シンクロ






コムイさんとリーバさんが部屋から出て行ってから数時間経つ。誰もこない

看護婦さんはこまめに点滴を替えに来てくれる。あいさつやしつこ過ぎない程度の声を掛けてはくれるけれど、素直に反応出来ない

今されている点滴の中身は本当は毒物で、身体を蝕んでいるのではないか。本当はみんな警察で、私が人殺しの罪から逃げ出さない様に常に監視しているのではないか…

もう既に心が濁っている私には、あるモノ全てが躾の一部であり、あの痛みは永遠に続くと思ってる。私が死なない限り…ずっと…ずっと……




コンコンッ

扉のノック音ですら、ビクッ!と大きく反応してしまう。布団をギュッと強く握り締めながら身構えると、今までの看護婦さんの中でも歴が長そうなベテランのおばさんが部屋に入ってきた
アデラ


「あらあら、点滴がもう少ししかないわね。そろそろ取り替えないと」

『……』

「あぁ、ごめんなさいね。私は婦長を務めているものよ。今の今まで他のエクソシスト達の治療しててなかなか来てあげられかったのよ。初めまして…かしらね」

『婦長さん…?』

首を傾げると婦長さんは私の点滴の付いている腕を優しく触れると、浅くため息を吐いた



「全く、こんな幼い子まで大怪我させるなんて…しかも貴女、エクソシストになるんでしょう?大人の決め事に縛られる子供を見ているのは…辛いわ…」

『あのッ……婦長さんはッ…』
「何かしら?」

『自分が産んだ子供の躾って…どうしてますか?』

思わず聞いてしまった。いや、訪れる看護婦さん達には何度も聞いていた事。だけど、誰も困り顔をするだけで答えてくれない…

そもそも誰も子供を産む、という事を考えていないらしかった。だけど失礼な話、この婦長さんは子供を産む事を考えていてもおかしくない…いや、産んでいてもおかしくない年齢だと思ったから敢えて聞いてみたかった



「あら、私そんな歳に見える?」
『Σあッ…いえッ…そんな事は…』

「フフッ、状態よ。まぁ私に子供がいるかいないかはいいとして、私ならしっかり躾はするわ」

『しっかり…って…』

「しっかりはしっかりよ。いけない事をしたら親として怒らなきゃいけないんだから」

親として……しなければならない事…
私のしてしまったいけない事は…産まれてきた事…
望まれてもいないのに産まれ、のうのうと生きてきた…
だから両親はあんな事に…




「でも、叱るだけが躾じゃないわ」
『えッ…』

「褒めてあげる事も、躾の1つ」

『褒める…?』

「子供は褒めて育つのよ?その子が心を閉ざさない様に。自分は産まれてきて良かったんだって思える様に、自信を付けてあげるのも親の仕事よ」

思わず目を見開いて、婦長さんを凝視してしまった
褒める……産まれてきて良かったと…思える様に…
何を言っているのか一瞬分からなかった…




『うッ…産まれてきてほしくないのに…産まれてきたら…どうしますか?』
「なぁにを言ってるのよ!子供に対して産まれてきてほしくなかったなんて思う親はいないわよ」

私は呆然としていた。さも当たり前の様に言った婦長さんに…




「あらあら。そろそろ他の患者を見に行かなきゃ。アデラちゃん、安静にしなさいね。ここの患者は目を離した隙に抜け出して修行やら仕事やらし出すんだから」

全く、と困り顔で私の頭を優しく撫でてから婦長さんは空になった点滴袋を手にして部屋を出て行った




『産まれてきてほしくなかったと思う親は…いない…?』

じゃあ何故…私は躾を受けていたのか…
私はただ、婦長さんが出て行った扉を見つめていた



/Tamachan/novel/5/?index=1