AKUMAについて
「大体イノセンスについては分かりましたか?」
『はい』
「ところで、アデラはヘブラスカに診てもらって、結局寄生型だったのか?」
『あッ…それが…』
何て言えば良いのか、とアデラは困った様に眉を下げた。寄生型なのかどうか以前に、ヘブラスカさんを拒絶した時点で分からないのが事実だ
「グラシアナは、昨日コムイ室長から伝えられた通り、寄生型と見て良いと思います。今のところはですが」
『ハワードさん…』
「今のところはってどういう意味ですか?」
「今回のヘブラスカによる調査では、グラシアナのイノセンスが何型かを断定する事は出来なかったそうです」
「何でリンク監査官がそれを?」
「先程コムイ室長から聞きました。ヘブラスカの調査が終わったら、結果をすぐに報告して頂く約束だったので」
淡々と話すリンクに、相変わらず抜け目がないとアデラ以外の全員が思った。一方、自分からどう説明したら良いか分からなかったアデラとしては、代わりに端的に結果を説明してくれたリンクに感謝した
「あ、あと1つだけ伝えておきます。これも大事な事なので」
『何ですか?』
「AKUMAについて、ですよ」
その時、嫌に鼓動が大きく動いた。頭に霞んだあの酷く歪んだAKUMAの笑い顔。人を殺す事に対して快楽を感じている様な…そんな感じだったのを覚えてる
「アデラ?」
『…何でもありません』
「やっぱり…怖い?」
心配気に顔を覗き込んできたリナリーに、アデラは目を伏せて首を横に振った
『大丈夫です。克服するって決めたんですから』
強く両手を握り締めて、アデラはアレンに再度AKUMAについて教えてほしいと伝えた
「AKUMAにはいくつか種類があります。それをレベルで表してます。レベル1、2みたいにです」
『私を襲ったあの時のAKUMAがレベル4になる手前だったって…以前仰ってましたね』
「そうです。単純にAKUMAはレベルが上がるに連れて凶暴性が増します」
不意に隣でラビさんがアレンさんの隣で長い枝を使い、地面に丸い円を描きだした。私は首を傾げながらその動作を見つめる
「うん、こんなモンさね。我ながらなかなかの出来さ」
「何ですか、それ」
「どっからどう見てもレベル1さ」
完成したのは円にもう1つ小さな円を書き入れ、胴体には小さな出っ張りみたいなのが複数付いていた
「あぁ…言われてみれば確かにレベル1はこんな感じですね」
アレンさんは納得する様に頷いているけれど、これはこれで不気味…
「レベル1は宙に浮いてる球体みたいなんさ。この身体から出てる出っ張りみたいな所から砲撃してくる。因みにこの小さな円は顔な」
「あと、レベル1には意志がないわ」
『意志がない?』
「レベル1は辺り構わず砲撃してくるんですよ。当たったら致命的な砲撃ですが、動きも鈍いですし、意志がないので破壊するのは至って簡単です」
当たったら致命的…その言葉に息を呑んだ。AKUMAの砲撃にはダークマターという毒が含まれていて、被弾した瞬間にみるみる身体を蝕んで、結果死に至ってしまうんだとか…
聞いただけで血の気が引けてくる
「AKUMAは殺戮を繰り返す事でレベルが上がっていきます。貴女を襲ったレベル3も、元はレベル1だったんですよ」
この球体があのAKUMAになる。そう考えると…あのAKUMAはどれほどの人々を殺してきたんだろうか
「レベル2はレベル1と比べたら手強いですが、楽観的で当てずっぽうに攻撃してくるので隙を突けば大丈夫です。中には意志がしっかりあって、賢いのもいますがね」
「問題なのはレベル3からよ」
急にリナリーさんの声のトーンが下がった。表情は曇っている。レベル3に対してだけ、かなり印象的な事でもあるのかな
「あんまりレベル3に対しては、リナリーは思い出したくないかもな」
リナリーさんに続いて、ラビさんも何故か表情を険しくさせた
『何で…』
「命を落とし掛けたの」
リナリーさんがポツリと言った。手を握り締めて、思い出すかの様に目を伏せていた
死に掛けたって…
「1人で戦って…死に掛けた。けど、おかげで自分の限界を知れたし、それでもっと強くならなくちゃって思えたの」
顔を上げたリナリーさんは微笑んでいる。その表情を見て、この人は…強い人だと思った
私には…出来ない。今だってあのAKUMAに殺され掛けた事を引きずって怯えている
「レベル3はかなり知能が高くなったAKUMAさ。レベル1、2と比べモノにならねェくらいにな。自分の能力を最大限に活かしてこっちを殺しに掛かってくる」
『あのッ…レベル4はどんなAKUMAなんですか?』
ずっと気になっていた事を切り出すと、レベル4に関してはレベル3よりもみんな表情が強張っていた
「レベル4はかなり強敵です。レベル3よりもずっと」
「この黒の教団は元々、別の場所にあったのですが、レベル4によって破壊され、今のこの地に移転したのです」
『教団を…破壊?』
「いやぁ、あの時は本当に危なかったさ。元帥達もいたけど、みんなボロボロだったし」
「あ、元帥っていうのはイノセンスとのシンクロ率が100を超えたエクソシストの事です」
『その人達でも苦戦するくらい強いんですか…レベル4って…』
「強いわ、本当に。だから、私達はそれ以来絶対AKUMAはレベル3までに留めようって決めてるの」
もしあの時にハワードさんとアレンさんが助けてくれなかったら…
考えると、冷や汗が出てきた。どっち道死んでいたとはいえ、あそこ周辺ならまだしも、他の全く無関係な人達まで殺されていたかもしれない。エクソシストは、命を賭けて、他の人達の為に戦っているのだと改めて思い知らされた