新たな景色
あ
あ
あ
ヴァリアー邸に戻り、早速リボーンに連絡する為に自室の電話をとった
〔ちゃおっス〕
数回コールが鳴った後にリボーンのお馴染みの挨拶が聞こえてきた
〔お前から連絡が来るって事はディーノに会ったのか?〕
『うん、会ったよ。9代目にも会った』
〔その様子だと、ちゃんと話はついたみたいだな〕
受話器越しのリボーンは微笑んでいるが、一方の沙羅は一言しか話してないのに何でそこまで分かるのか若干怖いわと思って苦笑した
『それにしても日本に来て欲しいってどういう事?頼みたい事っていうのも気になるし…』
〔まぁ詳しくはこっちに来てからだ。俺も直接お前と話したい事もあるしな〕
そのまま内容は明かされないまま、いつ頃来れるのかの相談をした。ヴァリアーに処分が下らない時点で早くても明日には活動を再開させるだろう。XANXUSが眠っている間は戻ったスクアーロが代理を務めるだろうし…
〔因みにだが、沙羅〕
『何?』
〔お前、大空戦の時にビアンキに会ってるだろ〕
『ビアンキ?』
聞けばピンクの髪の女性である特徴に加えて、あの病院の名前を言われれば、誰の事を言っているのはすぐ分かった
『その人がどうかしたの?』
〔ビアンキに俺の親友か尋ねられただろ〕
『……うん…』
少し反応するのに躊躇してしまった。受話器を握る手に無意識に力が入る
〔俺がお前を受け入れないと思ったのか?〕
『確かに親友です…けど、今の私をリボーンが受け入れてくれるかは分かりません』
あの時何て答えたか覚えてる。でもあぁやって言うしか出来ない状況だった。ヴァリアーとしていた私が…
『言える筈…ないじゃん…』
ボソッと本音を漏らしてしまった。受話器越しは静かで、暫くの沈黙もいたたまれなくなり、言葉を続ける
『私はリボーンの事親友だって思ってる。けど…あの時の私をリボーンが受け入れてくれるか分からなかった…また…親友になってやるって言ってくれるか…自信がなかったんだよ…』
受話器がミシッと軋んだ。リボーンからの反応が怖くなってしまう。が…
〔そんな分かりきってる事をいちいち気にしてんじゃねーぞ〕
お前は一生俺の親友だぞ、と続けて言われた言葉に目を丸くしてしまい、すぐに反応出来なかった
〔心配すんな。お前が道を踏み外した時はぶっ飛ばしてでも連れ戻してやるぞ〕
『ぇ…はは、リボーンにぶっ飛ばされたら死んじゃうって』
思わず小さく笑ってしまった。彼なりに気遣っての言葉なのはよく分かるし、かと言ってリボーンは有言実行派の人なのもよく分かってる。きっと私が実際に踏み外した時は容赦なくぶっ飛ばすのだろう。でも…それがリボーンの優しさでもある
〔お前は胸張って俺の親友だと豪語しておけ〕
『うん…リボーンが私の事、親友だって豪語出来る様にもっと強くなるね』
それは楽しみだな、と声色で受話器越しからでもリボーンが笑っているのが想像出来る。じゃあまた、と通話を切り、暫く受話器を見下ろす
「お前は一生俺の親友だぞ」
『ホント…カッコイイよね。リボーンは』
小さく微笑んで、受話器を置いた。何処かに残っていたモヤモヤが消えた様にすっきりした気がする
◆◆◆ ◆◆◆
「暇過ぎなんだけど」
あれから何日か経ったある日の夜更け。数日前からヴァリアーは活動を再開させ、それに伴って任務漬けの日々を送っていた。今日はベルと共にある組織の情報収集の為に隠密作戦を実行中なのだが…
『ベル、集中しなって』
「活動再開させてからこういう任務ばっかで王子暇なんだけど」
隠密作戦なだけあり、敵に見つからない様にして戦闘は出来るだけ避けている。確かに同じ様な任務が多いけれど、これもこれで立派な暗殺する上での下調べである
『争奪戦と謹慎期間の間で動きのあった
「分かってるけどさ、やっぱり暇じゃん?」
通常なら部下が下調べを行い、暗殺の実行を私達幹部が引き受けていたのだけれど、争奪戦や謹慎期間があったせいか作業が追い付いていない。だから私達幹部もこうやって下調べを行う羽目になっているのだけれど、争奪戦の責任を感じている事もあって、隣で不貞腐れてナイフを指先で遊ばせているベルを宥めながら任務を続ける
「ところでさ、沙羅はいつ日本に行くか決めたの?」
『あぁ…んー…XANXUSが目を覚まさないと行くに行けないというか…』
引っ掛かりが残ったまま行くのは少し気が進まない。スクアーロからは早く行った方が良いのではないかといつも勧められるけれど、何故かその時には必ずXANXUSが頭にちらつく
「沙羅ってボスに歯向かう割に気に掛けてんだな」
『いや、だって…終わり方があんな感じだったからね』
小型望遠鏡で
あのまま…XANXUSが復讐心を増幅させたままボンゴレのボスになっていたら…きっと彼は何処かで壊れてしまっていたと思う。沢田君が勝ってくれたおかげで歯止めが効いたのだと、今は強く感じていた
改めて思い起こしていると、何やら視線を感じる。望遠鏡から不意にベルへ視線を向けると、やはり彼が此方をじっと見ていた
『どうしたの?』
「沙羅って、ボスの事好きなの?」
『…は?』
突拍子もない事を尋ねられたせいで間の抜けた返事をしてしまった
「嫌い?」
『え、ちょ、待ってよ。分かんないよ』
好き嫌いなんて考えてなかった…というか、考えられる相手じゃなかった。だってあのXANXUSだよ?
『私がどうこうより、そもそもXANXUSに恋愛感情なんてあるの?』
「さぁ、どうだかね。それは俺にも分からねぇな。何なら女なんて欲求不満を解消させるだけとしか思ってなさそうだし」
XANXUSは何人も愛人がいる。その中のほとんどは身体の関係だと聞いた事はある。実際見た事はないけれど…
「俺は好きだぜ?沙羅の事、女としてさ」
『え、あ…ありがとう…?』
「何で疑問形なんだよ」
『いやだって…恋愛とかよく分からんないし…』
ベルは私のそんな歯切れのない答えでも歯を見せて笑い、私の頭を撫でながら沙羅らしいかも、と何故か愉快そうだった
◆◆◆ ◆◆◆
無事任務が終わり、邸に帰ってベルの部屋で報告書を書いていると…
「なーんか、外うるさくね?」
『確かに』
走らせていたペンを止めて、2人でドア越しから廊下を覗き込んだ。すると、何やら部下達が慌ただしく行き来しているのが見えた。その部下達に混ざって同じくあわあわした様子で部屋を横切ったレヴィに気付き、咄嗟に声を掛けた
『レヴィってば、めちゃくちゃ汗かいてるけど大丈夫?』
「元々のキモさに相まって増してキモい」
「ぬぁにを言うか!失礼なガキだ!」
私達の呼び掛けに駆け寄ってきたレヴィは筋トレでもした後の様に汗を吹き出させている。毒を吐いてくるベルに息をゼェゼェさせながらも食いつくレヴィを宥めながら再度何故慌ただしいのか尋ねると…
「ついさっきボスがお目覚めになられたのだ!貴様らもご挨拶をして来い!馬鹿者!」
◆◆◆ ◆◆◆
「じゃんけんぽん!」
『あいこでしょ!』
また慌ただしく去って行ったレヴィを見送った後、ベルと部屋でジャンケンをしていた。どちらが先にXANXUSに会いに行くかを決める為だ。2人で一緒に行けば良いのだろうが、あの争奪戦の結果が結果なだけに彼の目覚めの悪さがどれほどなのか分からない
想像出来ない状況で2人で死に急ぎたくないから、負けた方が先にXANXUSの機嫌を見てくるという何とも無駄な努力だ。暫くお互い譲らずにあいこが続いたが、結局…
「グッドラック、沙羅。骨は拾うぜ」
部屋の扉前で親指を立てて笑うベルを軽く睨んで部屋を出て行った。XANXUSに会うのに普段でも緊張するのに、今この時はプラスで決死の覚悟も必要だ。彼が気を失う直前にした会話を思い出しながら重たい足を進ませる
「俺を恨んでんじゃねぇのか…」
あれは…XANXUSも気にしていたと捉えて良いのかな…
9代目を…私の命の恩人を手に掛けようとした事を…
誰からの指図も受けず、誰に何を思われようと自分の信念を貫き通すあのXANXUSがあんな言葉を吐いたなんて今でも信じられない。あの戦いを通して…彼が良い方向へ進んでくれたら良いのだけれど…
そんなこんな色々考えている内に足は進み、XANXUSのいる治療室の前までやって来た。XANXUSにうるさいのを嫌がられたのか、さっきまで廊下で慌ただしくしていた部下達の姿はなく、この部屋の周りだけやけに静かだ
目覚めない内に何回も来ているというのに、やけに緊張してしまい、すぅ…と浅く呼吸をして、扉の取っ手に手を掛けた
部屋には入らず、扉を薄く開けて中を見てみる。変わらずXANXUSがいるけれど、背凭れが上がった状態で寄り掛かって座っているのが見えた
ホントに目が覚めたんだ…なんて思っていると…
「覗き見か」
ギクッと思わず身体が跳ねた。気付かれてはこそこそしている意味なんてなく、大人しく部屋の中へ。XANXUSは私である事を知っていた様に姿を見せても平然としている
『起きたんだね』
「あぁ」
『処分の事は…』
「カス鮫から聞いた」
そっか…と返してベッドの傍にある椅子に腰掛けた。目覚めなくても怪我は順調に治っていたという事なのか、全身に巻かれていた包帯はいつの間にか取れていた
『怪我が治って良かったよ』
目覚めた事に安堵した部分もあり、口元を緩ませた。思ったよりも機嫌は悪くないみたいだし…とりあえず不機嫌の的にはされずに済みそうだ
「沙羅」
『何?』
「何故戻ってきた」
彼の視線が私に向けられた。でも、何故か今はいつもの鋭さはない様に思える
「枷が外れた今、お前が此処にいる必要はねぇだろ」
枷…
何故戻って来たかの質問に即答は出来なかったけれど、枷なんて言葉が出てきたから、それはすぐに反応した
『私が2年間ヴァリアーにいたのは…枷があったからだと思ってるの?』
XANXUSは黙ってる。図星…と捉えて良いのだろうが…
『確かにヴァリアーには攫われた流れで入隊したよ。初めて暗殺を
慣れるのは本当に自分でも驚く程に早かった。それは思った以上にみんなの人間味が濃いからだったと思う。殺伐としている所も勿論あるけれど、それに比例して優しい所もあるのだと気付かせてくれた
『枷なんて言葉使わないでよ。此処に残ってたのは私の意志…戻ろうと思えば強引にでも戻ってた。けど…そうしなかったのは…私がみんなの事、仲間だって思ってたからだよ』
9代目達と同じ様に…
『9代目と話して、私は自分の意志でまたヴァリアーに戻ってきたの。だから…』
またよろしくお願いします、と微笑みながら会釈すると、XANXUSは一瞬目を丸くしたけれど、すぐに目を逸らした
「後悔しねぇだろうな」
『しないよ』
即答して暫くの沈黙の後、そうか…とそれだけXANXUSは返してきた。私が後悔するかなんて気にするんだ…と意外な反応に思わず、ふっと小さく笑った
『あ、目覚めた所悪いけど…私日本に行ってくるね』
「あ?」
『リボーンから頼み事されてさ。知ってるでしょ?アルコバレーノの』
「知らねぇ」
本当に知らないのか、ただ単に興味がないのか分からないけれど、XANXUSの反応はそれだけだった。まぁともかくXANXUSは無事目を覚ました時点で本格的にヴァリアーは動き出すだろう
その活動前の下調べも大方片付いた事と今回ベルと就いた任務の報告もついでに済ませた。彼は終始眉間にシワを寄せた仏頂面は崩さなかったけれど、特に不機嫌そうでもないから構わず話し終えたら立ち上がった
『明日には経つよ。みんなもピンピンしてるから、私がいなくても大丈夫だと思うし』
安静にしてるように釘を刺して、背を向けて扉まで歩いて取っ手に手を掛けた時、呼び掛けられた
「用が済んだらすぐに戻ってこい」
『ぇ…あ、うん…分かった』
念を押される様に言われたからか、思わず流されるままに返事をして部屋を出た。すぐに戻ってこいか…何か必要とされている様で悪い気はしない
何処かむず痒くなり、小さくはにかんで、勝手に照れ臭くなってしまった
「何ニヤニヤしてんの?」
ハッとして声のする方に顔を向けると、そこにはベルが立っていた
『べ、別にニヤニヤしてないよ』
「してたって」
愉快そうにししし、と笑って近くまでやって来たベルを軽く睨む
「その様子だと、ご機嫌は悪くないみたいだな。ボス」
『うん…思ったよりはね。ついでに今日の任務の報告はしたけど、特に何も言われなかったし』
サンキュー、と私の頭を数回軽くポンポンと叩いたベルもXANXUSの部屋へ行こうと背を向けた。が、明日の事で呼び止めた
『明日、私日本に行くからね』
そう告げると、ベルは立ち止まって此方に振り向いた
「あー、何か言ってたよな。そんな事」
『そろそろ行こうと思って。XANXUSも起きた…し…』
ベルが何やら目の前まで引き返してきた…と思えば、急に腕を引かれて、頬を掴まれると至近距離に顔を引き寄せられた
『ぁ、え、べ…ベル?』
「目移りすんなよ?」
『え…』
「自分でこっちに戻ってきたのなら、もう沙羅は俺達のモンだから。あいつ等と馴れ合うのは良いけど…ちゃんと戻ってきてね」
ニヒルに笑みを浮かべているベルに何故か悪寒が走り、冷や汗が滲んだ。そういえば…いつも優しいけど、ベルは平気で家族とか殺した過去…あるんだよね…
陽気で笑顔で接しやすいベルだが、たまに見せる威圧感とも言えるこのオーラはいつまで経っても慣れない…
『大丈夫、ちゃんと帰ってくるから』
顔に出さずに笑顔で答えると、ベルは暫く私の顔を見つめて、当たり前じゃん、と今度はご機嫌気味に笑って解放してくれた。気をつけて行ってこいよ、と手をヒラヒラさせながら背を向けて今度こそXANXUSの部屋の方へ向かっていったベルを見送って、私もバクバク鳴っている胸を抑えて背を向けた