大空戦






邸から出た後、ハイパー化して上空を移動していた。争奪戦が行われている並盛中学校の場所は教えられていない。聞いたのは外部からチェルベッロ達が幻覚で戦いを見えなくしているという事だけ

爆発とか炎とか見えやすいモノがあれば良いのだけれど、こんな日本の町でそれをやってしまう訳にもいかないんだろう。大空戦は今どのくらいまで進行してしまっているのか若干焦りを覚え始めた時、何やら病院らしき所で何か揉めている声が聞こえた

そこ付近まで移動すると、上空からでも分かる見知った隊服の男達数人と1人のピンク色の髪の女性が睨み合っている




「ヴァリアー隊がこんな所にまで来るとは、驚きだわ」

「退けッ!始末されたいかッ!」
『何してるの?』

誰だッ!、と振り向いた直後に銃口を指揮を執る男の背中に当てた。見るからに十数人いるその隊服の男達は見た通りでやはり部下達だった。後ろにいた事に気付いていなかったのか、突然の私の姿に他の部下達も此方に振り向いてどよめいている



「沙羅様ッ!?何故此処に…」
『女性相手に何してるのかって聞いてるの』

相手の女性は両手に見るからにヤバそうな煙を纏った食べ物らしきモノを持っている。明らかに一般人ではないのを考えると嫌でも此処に何故部下がいるのか分かってしまった



『まぁ…どうせXANXUSの差し金なんでしょ?』
「そ、そうです…この争奪戦に関わったモノを全て排除しろとの事で」

その内容にピキッと青筋が立つのを自分でも感じた。けれど、此処で感情的になる訳にいかない



『貴方達は此処からすぐに撤退して』

「そ、それはなりませんッ!いくら沙羅様といえどッ…!」
『早く』

これ以上言わせんと当てていた銃口を更に押し付けながら言う


「わ、我々を脅すのですか…?」
『脅しじゃないよ。命令』

指揮者は命令なら仕方ありません…と諦めて足早にそこから立ち去っていった。ヴァリアーの掟の1つである幹部命令には絶対というのに少し救われた。此処でもめてる場合じゃない

部下達が立ち去った後には女性と私しか残らず、急に辺りは静まった



「貴方…何者なの?」
『部下が失礼しました。貴方はさっきの現状を見るに沢田君の関係者ですか?』

私の質問にそうだけど…と女性はずっと私を不信げに見つめている


『そうですか。失礼ですが、此処から並盛中学校の道を教えて頂けますか?』

女性は私に敵意がない事に気付いてくれたのか、特に嫌がる素振りをせずに教えてくれた。ありがとうございます、と一礼して早々に去ろうとしたが、呼び止められた




「貴方…さっき沙羅って呼ばれていたけど、まさかリボーンの親友の子かしら?」

『…霧恵沙羅です。確かに親友です…けど、今の私をリボーンが受け入れてくれるかは分かりません』

失礼します、と背を向けたままそれだけ言って駆け出した。あまりこの状況で、まだ不安定な立ち位置で私の口から親友というのは身勝手な気がした。まだ戦いが終わっていない今、私はリボーンの敵側であるのに変わりはないのだから…






◆◆◆ ◆◆◆





暫くすると、中学校らしき建物が見えてきた。念の為息を潜ませながら近付き、校門で学校の標識を確認出来た。やっぱり此処が並盛中学校だった

本当に外部から見れば静かな深夜の学校。だが、1歩中に入れば突然騒音や爆音が耳に飛び込んできた。裏手なのか建物越しから黒煙しか見えない

とりあえず慎重に建物を伝って音のする方へ。だが、駆け付けた時に眩しい光で視界が眩んだ




『何ッ…』

咄嗟に建物の陰に隠れて光のする方に目を凝らすも、眩しすぎて見えない。すると…



「これで俺はボンゴレ10代目にッ!」
『ぇ…』

XANXUSの声だった。あの言葉にこの光…まさか沢田君が敗れてリングがXANXUSの元にッ…

駆け出そうとした瞬間、光が急激に弱まり、また物陰に隠れて様子を伺うとXANXUSが地面に倒れたのが見えた。慌てて駆け寄るマーモンとベル

向かい側には沢田君だろうか、それらしき人物が倒れており、その後ろに守護者達もいる。一瞬何が起こったのか分からないし、今も何か話している様に聞こえるけれど、こんな遠くじゃ聞き取れない


一先ずもう少し近くまで移動しようとまた気付かれない様に建物を伝って走る。と、その時だった




〔お前の裏切られた悔しさと恨みが…俺には分かる〕

思わず足が止まってしまった。突然聞こえた声。何かを通して放送の様に聞こえるその声の主はすぐに分かった



『スクアーロ…?』

死んでしまったと思っていたスクアーロの声だった

生き…てた…?
死んでなかった…?

鼓動がうるさい。嬉しさと安堵感が一気に襲ってきて、泣きそうになったけれど、ぐっと堪える。泣いてる場合じゃない。スクアーロの話を聞きながら移動する

話す内容は私がXANXUSから生い立ちやゆりかご事件といった聞いた内容のスクアーロ視点のモノだった

XANXUS達のすぐ真上の屋上まで飛んだ所でスクアーロの話は終わった。任務用の小型の望遠鏡で真下の様子を伺う。何処かでXANXUS達の声も反響しているのか、此処まで近付けばその話す内容は聞こえてきた



「9代目がッ…9代目が裏切られてもお前を殺さなかったのは…最後までお前を受け入れようとしてたからじゃないのか…?9代目は誰より…お前を認めていた筈だよ…」

その言葉に目を見開いた。沢田君の考えと私の考えが一致していたのもそうだけれど、あそこまでボロボロにされた相手に対してそんな優しい言葉を掛けるとは思ってもいなかったからだ

雷戦で仲間を助けたのを聞いた時から沢田君の印象は付いていたけれど、目の前で実際に目の当たりにすると、ますます9代目に似ている


「9代目は…お前の事を本当の子供の様にッ…」
「うっせぇッ!」

沢田君の言葉にXANXUSの怒鳴りが被った



「気色の悪い無償の愛などクソの役にも立つかッ!俺が欲しいのはボスの座だけだッ!カスは俺を崇めてれば良いッ…!俺を讃えてりゃあ良いんだッ!」

ズキッと何故かXANXUSの言葉に胸が苦しくなった。今怒鳴っている彼の姿はいつもの余裕そうな…冷酷な雰囲気ではなく、ただただ痛々しいという言葉が合う

そして、咳き込むXANXUSの指から何かが外れ落ちた。それは大空のボンゴレリング。リングを見て直感した。さっきの光はリングからのモノだった事、そして…XANXUSはリングに拒絶されたのだと…



「XANXUS様…ッ!」
「あなたにリングが適性か、協議する必要があります」
「黙れッ…!叶わねぇなら叶えるまでッ…邪魔する奴は消し去ってやるッ!」

チェルベッロの止めの言葉も聞かずにそう豪語するXANXUS。ベルもマーモンもその発言に乗り気で、最早退く様子はない。見た感じまだ戦いは終わっていない様に思えて、割り込むのにも躊躇してしまう




「お待ち下さい!対戦中の外部からの干渉を認める訳には…」
「あぁ?知らねぇよ」

「しかしッ…!」
ズバッ!

ぁ、と思わず声が漏れてしまった。ついには中立の立場であるチェルベッロの1人をベルがナイフで斬り付けてしまった。最早ルールも何もなく、ベル達が言うには精鋭部隊がもうすぐ此処へやってくるという

チェルベッロに失格と見なされてもお構いなく、沢田君達を始末しようとしている。もう失格なら躊躇う必要ないか、と屋上から飛び降りようとした直後…




「暴蛇烈覇ぁあッ!」

突然激しい風が校舎内から吹き荒れ、丁度やってきた精鋭部隊であろう部下達を吹き飛ばした。慌てて望遠鏡で確認すると、見知らぬスーツ姿の男性が大きな鉛の付いた鎖を持って立っている



「取り違えるなよぉ、ボンゴレ。俺はお前を助けに来たわけではない。礼を言いに来た」

「らッ…ランチアさんッ!?」

顔を見ても知る訳がなく、望遠鏡を投げ捨てて止めていた足を踏み出して飛び降りた



「おい!誰か飛び降りたぞ!」
「ヴァリアーの隊服ッ…新手か!?」

いち早く気付いたのは沢田君側の刀を持つ人と白髪はくはつの人。私の服装がベル達と同じであるのに気付いて、着火したダイナマイトを投げ付けて来た。距離的に届かない筈だけれど、普通のダイナマイトではなく、仕込みされているモノなのか更に火がつき、迫ってくる

銃を構えて照準を合わせながら数弾撃つと迫ってくるダイナマイトに命中。空中で爆発した。沢田君側がどよめいているけれど、黒煙のせいでよく見えない



「かっけー」
「そんな呑気な事言ってる場合じゃないでしょ」

そのまま着地するとすぐ傍にいたベルとマーモンが私の存在に気付いて歩み寄ってきた



「何故来たんだい、沙羅。ボスにも強く言われていたのに」

『うん…でも、後悔したくないから』

銃をしまいながら一先ずXANXUSが倒れている所へ。最早マーモンとベルは止める訳でもなく、黙っていた

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