目覚め






暗い…寒い…
冷えた床の冷たさを感じて、目を薄ら開けると視界がボヤけてほとんど何も見えない。でもその直後に重たい腹蹴りが入り、失いそうになった意識が叩き起こされた



「てめェ血が付いたじゃねェか!このカスッ!」

そうだ…私ッ…
しつけの最中だった……

骨の軋みに連動して痛みが走り、吐血。飛び散った血が途切れなく躾を降らせる男の人の服や靴に掛かり、次は頬を叩かれ、頭を床に押し付けられる


息が…苦しい
肺が言うことを聞いてくれない
酸素を受け入れてくれない
口の中が……鉄の味がする


「もう声も出ねぇのかよ!つまんねぇなぁッ!」

頭を鷲掴みにされたと思えば、そのまま力任せに壁に打ち付けられた。頭から血が多量に流れ、目の前が真っ赤に染まった

血を全身から流しすぎてくらくらする
身体から体温も逃げていく
寒いッ…


「ちょっとアンタ!いい加減にしなよッ!」

1人の女の人が部屋の奥から呆れ口調で男の人に言い放った


「いくらしぶといからって本当に死んだらどうしてくれるの!?」
「ンな事ぁ、分かってんだよ!ただの暇潰しだ!まぁ、ちょっとしたストレス発散もあるがな」

いつもの様に虚ろな目でその2人を見上げる。ゲラゲラと何がそんなに愉快なのか笑いながらこちらを見下ろす男の人と今の無残な私を愚かそうに見下ろす女の人


『おッ…かぁ…さッ…』

掠れた声で言い終わる前に頬にキツく平手打ちをされた


「そう呼ぶなって何度言えば良いの?次口にしたら歯折るから」

お母さん・・・・
この女の人は…本来なら私がそう呼ぶべき人。男の人もお父さん・・・・と呼ばれるべき人。つまり、私達3人は家族と呼ばれるハズ・・だった…

でも、産まれてから今まで1度もそう彼らを呼んだことはない。呼んではいけない、と身体に傷を刻まれながら教えられた。言葉に出来ないほど嫌なんだろう

そうでなければ、その単語を口にした途端に肌が赤くなるほどの勢いで張り手なんか降ってこない

なら私は…何で産まれてきたのだろうか


「お前も加減しなすぎ」
「うるっさいわねぇ!コイツに呼ばれるのだけは死んでも嫌よ!気色悪い!」

また喉から異物感が。吐き出すとやはりまた真っ赤な血


「あぁあ!コイツまた俺の靴にッ…!」
「もう止しなさいよ。死んだら元も子もないわ。それに今日までよ。コイツの世話も」

虚ろながら聞こえたその言葉に違和感を感じた
今日まで…?

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