決意






勢いで着いてきたけど…散歩なんて珍しい

背中を見つめながら歩いていると、リボーンは庭に出てすぐの所にあるベンチに座った。とりあえず私も隣に腰掛けるが、暫くリボーンは無言だった

雰囲気がいつもと何かが違うのは何となくだけど分かる。でも何故か分かる筈もなく首を傾げて、目の前に広がる噴水や木々達に目をやる。マフィアの日常とは思えない位の穏やかさだ




「沙羅」
『ん?』

漸く口を開いたリボーンに私は軽く返事をする。すると、突拍子もない事を尋ねられた


「お前、強くなりたいと思うか?」
『強く?』

何でそんな事を聞くのか…
極めて真面目な瞳で見上げてくるリボーンからして、ただ聞いているだけではないみたい

もっと、重要な事と結び付いている様だった




『強くなんて…なりたいに決まってるよ。みんなみたいに仲間の為に戦える様になりたいってずっと思ってる』

リボーンは何やら意外だったとばかりな反応を見せる



「何でそう思う様になったんだ。お前には直接的に身の危険があった訳じゃねーだろ」

『そりゃあ…ね。私はずっと家光さんやバジル君達の本部での仕事の手伝いぐらいしか出来なくて、外の仕事はほとんど留守番だったからそういう危機感はなかった…けど…』

「けど?」

思わず語尾に力が入っていなかったが、リボーンに反復され、視線を逸らしながら続けた



『傷だらけで帰ってきたみんなを見て、何も思わない訳じゃないよ』




「こんな傷なんて平気ですよ。拙者からしたらもう慣れたモノです」

「沙羅は何も心配しなくて良いんだぞ?お前やみんながいるこの本部を守る事が俺達の仕事なんだからな。帰ってきたら、笑顔で出迎えてくれたらそれだけで俺達はまた頑張れる」


手当てを受ける家光さんやバジル君に対して私は何も出来ない。それを責める訳でもなく、2人はただ笑顔でそう言うのだ。2人だけじゃない

他のみんなも私を責める人は誰もいない。戦えずにただ安全な所でのうのうと生きている私を追い出す事もせずに優しくしてくれる。その立ち位置に疑問を持たないなんて事はなく、早くから此処にいていいのか。このまま何も出来ない人間でいいのか。そんな疑問が浮き沈みしていた



『みんなは言わないでいてくれるけど…分かってる。私が笑顔でいたとしても誰かは死ぬし、怪我だってする。笑顔で待ってるだけじゃ…みんなの為にはならないって』

戦えないと本当の意味でみんなの為にはならないって、と続けて言った。そうだ、この世界で何もせずに生きている私は無能すぎるのだ。この環境に…甘え過ぎている




『もし強くなれる方法があるなら…戦う方法があるなら教えてほしい』

「お前分かってるのか?戦いには死が付きモノなんだぞ?」

再び視線を戻すと、リボーンは何処か心配気な表情に見えたが、思わず口元を緩ませた



『私にはもう死ぬ事に対して怖さとかないんだよ、リボーン。唯一あるとすれば…みんながいなくなる怖さかな』

いつ死ぬか分からなかった地獄から救ってくれたのは紛れもなく9代目だ。そして、それからの私を作り変えてくれたのはボンゴレのみんなだ



『また人を信じられるようにしてくれたみんなだから、守りたいんだよ。その為ならこの命なんてどうでもいいの』

私は何の迷いもなく、笑って見せた。命を粗末にする様な言い方を笑顔で言える私はおかしいのだろうか。いや、おかしくない。最早この命の価値なんてみんなの存在があってこそのモノなんだから…



「危なかっかしいが、そこまで気持ちが安定してんなら問題はなさそうだな」

問題なさそう?
その言葉に首を傾げた。リボーンはそんな私を見上げながら話し始めた。私が今まで知らなかった私の事を…






◆◆◆ ◆◆◆






「これが今のお前の真実だ」

リボーンの話が終わって、暫く私は無言だった。いや、声が出せずに唖然としていたのだ

私の身体には、ファミリーのボスを守る守護者がそれぞれ持っている属性、合わせて7属性の波動が流れてる。それだけでなく、まだ解明されていない闇の波動も流れてる

思いもしていなかった。そんな力があるなんて…
いつから?どういう経緯で?そんな私に分かる筈のない考えが頭を駆け巡った




「これからお前のことを俺達が命に代えても守る。だから安心しろ」

『命に代えてって…』

話し終えて一息つくながれで当然の様に言うリボーン。その言葉に敏感に反応してしまった

何でまた、そんな事言うのか…



『さっきの私の話聞いてたでしょ?力があるなら、今度は私がみんなを守る。もう私なんかに命を賭けさせない…賭けさせたくないよ』

「俺達は好きで命を賭けてる。だからお前が責任を感じる事じゃねーぞ」

暫く無言で見つめる。リボーンは本当に優しい人だ。リボーンだけじゃなく、きっと他のみんなも同じ様な事を言うだろう。でも、それに甘えるのは此処までだ。これからはあたし自身で動いていかなければいけない

そう自分の心の中で勝手に誓い地味た事を言えば、不思議にも気持ちがすっきりした気がした。吹っ切れたというべきだろうか。思わず口元を緩ませて立ち上がった




『じゃあ、私はみんなから命を賭けられる必要がなくなるくらい強くなってやるんだから』

死ぬ気でね、とそう暖かい日差しにお似合いな笑顔で沙羅は言った。リボーンはその笑顔を見て、何も言えなくなった。何故ならその笑顔からは十分な程に、決意が伝わってきたからだ



「いくら強くても、その強さに耐えられるそれなりに頑丈な意志が備わってければ…すぐ潰される。自分自身にな。その意志があるかどうか心配だったが…大丈夫そうだな。着いて来い、沙羅」

『来いって…何処行くの?』

首を傾げる沙羅をリボーンはニヒルな笑みを浮かべなぎら見上げた



「9代目に、お前の覚悟を伝えに行くんだぞ」

その言葉に思わず目を見開いた
9代目に伝えに行く。自分の意志を…覚悟を…
もう守られてばかりの私じゃないと…

リボーンは敢えてなのか、それ以降何も言わずに本部内に戻っていく。私は少し遅れてその後ろを急いで追い掛けた





◆◆◆ ◆◆◆





「入っておいで」

部屋をノックし、中から9代目の許可する声が聞こえた。1度深呼吸をしてドアノブを捻り、ゆっくり押し出した。9代目は仕事中だったのかペンを走らせていたが、私達が部屋に入るとその手を止めた



『9代目に…お話があります』
「何だぃ?」

もう1度深呼吸をして話し始めた。そんな決意かと思われても構わない。リボーンに伝えた様に自分の意志をそのまま伝えた

9代目は話を目を逸らさず、真っ直ぐ私に視線を送っていた。その反応からして、分かってはいたけれど、9代目も私が持つ力について既に知っている風だった


『ずっと守られてばかりでしたが、これでみんなの為に生きられる様になります』

「出来れば…沙羅に危ない橋を渡ってほしくない。だがお前の目には…その橋すら受け入れているのかぃ?」

はい、と答えると、9代目は何やら言いにくそうにしていたが一呼吸置いて言った



「守護者として本格的に名乗るとすれば、即ちボンゴレの裏の姿、そして裏社会の任務もこなして行かなければならない。当然いつ死ぬか分からぬ立場に置かれる事になるんだ。それも踏まえてもう1度だけ尋ねるよ?」

それでも本当に強くなりたいんだね、と再び尋ねられた。その一言は今までの9代目の口調とは少し違う、私の知らないボンゴレのボスとしての圧を感じた

でも、その問い掛けは私にとって答えるのに困る事じゃないのだ



『私はあの時、9代目に拾われなければ死んでいた人間です。今更死ぬ事に対して躊躇はしませんよ』

あいつ等の私利私欲の中で死ぬ可能性しかなかったあの時と比べたら…いや、比べるのも烏滸がましい事だ。誰かの為に…大好きなみんなの為にこの命を使えるなら本望だ



『もし…私が死んでみんなが生きられる選択肢があるなら、喜んで死ねますよ』

それくらい私にとって自分の命は軽いんです、と付け足した。すると、9代目は表情を一瞬険しくさせたと思えば席を立ち、私の目の前まで歩み寄ってきた




「沙羅の覚悟はよく分かったよ。だが、今の発言は頂けない」

9代目はしゃがみ込み、私の背丈の同じくらいで目線を合わせると、私の両肩に手を置いた



「自らそんな事を言ってはいけない。私は沙羅には胸を張って、楽しく生きて欲しい。それがたとえこの先、命に関わる立場になろうとも、自ら命を絶つ決断はしないくれ」

『9代目…』

「私と沙羅との約束だ。自分を大切にするとね」

9代目の表情は困った様な…でも優しい笑顔。あの時と同じ…私を拾ってくれた時と同じ顔だった

いいね?、と9代目が小指を立てて再度私に問い掛ける。私は頷いて同じ様に小指を立てて指切りをした




「よし、これから正式に沙羅はボンゴレファミリーの守護者となる訳だが…誰に修行してもらおうか…」

『修行…ですか?』
「あぁ、強くなる為には誰かに戦い方を教わらなくてはならないからね」

顎に手を置いた9代目はブツブツと人の名前らしき言葉を呟いていく。修行してくれる人を思いつく限り言葉にしている様だったが、背後にいたリボーンが9代目の前まで歩み寄り、笑い掛けた



「その事なら心配いらねーぞ、9代目。さっきディーノに連絡しておいたからな」
「おぉ、ディーノか。彼なら良い修行相手になってくれるだろうね。」

初めて聞く名前に私は2人を交互に見て首を傾げた。どうやら2人はその人と知り合いみたいだけど…どんな人?

9代目は私の頭を優しく撫でて無茶はしない様に、と釘を打たれた。そして、リボーンに連れられて執務室から出た所でリボーンに問い掛けた



『ねぇ、ディーノって…誰?』
「ディーノは俺が家庭教師してた元生徒だ。今はキャバッローネファミリーのボスをやってるが、まだまだへなちょこだ」

『へ…へぇ…』

リボーンに家庭教師されたってスゴいなぁ…
どうしよう、ボスをしてる人なんだから怖い人なのかな…



「明日にはこっちに来れるらしいからな。いよいよ修行開始だぞ」
『あ、うん』

そうだよ、そんな教えてもらう人の事について心配するよりもちゃんと強くなれるかの心配をしなきゃ。私はもう守護者として戦う立場なんだ。これからはみんなを守る為に闘う

強く…誰よりも強くなってみせるんだから…


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