ペナルティ
あ
あ
あ
「職場体験どうだった?」
「私の所はあんまり
職場体験明けのA組はいつにも増して賑やかである。貴重な時間を過ごし、各々の事務所で体験した事を話していた
「1番大変だったのは、お前等3人だよな」
「そうそう!ヒーロー殺し!」
「命あって何よりだぜ?マジでさ」
「心配しましたわ」
話題はニュースを駆け巡っているヒーロー殺しの1件についてになり、緑谷、轟、飯田の3人の周りにみんな集まりだした
「エンデヴァーが助けに来てくれたんだってな?」
「スゴイねぇ!流石NO.2ヒーロー!」
ニュース上ではエンデヴァーの手によって解決されたとしているヒーロー殺しの事件。3人の頭には病室での警察署長に言われた言葉が残っており、安堵しているクラスメイトと話を合わせる
「ねぇ、みんな。柊風乃ちゃん知らないかしら?」
話している最中に割って入ってきたのは浮かない表情の蛙吹と芦戸と耳郎。柊風乃の名にそれぞれ辺りを見渡すが、本人の姿は見当たらない
「来てねぇの?」
「そうみたい。もうすぐHRが始まるのに」
「遅刻じゃねぇか?昨日まで職場体験だったし」
「そうだと良いけどさ…」
単なる遅刻だろうと周りが話すが浮かない表情が晴れない3人。そんな様子を見て、緑谷が轟に尋ねる
「轟君は結構不死風さんと連絡取ってたみたいだけど、遅刻してる理由分かる?」
「いや…連絡取ったのはヒーロー殺しが出た次の日の朝が最後だ。だから分からねぇ」
みんなが心配する中、結局柊風乃はチャイムが鳴っても登校して来る事はなかった。みんなが心配気に柊風乃の席に目をやりながら席に着くと、教室のドアが開き、相澤が入ってきた
「みんな、職場体験ご苦労だった。初めての体験で色々神経を使っただろうが、時間は待ってくれない。今日からまた授業が始まる。気を引き締める様に」
はい!とクラス全体が返事をした後、柊風乃の席を一瞥し、お前等に1つ伝えておかなければならない事がある、と相澤は口を開いた
「不死風が職場体験先で
その言葉に一瞬静まり返るクラス。皆が皆、目を見開いて唖然としていた
「え…えぇ!?それってどういう事だよ!」
「怪我したって事!?」
上鳴と芦戸の上げた声に静まっていた他の生徒も次々に相澤を質問攻めにする
「学校に来れねぇくらいの怪我したのかよ!?」
「いつ来れるんですか!?」
「不死風は今どうなってるんですか!?」
予想した通りに騒ぎ出したクラスを静かにしろ、と相澤は一喝。それにしん、と教室は再び静かさを取り戻した
「負傷したが、命に別状はないそうだ。だが、少なくとも1週間は安静にする必要があるから、しつこく連絡とか取ろうとしない様に」
それと…と相澤は出席簿をトントンと軽く教卓に打つと、鋭い目つきを生徒に向けながら続ける
「来月の中間テストと期末テスト、不死風にはペナルティとして、お前達とは別で受けてもらう事にした。共に勉強するのは良いが、間違ってもテストの内容等は教えない様にしろよ」
ペナルティという突然のそんな言葉に意味が分からないという様に生徒は互いを見合わせた。質問したくても相澤の表情が険しいのに聞けずに聞けず…ペナルティって何の事だ?単に授業が遅れるからとかじゃないの?等の言葉が小さく行き交う中で、麗日が手を上げた
「先生、あの…柊風乃ちゃんが何でペナルティなんて受けなきゃいけないんですか?柊風乃ちゃんは
納得出来る説明を下さい、と麗日は恐る恐るとした口調で相澤に尋ねた。皆が聞けなかった内容に、視線は相澤に集中する
「不死風は子供を助けようと体験先のヒーローに無断で行動して、結果深手を負った。幸い子供は無事だったが、これは立派な規則違反だ」
「ちょッ…え!?何でですか!?不死風は子供助けたんでしょう!?」
「そ、そうだぜ!何で人助けしてペナルティなんてッ…」
バンッ!
話を聞いても納得出来なかった様子の切島と瀬呂がガタッ!と立ち上がりながら声を上げたが、その直後に相澤が教卓に強く掌を打ち付けた
「勘違いするな。実戦経験があるとはいえ、お前達はまだ卵の状態…監督者であるヒーローの許可なく街で個性を発動した事や
「で、でもッ…!」
「今、お前達は個性の限界値やコントロールを手探りで習得している段階。丁度良い…体育祭で爆豪と戦った時の不死風の個性を思い出してみろ」
『黙れぇええッ!』
生徒達の頭に
「セメントスが作ったステージを抉ったあの風…コントロールもまだ不完全な状態で暴発しない保証は何処にもないんだ。不死風だけじゃない。個性は容易く人の命を消し去る事が出来る…だから規則があるんだ」
淡々と話す相澤に切島と瀬呂、そして麗日も複雑な表情を浮かべながら静かに座った
「子供が助かったのにってのはあくまで結果論だ。助ける筈が逆に個性のせいで殺めてしまうヒーローによる二次被害は実際にある。分かったら、お前達も教わっている学生である立場を弁えて励む様に」
以上だ、と一言言い捨て、相澤は教室から出て行った。しんと静まり返るクラスだったが、1限の授業が演習だという事もあり、飯田が率先して更衣室に移動する様に呼び掛けた
「柊風乃ちゃん…あのニュースの事件に巻き込まれたんかな…」
「それはどういう意味かしら?お茶子ちゃん」
うぇ!?、と呟いただけだった言葉を聞き返された事に驚いた声を上げてしまった麗日だったが、蛙吹が心配気に眉を下げて首を傾げているのに気付き、えっと…と隠す事なく話した
その例の連続殺人事件の事は蛙吹も知っていたらしく、個人でメッセージを送ったものの、柊風乃からは心配しないでと返って来ただけだったと話した
「確かその
「Σ爆発事件!?知らんかった…」
「今朝のニュースでやっていたのよ。でも最後まで気味が悪い事件だったわ…」
何故白髪の女性だけを狙っていたのか。何故連続で殺人に及んだのか。目的が結局分からずじまいで気味が悪いのに共感した麗日だったが、蛙吹は言いにくそうに口に指を当てて続けた
「最後は捕まった…というより、爆発現場から離れた場所で焼死体で見つかったらしいわ」
「え?」
「5人の内4人は同じ場所なんだけど、何故か残りの1人は別の場所で見つかったそうよ」
DNAから出された個性検査で
「そうだったんやね…」
「あんな物騒な
蛙吹が苦笑すると、麗日も同感とばかりに苦笑し返した
◆◆◆ ◆◆◆
「爆豪」
1人更衣室へ向かう爆豪を轟が後ろから呼び止めた。呼び止められた爆豪は無視する訳ではなかったが、気怠そうに振り向いた
「ンだよ」
「不死風の事、何か知らねぇか?」
は?と聞き返す爆豪に構わず、轟は真剣な表情のまま続ける
「不死風と爆豪はお互い体験先近かっただろ?そっちで昨日爆発事件があったって親父が言ってたから、不死風はそれに巻き込まれたんじゃねぇかって思って」
「知らねぇよ。真顔が勝手に先走ってヘマしただけだろ」
吐き捨てる様に言って背を向けた爆豪にイラッと気が立った轟は待てよ!、と駆け寄るなり肩を掴んだ
「子供助けたヒーローに言う言葉かよ!」
「触んな舐めプがッ!」
パシッ!と掴む轟の手を爆豪は振り向き際に振り叩いた
「勝たなきゃ意味がねぇだろうが!自分の身も守れねぇ奴がヒーローなんざなれるか!」
「身を挺してでも助けるのがヒーローだろ!あいつが間違ってるみてぇな言い方してんじゃねぇよ!」
お互い睨み合う中、身を挺してという言葉を聞いて、爆豪の頭にあの時の柊風乃の血塗れの笑顔が過ぎった。思わず誤魔化す様に盛大に舌打ちを漏らす
「てめぇと言い合いなんざ時間の無駄だ!2度と話し掛けてくんじゃねぇぞ!」
そのまま背を向けた爆豪の反応に聞き出すのは無理だと悟った轟は険しい表情のまま、もう呼び止めはしなかった