか』
「んじゃ!商店街見に行ってみよ!あそこ結構オシャレな雑貨とか洋服あるし!」
おー!、と芦戸さんに乗っかってみんなが賛成の声を上げた。私はノリに着いていけずにご飯を口に運んだ
◇◇◇ ◇◇◇
放課後、みんなに連れられてやってきた商店街
何か…懐かしいなぁ。中学の頃はよく来てたっけ…
「不死風さん、此方で筆記用具など揃えましょう。此処のお店は私のオススメなんですの」
八百万さんに手を引かれながらお店に入った。他の子は他の子で向かいの洋服屋さんへ
「とても品揃えが良いんですのよ。ほら、これなんか不死風さんにお似合いですわ」
手渡されたのは白い花柄の華やか系シャーペン
私って白い花が似合うのかな…
手渡されたシャーペンを眺めていると、八百万さんは文房具の棚を見ながら尋ねてきた
「不死風さんは爆豪さんと何かありました?」
『…は?』
突然言われた。というか…何でそう思うのか
まぁみんなの前でもあんな反応だし、実際昨日の体育の授業での1件もあるし、当然か
『別に。でも嫌い』
「そ、そんなにはっきりと…まだ1週間も経っていませんよ?」
『何を考えてるかも分からないし、性格だってあれだし…』
「爆豪さんは入学当時からあんな感じですの。なのであまり気にしない方が良いですわ」
八百万さんのまるで爆豪君を庇う様な言葉に正直イラついた。あの性格が昔からのモノだったら何しても良いの?
私は昨日の体育の時を思い出していた。普通の人なら死んでいなくとも重症になる程殴られた。まぁ爆豪君からしたら私は普通ではないんだろうけど…
『私は彼の事は何も知らないし、元々の性格だろうが何だろうが嫌い。八百万さんも矛先を向けられれば分かるよ』
柊風乃はキッパリ言って、再び棚に目をやった。八百万は何かを言おうとしたが、口を噤んだ。言っても恐らく、余計柊風乃を苛立たせてしまうと直感したからだ
◇◇◇ ◇◇◇
「あ、2人共良いのあったの?」
「えぇ。ねぇ、不死風さん」
八百万さんに振られて一応頷いた。洋服を見ていた他の女子達が買ったモノを見せて喜んでいる中、さっき爆豪君の事を改めて聞かれたせいでついボーッと物思いに老けてしまっていた
「不死風さん?」
八百万さんが心配そうに顔を覗き込んできた。我に返って聞き返すと、彼女は申し訳なさそうに眉を下げた
「すみません、さっきは変な事を聞いてしまって」
『八百万さんのせいじゃないから良いよ。気にしてないし』
可愛いシャーペン選んでくれてありがとう、と先程八百万さんが選んでくれた白の花柄のシャーペンを見せた。すると、彼女は表情を和らげて安心した様に微笑んだ