共闘






『うぅ…』
「……」

『ロー…ごめんって。何か言ってくれよぉ』

ハートの海賊団の船に着き、不機嫌極まりない様な雰囲気のローの元へ。向かったには良いが、全く反応してくれない

約束破ったからしょうがないけど
でもさすがに気まずいなぁ…




『ローってば』
「何だ」

『あ、反応した』
「そんなしつこく声掛けられてたらな」

眉間に皺を寄せながらローは読んでいた本を閉じると、漸くあたしの隣のイスに腰掛けた。待ってましたと言わんばかりにすぐさまペンとノートを取り出す



「相変わらずの熱心ぶりだな」
『せっかく教えてもらうのに、忘れたら勿体ないだろ?』

「勿体ないねェ。すぐに覚えられるだろ、いちいちノートにとらなくても」

『あー、はいはい。頭良い人には分かりませんよって…Σあ!こら!』

ローは隙を見てノートを取り上げた。隣でギャーギャーと取り返そうと騒ぐクロムに構わず、ノートを広げた




「…へぇ」
『なッ…何だよ』

「意外に見やすく書いてんだな。野蛮な性格なわりには」

『超失礼な事言ってんじゃねぇよ!あたしでも傷つくわ!』

「冗談に決まってんだろ。野蛮と思った事もねェし、これからも思わねェよ」

頭をポンポンと宥めるかの様に軽く叩かれ、ムッとしながらノートを奪い返し、仕返しにローの帽子を奪い、被ってやった



「仕返しか?」
『唯一の嫌がらせですー』

ふんと不貞腐れながらノートを広げるクロム。全く嫌がらせになっていないと気付いていないのに、ローは笑いそうになったが、これ以上イジるとさすがにな…と思い、今日教えるつもりの薬品を机に並べていった





◇◇◇ ◇◇◇





『あ、そういえばお前ってさ』
「何だ」

『キッドと仲悪いのか?』
「…は?」

思わずローは薬品の蓋を開ける手を止めた。何を言い出すのかと思えば…



「キッドってのは…ユースタス屋の事か」
『おぉ、そうそう。仲は?』

「何でそんな事聞くんだよ」

『最近キッドの所行った時に、お前の話したらめちゃくそ不機嫌オーラだったからさ』

ローは正直クロムが何故そんな仲が悪いかどうかを聞くのか理解出来なかった。というか、当たり前だ

海賊同盟や日頃から接点があるのならまだしも、ユースタス・キッドとは全く別の海賊同士。同じ目的を持っている訳でもなければ、海賊でいる事の意味への意識も丸っきり違う

そんな奴らと何も隔てなく付き合うのはクロムぐらいだろう、とローは思わず浅くため息を吐いた



「仲良くする意味がねェだろ。メリットもねェしな」

『仲間が出来て良いじゃねェかよ。血の気が濃い奴と血の気が薄い奴で丁度いいだろ』

「お前には俺の顔色がそんなに悪く見えるのか?」
『くまが出来てる時点で顔の血色は悪いだろうよ』

こいつのフレンドリー感はどっから来るんだ、ホントに。その話はもう良いだろう、と呆れ口調のローは再び薬品の蓋を開けたと同時に部屋の扉がノックされた



「キャプテーン…てクロム、来てたんだね」
『おぉ、ベポ。お邪魔してまぁす』

ひょこっと部屋の扉から顔を覗かせたいつも通りの可愛いベポ。軽く手を振るとモコモコの手を小さく振り返してきてきゅんとなった

ホントに可愛い。ベポ可愛い…




「どうしたんだ?」

「あ、そうそう。そろそろ食糧庫からお米が切れそうだと思って。近くの島に買い出し行きたいんだけど」

「そうか…まぁそろそろとは思っていたしな」

米が切れそうと聞いて、思わず小さく吹き出してしまった。視線を感じ、見ると笑った瞬間を目撃したのか、ローが滅茶苦茶鋭くこちらを睨んでいる



「何笑ってるんだ」
『お前相変わらず米しか食べれないのな』

「うるせェ。良いだろうが別に」
『まぁまぁ、そんな怒るなって。私も買い出し行くよ』

ノートを閉じて、脱いでいた上着を羽織り、腰を上げると、部屋に入ってきたベポが首を傾げた



「クロムも手伝ってくれるの?」
『逆にダメか?』

「そんな事ないよ。逆に来てくれた方が俺もみんなも嬉しいし。ね、キャプテン」

「…好きにしろ」



『ロー君がおこです』
「え、そう?いつものキャプテンだけどね」




◇◇◇ ◇◇◇





「おぉ、クロムじゃねェか」
「船にいたのに挨拶してくれないなんて、水くさいぜェ」

『いやいやぁ、ちょっとローとの約束忘れて急いでたからさ』

甲板を降りながら悪い悪い、と久しぶりに会ったハートの海賊団のクルー達に伝えていた。未だにローから奪った帽子は被ったまま



「いつまで人の帽子を被ってるんだ?」
『ローの帽子ってモフモフしてるから被り心地良いんだもん』

「あんまり帽子取らないもんね。取って外出るの滅多に無いんじゃない?」

確かにベポの言う通り、帽子のないローを外で見ると見慣れない様な違和感があった



『今更だけど、ローって髪の毛案外ツンツンなのな』
「男は大抵そうだろ」

「えー、そんな事ねーよ。マルコとサッチは論外として、エーッ…」

エースの名を口にした途端にまた昨夜の事を思い起こされ、口を噤んだ。別に意識していないのに、印象的だったからなのか、思い出してしまう

一方、急に語尾が途切れ、何だと思えば、クロムはさっきとは打って変わって複雑な表情を浮かべているのにローは首を傾げた

最後に言い掛けたのは…火拳屋の名前か…?



「火拳屋がどうしたって?」
『べッ…別に何でもねぇよ。もう買い出し行こうぜ』

明らかにはぐらかせた所を見ると、火拳屋に何かしたか。それとも何かされたか。あぁやってはぐらかす所を見ると…恐らく後方か。ベポを引っ張って船を降りていくクロムを見て思わず苦笑した





◇◇◇ ◇◇◇






「お前、何かあったのか?」
『は?何でだよ』

前をベポ達が歩き、その後に続いてローとクロムが並んで歩いていた。クロムはいつもより明らかに元気がない

聞かれたくない内容なのか尋ねてきたローをクロムは睨み上げる



「火拳屋の話になってから妙に機嫌が悪い」
『ぅッ…うるせぇよ。別にエースとなんか…』



「煽らないでくれ」

またあの言葉だ。妙に辛そうな、そんな顔してた…って、また思い出してるじゃねぇか。無言で俯いていると、頭に突然重みが乗った

見上げるとローがあたしの頭に手を置いている



「深くは問わねェが、前の時みたいな事じゃねェなら良い」

『前って…あぁ、あれか』

前の時とは、盗賊に襲われた時の事だろう。ローはあれを今でも気に掛けてくれているらしい。それに気付いて笑みが零れた



『相変わらず、ローは優しいのな』
「…うるせェ」

ローにそのまま頭を雑に撫でられた。未だにローへ返さず被っている帽子越しからだった為か、表情は見えなかったが、優しいと言われて多分照れ隠しでやってるんだろうとは思った








「あれ、キャプテンヤバいかも」

前を歩いているベポが突然立ち止まった。ベポの大きな背中から道の先は見えなかったが、ベポは前の方を指差して続けた



「あれって、海軍だよね」
「は?」

海軍と聞いて、あたしとロー、そして雑談していた周りのクルーも前方に目を懲らす。確かに数キロ先に白いコートを靡かせている団体がいた



『確かに海軍らしいな。狩るか』
「Σいやいや、やめてやめて!お前が銃握ったら大事になるんだから!」

海軍の姿に気付けば、最早殺意しか芽生えずに懐から取り出した銃のセーフティを解除すると、ペンギンに慌てた様子で止められた



「あっちはまだこっちに気付いてないんだし、一先ずここは退こうぜ」

「どうする?キャプテン。買い出し出来る町の入り口はあいつらの先の方にあるんだけど」

「リスクを犯す必要はねェ。船に戻ッ…」
「海賊がいたぞぉ!」

突然背後からの怒声。振り向けば、背後数百メートル先に海軍が武器を片手に此方へ駆けてきていた。その怒声が聞こえたのか、先ほど前方にいた白いコートの団体も此方へ向かってきていた。やはり海軍だったらしい

今の現状は挟み撃ちになってる状況だ





「…クロム」
『はいよ』

「不本意だが仕方ねェ。後ろは任せる。恐らく仲間を増やしてくる可能性がある以上、ある程度バラして町の方へ誘導しろ。そこで全員片付ける」

『は?何でそんな回りくどい事…』

「近くに船があるんだ。下手に戻って追っ手に場所がバレるのは好ましくねェ」

『あ、なるほど。じゃあバラして残った奴らを町に誘導すれば良いんだな』

ローは頷いた。海軍嫌いのあたしからしたら、その場で全員バラしたいところだが…仲間に危険が及ぶのはそれ以上に嫌だからな。仕方ない

銃の弾数を確認しながらロー達に背を向けた直後に腕を掴まれた。何だと思い、振り向くと何故かローは眉を寄せている


「その帽子、絶対に無くすなよ」
『あ、被ってたんだったな。案外フィットしてから忘れてた』

というか、真顔で子供みたいな事を言うな…
そんなに心配なら奪い返せばいいのに。それをしないローはやはり優男である。思わず小さく吹き出し、はいはい、と了解して再び背を向けた

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