優しさ








「あ、目が覚めた?」
『リナリー…さん?』

目の前にはこの前と同じ真っ白な天井。リナリーさんが心配気に見下ろしているのを見て、一気に記憶が蘇った



『みッ…皆さんはッ…!』
「そんなすぐに起きちゃダメ!」

リナリーさんに両肩を掴まれて起き上がるのを止められ、一先ず身体をベットに戻した。あれからどれくらい経ったのだろうか。皆は無事なのか

ハワードさんはッ…



「気が付いたさ?」
「大きな怪我がなくて良かったです」

奥からラビさんとアレンさんがやってきた。その後ろに頭に包帯を巻いたハワードさんも見えて、思わず目を見開いて固まった



『ハワードさん…その包帯ッ…』
「大した事ではありません。軽く打っただけですし」

「ま、レベル3のアクマ相手にそのくらいの怪我で良かったさ」
「うんうん、2人共ホントに命に別状なくて良かった」
「僕達これからコムイさんに報告に行ってきます。また来ますから安静にしていないとダメですよ?」

アデラに軽く手を振ってアレン達は部屋を後にしようとしたが、扉の手前でアレンが後ろに付いてきたリンクの胸を軽く押して立ち止まらせた



「何ですか、ウォーカー」
「リンクはアデラの傍にいてあげて下さい。目が覚めたばかりで心細いでしょうし」

「何で私がそんなッ…」
「うん、それが良いさ。ほれほれ、監査官は戻った戻った」

悪戯にニヤついたラビが強引にリンクを部屋へ連れ戻した。戻ってきたリンクに目を丸くしたアデラだが、頭の包帯を見て、すぐに目を逸らした






「ウォーカー…何を考えて…」
『はッ…ハワードさん』

不意に呼び止められ、リンクは振り返った。アデラは俯いたままでシーツを握り締めている




「何ですか?グラシアナ」
『すい…ませんでした…』

「何故貴女が謝るのですか」
『イノセンスを発動出来たのに…結局ハワードさんを助けられなくて…』

偶然にもイノセンスは発動出来たけれど、AKUMAを倒した後すぐに気を失ってしまったし…

アデラが俯いたままでいると、リンクは浅く息を吐いてベット傍の椅子に腰掛けた






「私は貴女に助けられました。それは事実です。逆に私は1体もアクマを倒せぬまま、貴女に頼ってしまった」
『ハワードさん…』

「貴女がイノセンスを発動したという事は…完全に決心がついたという事ですかね」

ハワードさんを見上げると、真剣な表情で私を見つめていた。決心…なんて大それた言葉ではない。けれど、確かにあの時イノセンスに私の心を伝えた

もう無力なのは嫌だと。仲間であり家族である皆を守りたいのだと…そう確かに伝えたつもりだけれど…




『決心とかそういった言葉は…正直分からないです。けど…あんなに怖かったAKUMAを前にしても恐怖より家族を守りたいっていう気持ちが勝っていたんです』

アデラは目を伏せて、胸に手を当てて小さく微笑んだ



『だからきっと今度こそ、私は迷いません』

思いの外、心が清々しかった。イノセンスを発動出来る様になったからというのもあるけれど、1番はやはり私でも誰かの…この人達の力になれるのだと確信を持てたからだ

何も出来ない自分とはさよならする。これからは、この力で今まで出来なかった事を…胸を張って生きる事を心に決める




『ハワードさんにお怪我を負わせない為にも、もっと強くなりたいです。なので…これからも頑張りますね』

「…そうですか」
『ご不満…ですか?』

「いえ…ただ一応これでも私は戦える身である以上、貴女に守られる訳にはいきませんから」

私も精進します、とリンクは頭の包帯に触れながら続けた

イノセンスを持っていなくとも、私には鴉としての戦闘能力が備わっている。こんなつい先日までただの一般市民だったグラシアナに助けられるなんて…

不覚…とリンクは肩を落としてため息を吐いた




「私もまだまッ…」
バンバンッ!

突然扉から強いノック音が。何だ何だと思い、リンクは扉へ歩み寄り、ドアノブを捻った。開けた途端に部屋に飛び込んできたのは大粒の涙を流しているギャレット。勢いのあまり、身体を床にベチャッ!と叩き付けるも、再度起き上がり、すぐさまアデラの懐へ飛び込んだ



『ギャレット?』

アデラに擦り寄るギャレット。何でそこまで反応が大袈裟なのか疑問に思ったリンクは、再び椅子に腰掛けながら尋ねた



「ギャレットはどうしたのですか?」
『あ…実は今回の任務にギャレットは連れて行かなかったんです』

ギャレットには可哀想だと思ったけれど、部屋で大人しくしている様に伝えていた。初任務だし、イノセンスを発動出来ていなかったから、もしもの時にギャレットを守れないと思ったから連れていかなかったのだ



『どんな任務になるか分からなかったので、連れていくのが怖くて…結局また心配させてしまったみたいですね』

ギャレットを両手に持ち上げて、さっき思いっきり床に転んだ身体の様子を見ながら言った。目を見ると未だにポタポタと大量の涙を流して此方を見つめている

本当に優しい子だなぁ…
頬を擦り寄せると、ギャレットも擦り返してきた




「ギャレットは通信も録画も可能なゴーレムです。次の任務には同行させた方が良いと思いますよ」

『そうですね。イノセンスも発動出来たので、次からは連れていきます』







◆◆◆ ◆◆◆







「そっか。アデラちゃん、イノセンス発動出来たんだね」

室長室にやってきたリナリーとラビ、そしてアレンから任務の報告とアデラのイノセンス発動に関する報告を聞いたコムイは安堵した




「リンクが言うにはレベル3を同時に2体も倒したそうです」
「いやぁ、見てみたかったなぁ。アデラのイノセンス」

ラビはケラケラ笑いながら言った。リンク以外、口頭でしかアデラのイノセンスについて伝えられてなかった為、リナリーもアレンも同感という様に頷いた





「さっき病室に寄ったけど、怪我の具合も大丈夫そうだったわ。気を失ったのもイノセンスの反動だったみたいだし、目立った怪我はしてないって婦長が言ってた」

だから安心して。兄さん、とリナリーは笑顔で伝えた。へブラスカに診せた時はあんな謎な結果で、任務ギリギリまで発動出来なかったという事で人一倍アデラを心配していたコムイ。リナリーのその言葉にあぁ…と背もたれに凭れて安堵した様に息を吐いた

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