名付け









「今日から此処がアデラの部屋だよ」

4人に連れられてやって来た1室。中にはベットと1つの窓、クローゼットと机と椅子があり、まだ誰も使っていない感満載の部屋だった

でも、扉を開いて「此処が部屋だ」と言われてもピンと来なかった




「どうしたさ?アデラ。入んねーの?」
『えッ…あの…此処を使って良いんですか』

「と言うと?」

『だって…こんな立派な部屋ッ…』
「何言ってるの!アデラは女の子だし、部屋があって当たり前でしょ!」

ほらほら、と背中を押されて戸惑いながらも部屋に入った。初めて部屋という部屋を見たかもしれない…



「みんな好きな様に使ってるから、アデラも好きに使って良いんだよ?カーテンとか布団カバーとかも休みの時に一緒に見に行こうね」

『ぁ、はい…お願いします』







「すっげーリナリーが意気揚々さね」
「そりゃあ、同じ女性同士ですからね。ミランダだってスゴく喜んでいたじゃないですか。ねぇ、リンク」

さっきから喋らないリンクの顔を覗き込んでアレンが話を振った




「何ボーッとしてるんですか?」
「特に理由はありませんよ」

「ふーん…アデラに一目惚れでもしたさ?」
「なッ…何を言っているんですか」

「だってホクロふたつはずっとアデラの事見てるさー?気になってるって事じゃねーの?」

ニヤニヤとしながら絡んでくるラビをひたすら迷惑そうに否定するリンク。そんな2人の様子に気付いたリナリーとアデラだったが、何の話題で騒いでいるのか知らない為、見合って首を傾げた








◇◇◇ ◇◇◇









「まぁ、こんな所さね?」
「そうですね、大体の案内は十分じゃないですか?」
「もし場所で迷ったら聞いてね、アデラ」

『ありがとうございます、皆さん。場所は大丈夫だと思います。この子も記憶してくれましたし…』

そう言ってアデラは懐からあの謎のゴーレムを取り出した。目は完全に開いていて、外に出ると嬉しそうに頭上の周りを飛び回った



「そのゴーレム、やっぱりアデラのだったんですね」

『申し訳ない話…私はまるで見覚えなくて…コムイさんから手渡された時びっくりしました』

「見覚えない?だったらあの映像はッ…Σぐほぉッ!」

映像、というワードに3人は敏感に反応して一斉にラビの口を塞いだ




『映像…って何の事ですか?』
「なな何でもないの!何でも!」
「たまに変な事を言うんですよ!ラビは!」

冷や汗を流しながら大袈裟にリナリーとアレンが笑っているのにアデラは首を傾げた



「Σちょッ、首締まってる!締まってるさ!」
「このまま落とした方が都合良くないですか?」
「そちらの方が手っ取り早いですね。二次災害も防げますし」

「2人共目が怖いさー!マジで首がぁああッ!」

『らッ…ラビさんの顔色が真っ青ですよ!』
「ラビは放っておいて大丈夫大丈夫。ところで、この子名前付けないの?」

『名前…ですか?』

「だってこんなに懐いてるんだから、名前くらい付けてほしいわよ。きっと」

リナリーの言葉に、ゴーレムは目をキラキラさせて頷いた。更にはアデラの肩に着地し、おねだりする様に頬に擦り寄った



『もう少し…考えてさせてほしいです。ちゃんとしたお名前付けてあげたいですし…』

真剣に考えてくれると気付き、ゴーレムは嬉しそうに尻尾を振った。その反応に思わずアデラは口を緩ませたが、その表情にリナリーは驚いた様に目を丸くさせた




「アデラ…今ッ…笑った」
『えッ…』

「な、何で自分がそんなに驚いてるのよ。まるで初めて笑ったみたいな反応じゃない」
『初めて…なんです』

え?とリナリーは思わず聞き返した。アデラの瞳は酷く暗く、血だらけになるまで痛め付けられていたあの映像を連想させられ、思わずリナリーは口を噤んだ

あんな環境下で笑顔なんて…出来ない。きっと泣いた事の方が多かったに違いない。16年間生きてきて初めて笑ったなんて…辛すぎる

もっと笑ってほしい
楽しいと…思ってしほしい

一瞬だが、確かなアデラの笑顔を見て、一層リナリーのそんな想いは強まった




「笑おう、アデラ」

リナリーの言葉にアデラは目を丸くして顔を向けた


「アデラにはいっぱい笑ってほしいな」

リナリーが微笑むとアデラは自身の頬に手を当てて難しそうな表情を浮かべた




『上手く…笑えないですよ…』

「笑顔に上手い上手くないはないよ。その時に自然に出るのが笑顔なんだから」

戸惑っているものの、アデラは小さく頷き、リナリーは嬉しそうに笑った。アデラは未だに笑顔を浮かべた自分が信じられずにいた

初めての顔の感覚
無意識に出るのが…笑顔か

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