始まり






2年後、私は15歳になっていた。最初の頃はやっぱり9代目達の事が気になって、肌身離さず持ち歩いていた緊急連絡用の連絡先を利用して何とか連絡を取れないか試そうとしたが…




『誰もいないよね…』

夜、自室の外を確認して、誰もいないのを確認し、部屋にある電話に手を掛けた


「待って、沙羅」

いる筈のない声に身体がはね飛び、慌てて辺りを見渡した。すると、頭上で何処からか霧が漂う


『マーモン…』

姿を現すと、マーモンは目の前まで飛んできた



「悪い事は言わないから、今やろうとした事はしない方が良いよ」

『…此処にいるのはXANXUSの指示?』
「違うよ、僕の独断さ」

君は遅かれ早かれそうすると思ってたから、とマーモンは続ける。でも止められたのに納得はいかない。拉致をしたとはいえ、身内は身内なのに何でそこまで気を配ってまで阻止しようとするのか…



『おかしいよ、何でダメなの?ベルが言ってたけど、ヴァリアーはボンゴレに属してるんでしょ?』

「そうだよ」

『身内に何でそこまでする必要があるのか…ずっとそれだけが気になってるんだよ、マーモン』

大人しくヴァリアーに入隊して数日は経ってしまったけれど、一向に誰もそれに関してだけは教えてくれない。みんな口々にお前は気にするな、の一点張りだ

不安が残るばかり…



「僕からその内容は伝えられない。ボスから口止めされてるしね。でも、だからってボスに直談判っていうのもオススメしないよ」

結局教えてもらえないんだから、とマーモンは私の肩に乗っかった



「沙羅、これは君を仲間だと思って言ってるんだよ」

『マーモン…』

「いくら沙羅でも、これ以上口を挟んだら何をされるか僕にも分からない。それくらい此処は危険な場所なんだ。命の保証なんて何処にもない」

マーモンはフード越しからではあるけれど、私を見上げて頬を軽く叩いた



「沙羅はアルコバレーノの話を聞いても、こんな惨めな姿になった僕に同情しないでくれた。だから僕は君とは素直に付き合えるし、仲間だとも思える」

僕が他人に干渉するなんて珍しいんだよ?、とマーモンは再び空中に浮かんだ


「君が危険な目に合うのは…嫌だな…」





顔は見えないけれど、何処かしょんぼりしたマーモンは今でも覚えてる

あんな風に言われたら…しかも付き合いは他のどの幹部よりも長い分、マーモンの気持ちを裏切っている様な気がしてきてしまう

確かにマーモンは人に興味を見せないから、私もそれほど仲良くなっていないのかなと勝手に思っていた所もあるけれど、マーモンがまさかそう思っていてくれたとは。知ってしまえば、もう私は受話器を取る気にはなれなかった


あれから9代目との連絡は諦めた。いや、身内という所で何処かで不意に接点があるかもしれないという期待は残っていたものの、何も起きずにこの2年で守護者というより暗殺者としてすっかりヴァリアーに溶け込んでしまった

右手の中指のリングを見る度に罪悪感にも似た気持ちになるけれど、今の私には何も出来ない。もしかしたら9代目も既に私を諦めているかもしれない、なんて勝手に自傷気味になってしまうが、敢えて考えない




そんなこんなで何とか生きている私の知らぬ間に、周りでは何かが動き始めていた

非番の為、手合わせしてもらおうとスクアーロの姿を捜し回っていた。何故かスクアーロが1番修行に付き合ってくれるから、自然に修行=スクアーロと勝手に認識してしまっていた



『何処行ったんだろ』

さっきから捜し回っているのに、スクアーロは何処にもいない。XANXUSの部屋でまたイジメられてるのかな、と苦笑しながら来た道を戻ろうとした時、目の前の部屋の扉が開いた



「あ゙ぁ?何やってんだ?」

『あ、スクアーロ…何で此処に…』
「それはこっちのセリフだ。俺の部屋の前で何突っ立ってんだよ」

改めて辺りを見渡すと、やっと気付いた。此処はスクアーロの部屋の前の廊下で、私のよく知る所ではないか。スクアーロの姿ばかり捜して周りを見ていなかったから、気付かなかった



『見つかって良かった』
「何だよ、俺を捜してたのか?」

『さっきっから捜してるのに全然見つからないから…またXANXUSにイジメられてるのかなぁって』
「なッ…大きなお世話だぁ!」

『だよね、ごめんごめん。手合わせしてもらおうと思ってさ』

腰に掛けていた剣を見せながら言う。すると、スクアーロはため息を吐いて、やれやれといった表情をした


『何、その嫌そうな顔』
「お前ホントに人の言う事聞かねぇな」

スクアーロがそう思うのも、ここ最近、沙羅は手合わせだの修行だの技を教えてだの暇さえあれば申し込んでくる。休め休めと念を押しても聞かない。それに少しばかりスクアーロは困っているのだった



「身体いてぇんだろ?傷、治ってねぇじゃねぇか」

スクアーロは前回の修行の際に頬に負った切り傷に触れながら言った


『痛ッ!』
「あ、わりわりぃ」

『任務や日常で不便してる訳じゃないから、こんなくらいで怪我人扱いしないでよ』

ムスッと口を尖らせる沙羅にガキかこいつは、と思うが実際の沙羅の年齢を思い出し、スクアーロはまた浅くため息を吐いた

こうも頑固にくると引かない事はこの2年で1番理解しているスクアーロは観念してため息混じりに沙羅の頭に手を置いた



「明日はぜってえに身体休めろよ?」
『うん!ありがとう!』





◆◆◆ ◆◆◆






鮫特攻スコントロ・ディ・スクアーロッ!」

辺り構わず高速で周囲を切り刻んでくる鮫特攻スコントロ・ディ・スクアーロ。私がスクアーロの持ち技の中で1番苦手な技。うわぁと思ってる暇なんてなく、此方も剣でランダムに振ってくる刃先を受け止める。が、さすがに罅が入りそうだったからか、咄嗟に片手で炎を吹き出し、数メートルの間合いをとった




「俺の技の合間に距離を取るとは成長したじゃねぇか!」

『そもそも剣帝倒した技使うなんて反則も良いところじゃん!』

「何なら今日はその剣もぶっ壊してやろうと思ってたんだがなぁ!」

愉快そうに笑うスクアーロに冗談じゃない、と冷や汗を出した。以前までは峰で手合わせしてくれたというのに、今日に至っては完全に刃の方で斬り込んで来た。近い内に本当に有言実行されそうで怖い



「今日はこれくらいにしといてやるよ!次の手合わせまでにもっと反射神経磨いておけよ!」
『ぁ、ちょっと!まだッ…!』

じゃーな!、と勝手に手合わせを強制的に終わらせて、私の呼び止めに構わず、スクアーロは足早に邸の中へ駆けて行ってしまった





◆◆◆ ◆◆◆





『スクアーロ帰ってこないじゃん』

あれから部屋に戻る際、偶然鉢合わせたレヴィにスクアーロが何処に行ったのか聞けば、どうやら日本へ向かったらしい。何故かを聞こうも気にするな、と返される。レヴィは嘘を吐くのが苦手なのか、明らかに表情で何かを隠しているのは分かった

1日経っても一向にスクアーロは帰って来ないし、何故か気持ちが落ち着かないせいか、いても立ってもいられず、部屋を出た。窓の外はもう暗く、青白い月が浮かぶ夜更け



「沙羅」
『ん?』

通路を歩いていると、背後からベルに肩を掴まれた。いつもならここであの独特な笑い声で笑顔を向ける筈なのに、何故か今日はその笑顔がない



「ボスが幹部全員を大広間に召集してっから、沙羅を捜してたんだよ」

『召集?でもスクアーロがまだッ…』
「スクアーロ待ってたの?あいつならもう戻ってるよ。任務は成功したって言ってたけど、どうだかね」

任務って…何の任務?

まぁ成功は成功だから、本当は喜ぶべきであり、安堵するべきだが…何故かその気にはなれなかった。その後、ベルに連れられて大広間に向かえば既にスクアーロ以外の幹部が各椅子に座っていた

重々しい空気。夜だから尚更になのか、みんな一言も発さない




「お呼びかぁ、ボス!」

重々しい空気とは裏腹に勢い良く扉を開けたのはスクアーロ。その時、XANXUSの目が鋭くなったのに気付いた。それに気付かず、スクアーロはXANXUSに歩み寄る



ガツンッ!

スクアーロが目の前まで来た直後、XANXAUはスクアーロの頭を鷲掴みにし、机に叩きつけた。衝撃音が響いき、つい私も状況反射で身体が跳ねてしまった


「なッ、何しやがるッ!」

頭を押さえながら怒鳴るスクアーロに表情1つ変えないXANXUSは机に置かれたリングを1つ摘まんだ。特に気にしていなかったけれど、よく見るとそれは見慣れたものだった

あれって…ボンゴレリング…!?
確か9代目が持ってる筈…
何でXANXUSの手元にッ…



「フェイクだ」

XANXUSの摘まんだボンゴレリングは脆くも粉々に砕け散った


「偽物!?」

スクアーロが無惨に粉々になったリングを見て唖然とする中、XANXUSは立ち上がり、一言言う



「日本に経つ。そして、奴らを根絶やしにする」

今までにない殺気。さっきのリングについての疑惑が頭を駆け巡るが、その殺気を感じて何も言えない

奴らって誰?
スクアーロの任務がもし…もし9代目からのボンゴレリング奪取だったとしたら、奴らって…


「沙羅」

名を呼ばれて見上げた先のXANXUSの表情を見て、思わず顔が強張った。憎しみなのか、怒りなのか分からぬドス黒いモノがXANXUSを覆っている様に見える


「お前も来い」

流されるまま頷いてしまった。勿論、反論するつもりだったが、やはりXANXUSの放つその殺気に逆らえなかった






◆◆◆ 数日後 ◆◆◆







スクアーロの襲撃から数日後、並盛ではある戦いが幕を上げようとしていた。ボンゴレ10代目沢田綱吉率いるボンゴレファミリーとXANXUS率いる独立暗殺部隊ヴァリアーが対面していた。対面と言っても、そんな和やかなモノではなく、寧ろヴァリアー側の一方的な殺意剥き出しの空間での睨み合いである

今にも戦いが始まりそうな時、沢田綱吉の父であり、門外顧問機関CEDEFチェデフのボス、沢田家光が9代目のメッセンジャーとしてやってきた

そして、家光は9代目からのメッセージを伝え終えると、話を切り出した



「皆が納得するボンゴレ後任の決闘をここに開始する。ボンゴレ後継者候補、沢田綱吉!同じく後継者候補、XANXUS!2人が正当な後継者となる為に必要なボンゴレリング、その所有権を争って、ツナファミリー対ヴァリアーの…決闘だ!

「けッ…決闘!?」

突然の父の言葉になんて事を言い出すのか、と動揺を隠せなかった

決闘なんてほぼ俺には皆無だし、こんな平然と人殺してそうな物騒な人達とどう戦えなんてッ…



「後は指示を待つだけだ」

「お待たせしました」
「今回のリング争奪戦では、我々がジャッジを勤めます」

家光の言葉を見計らったかの様なタイミングで何処からか現れたのは同じ顔をしたピンク色の髪の女性2人組。表情はなく、まるで人形の様な人達だ



「我々は9代目直属のチェルベッロ基幹の者です」
「リング争奪戦において我々の決定は9代目の決定だと思って下さい」

チェルベッロ達の手には、ある一枚の紙。あれにも先程両方に配られた9代目からの手紙と同じく、私怨印として死ぬ気の炎が灯っていた

チェルベッロ達はリングの所有権のことについて淡々とセリフを読む様に説明した後、争奪戦が行われる場所と時間を告げた



「場所は深夜の並森中学校。詳しくはおって説明します」

「尚、ヴァリアーに所属されている虹の守護者の方は既にリングを所持しておられる為、争奪戦には参加出来ませんので、悪しからず」

チェルベッロ達が虹の守護者・・・・・と言った瞬間、沙羅の存在を知る家光、バジル、リボーンは耳を疑う様にチェルベッロ達を見た

一方のツナ達は見知らぬ属性に揃って怪訝気味な表情を浮かべた。そんな各々の反応に構わず、チェルベッロ達は続ける




「それでは明晩11時、並森中でお待ちしております。さようなら」

最後まで感情のない口調でそう言い捨てて、チェルベッロ達は消え、XANXUS率いるヴァリアーの面々もツナ達の前から去っていった




「なッ…なぁ、リボーン。虹の守護者って…」
「何でもねぇ。帰るぞ」

リボーンは問いに答える事なく、足早に坂を戻っていった。それに慌ててツナ達も着いて行く。その一行の姿を見送りつつ、坂の上で家光とバジルは表情を曇らせていた


「親方様、チェルベッロ達が言ってた虹の守護者って…もしかして…」

「あぁ…沙羅の可能性はあるな」

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