仲間






真っ暗な意識が戻ったのか、ふと目を覚ました。さっきまで薄暗い景色の中にいたからか、突然の灯りの眩しさに視界がボヤける

朝…じゃない?
漸く灯りは人工的な光だと気付いた。目の前には真っ白な天井。額に何か冷たい感覚がするし…不意に薬品の匂いが微かに鼻を掠めた。何処かの部屋…?

顔を横に向けると、パサッと額からタオルが落ちた。冷たい感覚の正体は湿ったタオルだった


奥に誰かいる事に気付いた
誰…?女の人…?

視界がハッキリしてきて、よく見るとやはりその人は女の人。その人は視線に気付いたのか、振り返った後、何とも驚いた様な顔をして駆け寄ってきた




「あぁ、良かったわ!気が付いたのね!リナリーちゃんッ!目を覚ましたわよー!」
「えッ!?ホント!?」

その女の人に呼ばれて慌てて奥から駆け寄ってきた髪がショートヘアのリナリーという女の子。何故か嬉しそうに笑顔を向けてきた


「私、兄さん達に伝えてくるね!ミランダはこの子の傍にいてあげて?」
「分かったわ。みんな喜ぶわね」

女の子は笑顔で頷き返して、足早に部屋を出ていった。私は何も言わず、じっと女の人を見つめた



「あ、ごめんなさい。騒がしかったわね。でも、本当に意識が戻って良かったわ」

『あのッ…』
「Σあぁ、自己紹介がまだだったわ!私はミランダ・ロットー。ミランダで良いからね」

ミランダという女の人は微笑んでいる
この人は私を殴るのだろうか
あの2人みたいに…

アデラは警戒心が解けない疑心な瞳でミランダを見つめた。産まれて初めてあの2人以外の人間を目の前にしたせいか、アデラは自分と関わる人間は皆自分に拳を振るうモノとばかり思い込んでしまっていた

あ…やっぱり不審に思ってる、と一方のミランダは苦笑しながら直感で思った。と、何やら部屋の外が騒がしくなってきた





「ミランダ、みんな連れてきたよ」

「目が覚めたって本当さ?」
「無事で良かったである」
「この短時間でよくあの怪我が治ったのぉ。大した娘じゃ」

女の子が3人の男の人達を連れてきた

バンダナと赤いマフラーを付けた赤髪で長身の人
焦げ茶の髪に前髪だけ白髪の牙の生えた人
低い身長に目の周りがクマで真っ黒になったお爺さん

みんな赤と黒の制服みたいなのを着てる…
何かの団体…?




「私さっき自己紹介したから、みんなもどうぞ?」

「あ、じゃあ私から。私はリナリー・リーよ。リナリーでいいからね」

「俺はラビ。ブックマンっていうこのパンダジジィの弟子してんさ。よろしッ…Σぃでッ!」
「パンダではない、このバカ弟子め。私はブックマンじゃ。あだ名でも何でも好きに呼んでくれて構わん」

「ぶ、ブックマンは加減がないであるな…あぁ、私はアレイスター・クロウリー3世。長々しいからクロウリーと呼んでほしいである」

みんな笑顔で自己紹介している。そんなに悪い人達という訳でないとは思うけど…

ずっと監禁されていたおかげで人間の微笑みの裏の顔を想像してしまう。また殴られ、蹴られ…血まみれになる日々が繰り返されるのだろうか…

そんな事ばかり頭を駆け巡った





「貴方のお名前は?」
『ぇッ…』

「そうそう、あんたの名前知りたいさ」
『聞いて…どうするんですか…?』

アデラの反応にその場のメンバーは目を丸くしてお互いを見合った。が、その後にまた笑顔を向けた



「だって、せっかくこれから仲良くなるのに名前知らないなんて寂しいじゃない?」
「そうさ。俺達は仲間になんだから」

『なか…ま?』

「その通りである。私は新しい仲間が増えてとても嬉しいである」
「他のみんなも嬉しがってたしね。私もすごく嬉しい」

『あのッ……仲間って…何ですか?』

アデラの一言に皆一瞬止まった。まさか仲間というものが何なのか知らないとは思っていなかったからか、突然の投げ掛けにメンバーは驚いてしまった



「んーとなぁ、仲間っていうのはつまりは助け合ったり、信頼し合ったり、支え合ったりする仲の事を言うんさね」

ラビさんが自信満々に胸を張って言うと、それにリナリーさんも頷いた



「私は、みんなの事仲間というより家族だと思ってるけどね」
「それは嬉しいであるな」

「ジジィは強制的にお祖父ちゃんポジションさ」
「お前みたいな軟弱の中の軟弱モンは赤ん坊で十分じゃ」
「ほら、そこは言い合い始めないの!」

家族…
正直、家族というモノすらあまり知らないでいる。私の頭に植え付けられたのは“躾”と“暴力”

聞き入っているだけしか出来なかった




「貴方も家族がいるでしょ?」

『い…ません…』

産まれて初めて…嘘を吐いた
正直、答えたくなかった

紛れもなく私はこの手で唯一の肉親を…殺した事実。この人達に言ったら今向けられている笑顔が一瞬で疑心、軽蔑、険悪な表情に変わるのだろうか…

初めて会ったこの人達にそう思われるのが……何故か怖かった。嘘だと気付く筈もなく、リナリーはバツが悪そうに微笑んだ




「そうなんだ…ごめんね、変な事聞いちゃって」
『いえ…そんな事は…』

「んじゃあさ、名前は?」

『アデラと言います。アデラ・グラシアナ…』
「へぇー、いい名前さ!これからはアデラって呼ぶさー!」

「おいくつなの?」

『16歳…だと思います…』
「なら、私も16歳だから同い年だね。嬉しいなぁ」

一層笑顔になったリナリーさん。女の子らしい笑顔で、周りも元気にする様な雰囲気を持っているのは一目瞭然で…同い年でもここまで変わるんだと思った…



「とまぁ、アデラの名前聞けたし、俺達の自己紹介もよしとしてぇ……アデラを助けた当の2人は何処行ったさ?」

ラビさんが周りを見渡しながら首を傾げた



「あぁ、さっき兄さんにアデラの事伝えに言った時、室長室にいたから3人で一緒にくるんだと思うよ?」
「そのアデラを襲ったAKUMA討伐について報告しに行ったであるか?」

クロウリーさんの質問にミランダさんが頷いてそうだと言った。私を襲ったAKUMAの討伐…

視界がボヤけていたせいで1人しか認識していなかったけど、もう1人その場にいたらしい。どちらにしても、その2人にお礼を言わなければいけない…

こんな人間崩れの私なんかを…助けてくれたのだから…


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