うごめく影






正式に虹のリングを受け取って、数日後。この日はヤケに天気が良かった


「沙羅殿ではありませんか」
『あ、バジル。久しぶりだね』

廊下で鉢合わせたのはバジル

久しぶりというのも、この頃どこか家光さんが親方を勤める門外顧問組織【CEDEFチェデフ】が何やら騒がしく動いていて、【CEDEFチェデフ】の一員でもあるバジルもそのお役目で一時的に本部に顔を出せていなかったのだ




『お役目の方は終わったの?』

「いえ、拙者のお役目はこれからです。今はまだ内容伝えられただけです」

苦笑しながら頭を搔くバジル。何故か私には何も伝わっていない。ディーノからも何も知らされていないし、リボーンだって聞いてもうまく誤魔化されてしまう



『家光さんもラルもみんな忙しそうだけど…何か大変な事でもあったの?』

「大変な事…にはなっていますが、沙羅殿が不安に思う事ではありません」

大変な事って何だろう…
気になったが、改めて聞く事を避けた。未だに誰に聞いてもはぐらかされているのを考えるに、触れてはいけないモノの気がする




「拙者は暫くしたら日本へ発つ予定です。今日は9代目に報告書を渡しに本部へ立ち寄ったんです」

日本…確かリボーンも暫くしたら行くとか言ってた気がする。同じ内容なのか、はたまた別件なのか私が知る由もないからこれ以上考えない事にした



『ねぇ、バジル。たまには息抜きしよ』

「え?息抜き…ですか?」

『うん。今日は修行お休みでさ、これから庭で気晴らしに日向ぼっこしようかなって思ってたの。バジルもどう?』

きっと気持ちいいよ、と沙羅から満面の笑みで誘われたバジルは一瞬戸惑いながらも、嬉しそうに笑い返した





「お誘いとても嬉しいです。ではお言葉に甘えて、拙者も日向ぼっこにお付き合いさせて頂きます。報告書を渡し終えたらすぐに庭へ行きますね」

『うん、分かった。先行ってるね』

手を振って駆けて行くバジルを見送って、私は庭へ向かった。これから新たな出逢いがある事も知らずに…






◆◆◆ ◆◆◆






久しぶりに沙羅殿に会ったなぁ…

そういえば先日とうとう正式に虹の守護者になったと9代目から発表があった。さすがだと思う反面、無茶をしがちだと親方様やディーノ殿、9代目ですら口々に言う所を見ると拙者も拙者で心配になる

地道な努力も惜しまない純粋で真っ直ぐな沙羅殿にいつの間にか惹かれている分、余計だ

お傍で見守っていたい気持ちも大きくあるけれど、数ヶ月前から“ある影”が動き出し、それが何やら大事になるかもしれないと親方様がおっしゃってから、かなり忙しくなり、本部に顔を出せない日が続いていた

久しぶりに沙羅殿に会い、更にはお誘いもされてとても嬉しい。気持ちが上がってしまう。早く報告書を9代目に届けよう







「9代目、報告書を届けに参りました」
「ありがとう。そこに置いといてくれるかぃ?」

報告書を机に置いて、9代目が忙しそうだという事もあって足早に部屋をあとにしようと扉に手を掛けた所で呼び止められた



「バジル」
「はい!」

「バジル、お前は今…想い人がいるか?」
「えッ!?きゅッ…急に何故ですか!?」

「目を見れば分かるさ」

目で相手が何を想っているのか分かるなんて…さすがブラッド・オブ・ボンゴレ。きっと相手が沙羅殿だという事も分かっている筈なんだろう…

顔に熱が集まるのが自分でも分かる



「想う人がいると、人は強くなる。その人を守りたいと強く思う。でも頑張りすぎも良くないからね」

「おッ…お気遣いありがとうございます!」

「お前には例の“お役目”の事も任せてしまって、無理を押し付けているが…頼んだよ」
「お任せ下さい!しっかりお役目を果たしてきます」

一礼すると、9代目も頷いて返してくれた。部屋をあとにして、真っ先に庭へ向かう







◆◆◆ ◆◆◆






『空が青いなぁ…』

庭の芝生に寝っころがって、青くて広い空を眺めていた。時々、太陽を雲の影が過ぎる



『家光さん達は何であんな忙しそうなんだろ。バジルはあんな事言ってたけど…やっぱり気になるよなぁ…』

少しでも力になりたい。今までみんなの役に立とうと修行してきたんだから…

身体を起こして、未だに来ないバジルにやはり事の経緯を聞きに行こうと本部の方へ振り返った。が…



『Σがッ!…ぁ……ッ』

突然の首元に痛みが走り、一瞬で身体の力が抜ける。そのまま突然の事に反応する間もなく意識はそこで途絶えた






◆◆◆ ◆◆◆






目が覚めたら見慣れない天井が視界にあった

室内?
確か庭にいた筈なのに…

上半身を起こし、まだはっきりしない意識で目の前を見渡した。やはり天井だけでなく、部屋内も見た事ない造り





「ししし」
『ぇッ…誰!?』

突然背後から独特な笑い声。思わず身体が跳ねてしまった

慌てて振り向くと、金髪にティアラが乗った見知らぬ同い年位の青年が愉快そうに歯を見せて笑っている。この状況だと、警戒するのが普通だけど…何故か警戒心は芽生えなかった



「やっと起きた?俺はベルフェゴール」

『ベルフェ…ゴール?』

「ベルでいいよ」

しし、とまた愉快気にベルは笑う。目線を合わせようとしたが、金髪の前髪が完全に彼の瞳を隠している

目線…合ってるのかな…



「どした?」
『ぁ…いえ、何でもないです…』

「何で敬語?俺とは1つ違うだけじゃん」

1つ違い…って事は14歳位なのかな。何故に敬語か問われても…初対面でしかもどういう人なのか分からない以上、敬語で喋るしかないと思うけど…



『初対面だから…』
「もうお互い名前知ったから初対面じゃなくね?俺、堅苦しいの嫌いだから普通に話せよ」

『お互いの名前って…私の名前ッ…』
「霧恵沙羅」

即答されたのに思わず名乗ろうとした言葉を飲み込んだ



「だろ?」

名前を名乗っていないのに、既にベルは知っている。一気に困惑してしまう

何で…
前に会った事があるとか…っていやいや、それはない
こんな目立つ人を忘れる訳ない



「お前の名前は知ってるよ。虹の守護者だって事も。闇の守護者だって事もね」

そう笑顔で口にしたベルに一瞬で悪寒が走った。力を知ってる…あたしがボンゴレの守護者だって…

この世界で虹と闇の力を持っている事を知っている見知らぬ人に拉致られた…って事は非常にマズいのでは…

利用する為…
この人も…あいつ等と同じ…なの?

あの白衣姿の男共の姿が頭を掠める。その瞬間、自分でも驚くほどどす黒い感情が湧き出し、吐き出さんばかりに鋭くベルを睨んだ。一方のベルは睨まれて一瞬キョトンとするも、またさっきの笑みに戻った



「そんな睨まなくても大丈夫だよ。俺達・・は沙羅を利用とかそういう理由で連れてきた訳じゃねーから」

『でも…力の事…』

「知ってるけど力が目的じゃねーの。ただ単に仲間にしたかっただけ」

変わった人だ。力が目的じゃないなんて…
でも何処から私の事を知ったのだろうか。ボンゴレのみんなは私の事が漏れない様に気を配っていたらしいのに…

そういえば俺達・・って言ったよね
他に仲間がいるのかな



『ベルには仲間…いるの?』
「いるよ。あと4人。ボスだっているし」

『ボス?』
「あ、因みに沙羅拉致作戦を提案したのはボスだから。まぁ、目つきは悪いけど沙羅には危害は加えない筈だから心配しなくて良いよ」

仲間もボスもいるのか。何処のファミリーなのだろうか。そこら辺のファミリーより強いっていうのは雰囲気で分かるけど…



「しし、すぐに警戒するなとは言わないけど大丈夫だから安心しな」

そう笑顔で言われ、頭を撫でられた。手からベルの温もりを感じて安心したのか、思わず口元が緩んだ


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