事前能力試験









次の日。朝、私は雄英の制服と通学カバンを持って玄関で靴を履いていた。そこにお婆ちゃんが見送りにきてくれた


「柊風乃ちゃん、いってらっしゃい」
『うん』

「いっぱいお友達出来ると良いわね」
『ごめん、お婆ちゃん。私は…』

ローファーを履き終えて、立ち上がった。お婆ちゃんの表情はきっと心配気にしていると思うけど、振り向かずに続けた


『もう…友達は作らないよ』







◇◇◇ ◇◇◇






『パンフで見るより迫力あるなぁ…』

国立雄英高等学校。本当にプロのヒーローとしてヴィランと戦う人材を育成する高校。そりゃあ色んな現役ヒーロー達が此処出身だし、卒業生の実績を見れば、かなり人気なのも納得だよね…

此処で待ってればいいのか、と書類を確認していると突然背後から影が。振り向いて思わずぎょっとした



「君か?不死風柊風乃は」
『あ…はい。そうですけど…』

後ろにいたのは黒の長髪に黒服。首元に包帯みたいなのをグルグルに巻いている長身の男の人が立っていた

眼力スゴいなッ…ていうより何この人、不審者…?



「俺は相澤消太だ。この雄英の教師をしてる」
『えッ…先生?』

どんな校則を定めればこんな格好で教師が務まるんだろうか。やっぱり一流の高校は普通と違うんだなぁ…と思っていると、相澤先生が何やら険しく眉間にシワを寄せて私を見つめているのに気付いた




『あの…何ですか?』
「似てないな…」

『はい?』
「いや…何でもない。君の事はオールマイトさんから聞いてる。まぁ此処で話すのもなんだ。中に入れ」

そう言って背を向けた相澤先生。校舎に入ると、当然ながら外観と比例してかなり広い。圧巻されながらも、迷わない様に相澤先生の後をついて行く





「ところで、君の個性について聞いておきたいんだが」
『個性は風です』

「風か。便利そうだな」

『便利…なんですかね。まだ全然コントロールとか出来てないので』

「特に何が出来るんだ?」

『出来る事…中学の頃に気付いたのは周りの風の動きを変えられる事ですかね。強めたり弱めたり…風向きを変えたりとか…』

「あとは?」
『風を使って早く移動したり、飛んだりするくらいで他には特にないかと…』

柊風乃の言葉に相澤は怪訝に思った

相澤も少なからずオールマイトから1ヶ月前の事を聞いていた。クラスメイトだけを選んで斬りつけた事と高校進学を先送りにさせる程の威力があった事も

コントロールが皆無に近い状況での個性の暴走。本人は一気に力を使ったせいで直後に失神したものの、怪我人はそのクラスメイトだけ…

元々の潜在意識の中では関係のない人間を傷付けたくない、と思っていたか…ただの偶然なだけか。どっち道鍛えて使えこなせさえすればこいつは相当強くなるな…と1人頭で思った



『相澤先生?』
「君にはまず、クラスに入ってもらう前に事前能力試験をしてもらう」

『…はい?』







◇◇◇ ◇◇◇







「いやいやぁ!遥々ようこそ雄英へ!」

連れてこられたのは教室…ではなくある広場のゲート前。制服もジャージに着替えさせられ、何だ何だと思えばオールマイトさんが広場の中から手招きしていた

パツパツのスーツ姿であの笑顔。隣の相澤先生が相変わらずだな…とちょっとした毒を吐いている



『事前能力試験っていうのは…』

「まぁ、つまりは君の個性を見せてほしいって事だね」

『個性ですか?』

「みんなやってる事だ。君に関しては推薦って枠で入る訳だが、本当に推薦に値する実力を持っているのか俺を相手に見せてほしい」

いやいや、ちょっと…正直オールマイトさんから誘われただけで自分的に推薦の枠に入れるとすら思ってなかったんだけど。そんなまともにコントロールした事ない時点でかなり心配な訳で…




『あの…もし実力がないと判断された場合は…』
「当然、見込みゼロと判断して即除籍処分だな」

やっぱりか。予想した通り難関校なりに採点も厳しい。ひとまず見込みゼロと判断されない様に今の自分に出来る事はしなければならないって事か



「このゲートを潜り、5分経ったら俺がお前を捕まえに行く。1時間内に捕まらずに俺が持っているオールマイト人形を奪えたら合格だ。奪えなくても不合格だから逃げてばかりでもダメだ」

相澤先生が見せてきたのは小さなオールマイトさん人形。似すぎて逆にキモい…



「因みに、相澤君の個性は秘密だ。1時間の間に見極めて、自分の個性を最大限に活かしてくれ」

頑張れよ、と背中を押された。雄英の先生を務める程の個性持ちだし…なりふり構ってって訳にはいかない

ゲート前で1度深呼吸して、中に入る。目の前には街に紛れ込んだんじゃないかと思う程のビル群が立ち並んでいた。とりあえず隠れられる場所を探す為にもっと奥の方へ進んだ


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