本気
※此処から雄英体育祭の原作沿いとなりますが、原作と内容が違う所があります
@USJ襲撃事件は夢主が入学する数日前。相澤先生の怪我は完治しており、包帯を巻いていません
A体育祭の種目の参加メンバー、順位が少し変わります
どうかお許し下さい…0(:3 )〜
次の日、部屋で横になりながら昨日のオールマイトさんの誘いを勝手に途中で帰ってしまった事を謝ろうかスマホ片手に考えていると、珍しく下の階からテレビの音が…
おばあちゃんはこの時間いつも庭の花の世話とか金魚の餌やりしてるし、テレビなんて滅多に見ないのに…
『おばあちゃん、何見てるの?』
下に降りて、テレビをじっと見つめているおばあちゃんの隣に座った。集中しているのか反応がない。漸くテレビの画面に目を向けると、何かの録画だった
〔雄英体育祭の開催だぁあああッ!〕
突然耳を塞ぎたくなる程の大声が画面から飛び込んできた。それは紛れもなくプレゼント・マイク先生の声。隣のおばあちゃんは平然としている
さすがだよ…おばあちゃん
相変わらず耳が遠い…
『ていうか…これ去年の雄英の体育祭?』
おばあちゃんが見ていたのは去年開催されたであろう雄英高校の体育祭。正直初めて見た。結構派手な所でやってたんだなぁ
「そろそろじゃないの?柊風乃ちゃん」
『何が?』
漸くおばあちゃんが此方を振り向いたと思えば満面の笑みを浮かべていた
「体育祭」
◇◇◇ ◇◇◇
「雄英体育祭が迫ってる」
休み明けのHR。教室にやってきた相澤先生の口から出てきたのは、まさかの昨日おばあちゃんと話していた体育祭についてだった
「クソ学校ぽいのきたぁあッ!」
「いやいや!待て待て!」
体育祭と聞いて喜ぶ切島君とは真反対に前の席の上鳴君がその雄叫びを止めに入った。他のみんなも何やら表情が険しい
「
「また襲撃されたりしたら…」
耳郎さんや尾白君が口々に相澤先生に尋ねた。みんなも同じ心配をしていたらしく、相澤先生の方を向いている
『
「不死風さんは聞いてないの?」
相澤先生が体育祭を開催にあたっての
「かなりの被害が出たんだ。相澤先生だってあぁやって普段通り学校に出てくるのも不思議なくらい重症だったんだよ」
『そう…だったんだ』
入学してまもなくに本物の
「何よりウチの体育祭は最大のチャンス。
『チャンス…』
「色んなプロヒーローがスカウト目的で見る率が高ぇからな。つーか不死風、お前体育祭見た事ねぇの?」
隣の瀬呂君が不思議そうに聞いてきた。聞いた事はあるけれどそれほど興味があった訳じゃなかったというか…見れる状況じゃなかったというか…
『知ってはいたけど、見た事ない』
「おいおい!マジか!毎年すっげぇ熱狂的に先輩達が戦ってたのによぉ!」
瀬呂君の隣の切島君が話を聞いていたのか、大袈裟なまでに反応してきた。そのままの勢いで切島君はプロヒーローにスカウトされれば卒業後、サイドキックとしてヒーロー活動が出来るのだと詳しく教えてくれた
「時間は有限。プロに見込まれれば、その場で将来が開ける訳だ。年に1回、計3回だけのチャンス。ヒーローを志すなら絶対外せないイベントだ。その気があるなら準備は怠るな」
「あんな事あったけど、テンション上がるなぁ!おい!」
昼休み、みんなの話題は当然間近に控えた体育祭について。切島君だけでなく、他のみんなもテンションが上がり気味で各々体育祭の話題で教室は持ち切りになった
『ねぇ、緑谷君。さっきのUSJの事なんだけど』
「あぁ、不死風さん」
未だに気になっていた事件の事をもっと詳しく教えてもらおうと飯田君と話していた緑谷君に声を掛けた。すると、飯田君がそうか!と突然席を立った
「不死風君、君はまだ入学していなかったから聞かされていないのか」
『まぁ…気になる事があってさ。もう少し詳しく話聞かせてくれないかな』
後ででいいから、とすぐに立ち去ろうとしたが、振り返ると目の前にいつものにこやかさが微塵もない表情の麗日さんが仁王立ちしていた
「柊風乃ちゃん…頑張ろうね!体育祭!」
スゴい声…というかなんて顔してるんだろう。思わず後ずさると緑谷君や飯田君も何だ何だと振り返った。すると、麗日さんは右腕を高く掲げて叫んだ
「みんな゙ぁッ!私頑張るぅゔうッ!」
『なッ…え…?』
麗日さんは後ろに振り返り、他のクラスメイトにも同じく右腕を掲げて叫んだ。スゴい気迫…
「さぁ!みんなご飯行くよぉお゙ぉ!」
『ぇ、あ、お茶子さんッ…!』
再び此方に振り返った麗日さんは表情を変えずに私の手を取って教室を出ていった。ズイズイと歩いていく麗日さんに恐る恐る尋ねた
『お、お茶子さん…大丈夫?何かいつもの雰囲気が…』
尋ねると、歩いていた麗日さんが足を止めた。そして振り返った麗日さんの表情はいつもの和やかな表情に戻っていた
「ごめんごめん、体育祭の事で気合い入りすぎちゃって」
『そんなに気合い入るものなの?』
「そ、そりゃあそうだよ!なんたってプロヒーローからスカウトもらえるチャンスやもん!気合い入れておかないと!」
両腕を交互に出してニッと歯を見せて笑った麗日さん。やっぱり麗日さんはこういう雰囲気だよな…と内心ホッと安堵した
「麗日さんはどうして雄英に…プロヒーローになろうとしてるの?」
後ろに着いてきていた緑谷君が麗日さんに尋ねた。その尋ね事に麗日さんは驚いた様に反応した後、言いづらそうに頭を掻いた
「お、お金をいっぱい稼ぎたくて…その」
「お金が欲しいからヒーローに?」
究極的に言えば、と麗日さんは顔を赤くした。意外だと緑谷君は言うけれど、私も正直意外だと思った。お金が欲しそうな子には見えないけど…
「ウチの会社、建設会社やってるんだけど…全然仕事なくて素寒貧なの。こういうの、あんまり人に言わん方がいいんだけど…」
建設会社…それを聞いてすぐに悟った
『お茶子さんの浮かせる個性なら、何のコストも掛からず資材とか運べるね』
「うむ、十分重機を使わずとも仕事が可能だし、効率も良くなるかもしれんな!」
思った事は当たっていたらしく、それを麗日さんは幼い頃に両親に言ったのだという。大きくなったら実家に就職して、両親の手伝いをすると…けれど…
「父ちゃん…仕事全然なくて困ってるくせに私が夢を叶える方が嬉しいって言うんよ。でも、娘としては苦労している父ちゃん母ちゃんを放ってはおけない」
だから…と俯いていた麗日さんが顔を上げた時、一瞬息が止まった
「私は絶対ヒーローになって、お金稼いで…父ちゃん母ちゃんに楽させてあげるんだ!」
麗日さんの表情はとても澄んでいて、いつもの和やかな雰囲気とは別の凛々しい真っ直ぐ前を射抜く目を私達に向けていた
「ブラーボォオオオ!麗日君!ブラーボォオオオ!」
当然の飯田君からの喝采。それに麗日さんははにかんだ様に微笑んでいた
『良い両親だね、お茶子さん』
「ありがとう。あ、そういえば柊風乃ちゃんは何でヒーローになりたいん?」
ドクンッと心臓が鳴った
ヒーローに…なりたい理由…
「おぉ、俺も聞きたいぞ」
「僕も気になってたんだ。よければ聞かせてよ」
理由…理由…
『私は…大嫌いな奴を越える為』
◇◇◇ ◇◇◇
「不死風」
屋上でお昼を済ませて、時間まで風に当たっていると何故か轟君がやってきた
「お前、いつも此処で飯食ってんのか」
『この学校で静かなの此処くらいしかないから。轟君は何で此処に来たの?』
人が来ないから屋上にしてたのに…と思っていると、轟君は隣に座って胡座をかいた
「聞きてぇ事があんだ」
『何?』
「盗み聞きするつもりはなかったんだが…お前の大嫌いな奴って爆豪の事なのか?」
ピシッと飲み物を飲む手が止まった
「あの時お前、緑谷達にそれしか言わなかったが…」
『…違うよ』
浅くため息を吐いて飲み物を置いた
『大嫌いな奴は他にいる。誰かは言えないけど』
目を丸くする轟に柊風乃は視線を移して逆に尋ねた
『轟君は何で此処にいるの』
「…俺か?」
気になってはいた。まぁ轟君レベルの個性の持ち主ならどんな理由があろうとヒーローを目指したくなるだろう。でも轟君はもっとちゃんとした考えがありそうな気がした
『何でヒーローになりたいの?』
「…父親を否定する為だ」
少し間を開けてから、轟君は言った。父親…その言葉と轟君の表情に息を呑んだ。鋭い眼光。眉間に今まで見ていた日頃の轟君とは思えない程のシワが寄っている。憎悪の塊の様な表情だった
そして轟君は私に教えてくれた
父親がNO.2のエンデヴァーである事
父親が憎くて仕方ない事
自分の個性が父親の望む様な個性である事
そして…その個性を持つまでの辛い幼児時代の事
「俺はお母さんの個性だけで上にいく。そして、あいつを全否定する。体育祭でだってそうだ。1度も左を使わずに優勝して、あいつに思い知らせてやるんだ」
お前の思い通りにはぜってぇならないってな、と轟君は左拳を握り締めた。前から気になっていたアザの事も…まさかこんな形で知る事になるとは思いもしなかった
けれど…気持ちは少し分かる気がした
それはきっと…私も父親を憎んでいるからかもしれない
『私も父親なんて嫌い』
予想外だったのか、轟君は何とも驚いた表情で此方を見た。一方で私は後ろの壁に寄りかかって、浅くため息を吐いた
『あいつを父親とも思ってないし、家族とも思ってない。ヒーローとも認めてない』
「お前…」
『お母さんの事も…私の事も放っておいてヒーローとしての活躍ばかり優先して』
『お母さんは…お父さんといて幸せだったの?』
「当たり前じゃない。何言ってるの?」
『お母さんは…お母さんは優しすぎるよ。何であいつをそこまで想えるの?何でそんな…嘘吐くの…』
「嘘なんて吐いてないわよ?あの人は私達の暮らしを平和なモノにする為に悪い人達と戦っているの。誰かの為になっているあの人を愛していない訳ないし、十分私は幸せよ。それに…」
あの人と生きて…貴方みたいな素敵な娘が出来たんだから、とお母さんは笑っていた。笑って…いた
「お父さんの事……嫌いにならないでね…」
あの時…最期のお母さんも笑ってた。
『勝手に消えて、最期までお母さんを守らなかった…最愛の人すら守らなかった。そんなの父親でもヒーローでもない。ただの凡人』
考えるだけで虫酸が走る、と柊風乃は両手を握り締めた。すると、黙っていた轟は立ち上がった
「なぁ…お前の大嫌いな奴って」
『言わない』
柊風乃は轟から目を逸らして即答した。その反応とさっきまでの話からして答えなくても…答えている様なモノだったが敢えて轟はそれ以上詮索しようとはしなかった
「俺は体育祭で左を使わずに優勝する。お前も優勝目指すんだろ?」
『…別に体育祭には興味ない。優勝出来なくてもプロヒーローから認められる機会はまだ何かしらあるだろうし』
あんまりみんなみたいに熱くなれないんだよ、と柊風乃は視線を轟に移した
「興味がなくても参加はするんだろ。だったら正々堂々俺は勝ちに行く。お前ともし戦う事になっても、俺は上に行く為にお前を倒す」
つまんねぇ所で落ちるなよ、と轟君は背を向けて屋上を出ていった。体育祭…確かにプロヒーローに認めてもらって、あいつよりも強く、活躍出来るヒーローになれるチャンスではあるけれど…何故かやる気に火が付かない。相変わらず面倒な性格だと再度背中を壁に凭れ掛からせて、空を見上げた