出会い






ある日の深夜。森の中にひっそりと佇む1つのマフィアのアジト。人体実験を主な活動目的としているマフィア【カリストファミリー】

そのアジト内では、血なまぐさい匂いが籠り、生々しい肉を殴る音が響いていた



『ぁ…え…?』

夢から覚めた様に真っ暗だった視界が開けた。足元や周りには白衣姿の男達が大量の血を吹き出しながら倒れている

全員…死んでる…?



『私が…やったの…?』

未だに頭の整理がつかない。全くと言っていい程、何も覚えていない。何故自分がこの死体の山の真ん中で佇んでいるのか…

辺りを見渡す。普通の人だったら確実に気を失ってしまうのではないかというくらい残酷な景色

首のない者もいれば、ズタズタに引き裂かれ、何処が誰の一部か分からない肉片がそこら中に散らばっている。そんな光景の中でも平気なのはきっと、それに関しての神経が麻痺しているからだろう



『こんなのも…いつの間に…』

手元を見れば、これも見に覚えのない血まみれの鉄パイプが。でも、これでこいつらを殺したのは間違いない。多分そこら辺のを拾ってそのまま…

はっきりとしてきた意識の中で、再び転がっている死体を眺めた。完全に瞳孔が開いている瞳には何も写らない。どんなに殴っても反動で身体が動く、中身の無い人形と同じ…ただの肉片になっていた


暫くぼーっと何も考えずに足元を見下ろしていると、反射的に顔を上げた。今確かに微かだが、砂利を踏みしめた音が聞こえた

気配のする方へ身体を向けて、鉄パイプを構える。これでどうやってここまでの事を出来たのかわからないけれど、構えずにはいられなかった。今ここではこの鉄パイプだけが頼りなのだ

奥の暗い影になっている通路から徐々にその足音は近付いてくる。そして、その足音の主が月明かりで照らされたこの部屋に姿を現した




「これは君がやったのかい?」

現れたのは瞳に綺麗で何処か優しい光を灯した見知らぬ白髪の年配男性。知らない人間を前にして、一旦鉄パイプを下げた



『誰ですか』

表情1つ変えずに問うと、男性は何かを感じ取った様に目を細めた



「私はボンゴレファミリーというマフィアの9代目ボスを勤めている者だよ」

マフィア・・・という言葉に最早本能的になのだろうか、下ろした鉄パイプをボンゴレ9代目、と名乗るその男性に再度向けた

あんなに綺麗な瞳をしてるのに…マフィアなんだ…



『またマフィア…ですか。そのボスがこんな所に何の用ですか?新しいモルモットでも…探しに来たんですか』

割れた窓ガラスから射し込む月明かりが、血で赤く染まった沙羅を照らす。明かりを反射して光る筈の瞳は、まるで暗い暗い闇だけを見据えている様に何も反射していなかった



「私は助けに来たんだ。ここに捕らわれている子達を」
『助けに…』

その言葉に思わず浅くため息を吐いて、足元に転がる生首を踏み付けて男性を睨み付けた



『今更助けに来ても…もう遅いです。あたし以外の子達はみんな…こいつ等に殺されましたから』

沙羅はそう言いながら、9歳とは思えない程の殺気に満ちた鋭い瞳で足元に倒れている男達を睨み下ろし、再度生首を踏み付けた



『こいつ等は殺されて当然なんですよ。こいつ等の身勝手な欲望の為に…何人もの子達が殺されていったんですから』

沙羅は憎しみに顔を歪ませながら、生首を蹴り飛ばす。肉が無造作に飛び散る生々しい音を発してその死体は血溜まりの上に落ちた



『私だって…死ぬ筈だったのに…』

ふいに割れた窓ガラスから見える青白い満月を見上げた。日に日に牢獄から1人連れて行かれ、その子が戻ってくる事は決してない

いつ殺されるかも分からず怯えながら…泣くことも許されない地獄の日々が頭を掠めていく。ヒドい脱力感と空虚感だ

自分の血で染まった手を前に翳して目を細める。一体何をしているのだろうか。誰が見ても今の私はただの死に損ないに過ぎない

いっそ…死んでいたらどんなに楽だったんだろう



「帰る所はあるのかぃ?」

今の私には酷く無意味な問い掛けに感じ、思わず小さく笑ってしまった



『そんな所…ある訳ないじゃないですか。こいつ等を殺した時点であたしの居場所は無くなりました』

居場所でもなかったですけど、と言うと9代目は一歩前に出て信じられない程和やかな口調で言った




「私と一緒に…来ないか?」

呼吸が一瞬止まり、耳を疑った。確かにこの男性は一緒に来ないかと聞いてきた。動揺したが、悟られまいと目を合わさずに口を開いた



『何でそんな事言うんですか?貴方もこいつ等と同じで…私を物としか思っていないくせに』

マフィアは騙しの世界。裏切り、欲望、利用、他にもたくさんのどす黒い感情が渦巻く世界だと、私は知っている

最後は結局捨てられるのだ
だったら…最初っから拾われない方が良い



「私は君を道具だなんて思わない。君だって私と同じ人間なのだからね」

それを聞いた途端、隠していた動揺とそんな言葉をあたかも当たり前の様に言った男性への苛立ちで思わず声が溢れた



『この長い間で私を人間として見てくれた人はいなかったッ!モルモットだの凶器だの言ってッ…そんな私が初めて会ったお前のその言葉だけで信じると思うのかッ!馬鹿にするなッ!私の目の前から消えろッ!』

信じないッ…信じないッ!信じないッ!!

頭を抱えながら首を左右に振り、何度も死ね死ねを連呼する沙羅は9代目を拒否し続ける

9代目は悲しそうに眉を下げ、ゆっくり立ち止まらせていた足を沙羅へ向かわせた。一方の沙羅は更に近付く足音に恐怖を感じた。その頭には殺されるという本能だけが叫んでいる


逃げ…なきゃ…
でも…身体が動かない…

どう心で足掻こうが、人間はいざとなったら恐怖で身体なんて言う事を聞いてくれない

ここで…死ぬッ…

諦めにも似た覚悟で無意識に目を強く瞑った。こんな人生だったんだ。せめて最期くらい…楽に死にたいッ…



『…ぇッ…』

いつまで経っても覚悟していた痛みは…来ない

固く閉じていた目をゆっくり開ける。目線の先には男性の靴。恐る恐る顔を上げようとした直後、頭に何かが乗っかった。それは…目の前の男性の大きな手

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