連絡







次の日の朝。起きて急いでマルコの部屋へ向かった。昨日の昼間の事でかなり煩く臍曲がりな事を言ってしまったから怒ってないといいけど…

ただノックするのにも今はイヤに勇気がいる。顔を強張らせながら覚束なくノックした




「開いてるよぃ」

寝起きで機嫌が悪くなる訳でもないマルコ
マルコの事だから早く起きていたんだろうか





『おはよ、マルコ』
「クロムか。どうしたんだよぃ」

部屋に入って見たマルコの表情もいつもと変わらない。それだけ見ると怒ってはない…みたいだが。昨日の事もあったからか、さすがにクロムが部屋に訪れたのにマルコは目を丸くした





『朝早くにわりぃな』

「別に悪くないよぃ。んで、どうしたんだ?」

『いや…そのッ…』
「何だよぃ。妙に落ち着きねェな」

『昨日は…ごめん』
「は?」

気の抜けた返しに思わず俯いていた顔を上げた。マルコはキョトンとしながら此方を見ていた




「昨日って…何だよぃ?」
『は?』

今度はこっちが間の抜けた声が出てしまった。まるでマルコは昨日の揉め事を忘れていた様に首を傾げていた




『いやいや、何って…昨日の昼間の事だよ。娘って事で揉めたろ?』

「あぁ、あれか」

『え、何。もしかして…忘れてたのか?』

「あんなのいつもの事だろぃ。今更あんな揉め事を根に持つ程、ちいせェ男じゃねェよぃ」

普通はこの返しでホッとする筈だが、あっさりしすぎて逆にホントに気にしていないのか心配になる




『ホントに、気にしてないのか?』
「だから、気にしてねェって言ってるだろぃ」

マルコが表情一つ変えない所を見るとホントに気にしていないようだった



「家族ならあのぐらいの揉め事があった方が丁度良いよぃ」

そう満更でもない笑みを浮かべたマルコにクロムも微笑んだ




「立ってんのもなんだから、此処座れよぃ」

ベッドに座っているマルコに手招きされ、とりあえず隣に座った。座って小さく息を吐いた。何か緊張してたのがバカバカしいな…




「オヤジに呼ばれたんだろ?昨日クラウスに聞いたよぃ」

『ん?あぁ、それか』

「オヤジに何か言われたか?」

夜に聞いたオヤジの想いを全て話した。マルコは何処か安心している様な穏やかな表情で聞いていた




『まぁ、こういう訳でさ』

「良かったじゃねェか。それだけオヤジはお前を大切にしてるって事だよぃ」

『マルコは知ってたのか?』

「知ってたは知ってたが、お前自身が気付かねェと意味ないだろぃ」

『そういうもんかねぇ。ま、昨日のオヤジの話聞いてムキになってたのがくだらなくなった』

今は娘で良いと思ってるよ、とクロムははにかんだ様に笑った。その笑顔に改めてだが、マルコはつくづくこいつは男勝りなのが勿体ないと静かに感じた。ふいに頭を撫でるとクロムは目を丸くして首を傾げた





『何だよ』
「いや、何だかんだ言ってもやっぱり女なんだなぁと思って」

そう言われて今となっては言い返す気にはならなかった。それはきっとオヤジから改めて聞いた想いを知ったからかもしれない




『お前ってホントに兄貴って感じだな。家族想いだし、あたしもそんなになってみてぇよ』

後ろに仰け反りながら言ったクロムに、マルコはお前ほどに身内に甘い奴はいねぇだろ、という言葉を出しそうになったが我慢した




「家族想いっつーなら、それはオヤジに言った方が良いよぃ。オヤジは世間から嫌われ者扱いされてた俺達に家族って言ってくれたんだからな」

マルコは懐かしそうに目を細めて言った。オヤジは何それ構わずに家族にしている訳ではない。本当にこいつは息子にしたい、と思う奴にだけ手を差し出す

以前にサッチが言っていた事だ
本当に息子にしたいと思った…か
あたしの時もそうだったのかな





「何ニヤついてんだよぃ」
『Σえ、ニヤついてたか?』

妙にくすぐったい感覚。あたしをちゃんと見て娘にしたのならそれ以上に嬉しい事はないだろう




『なぁ、マルコ。オヤジ言ってたんだぜ?あたしは他の息子より男らしい所があるって』

お前より男らしい所があるって事だよなぁ?、とドヤ顔で言うとマルコはピクッと眉を動かした。そしてケラケラ笑っているクロムの頭をベシッと軽く叩いた




「調子に乗るんじゃねェよぃ」

『でもどうよ、サッチよりは男前だろ?』
「それは認めてやる」

真顔で即答したマルコ。自分で言っておいてなんだが、可哀想なサッチ





「でもな、たまには女らしくしても良いと思うんだがな。たまにホントに女かよって思うくらいに男勝りだし」

『それはありがたいこったな。あたしは女だけど女と思われるのは1ミリも嬉しくねェ』

「女=弱いじゃねェだろうよぃ。別に」

『うるせェな。ここのヤツらはそうかもしれねぇけど、他のバカ野郎共は女ってだけでなめてきやがんだぞ?その屈辱感たらねぇよ』

足を組んで気ダルそうに言った。それは思い込みではなく、実際に体験しているからだ。白ひげ海賊団に入団した当時だって本当に白ひげ海賊団なのか?となめられた

そうあたしにほざいた男の末路なんて言わなくても分かるだろう




「俺、心底お前と家族側で良かったと思うよぃ」

マルコが苦笑しながら言ってきた。は?と返すとため息を吐きながらも答えてくれた




「俺としてはお前には女として生きててほしいからねぃ」

『良かったな、家族で。もし白ひげでない前の私に言ってたら串刺しにしてたわ』

「ホントに恐ろしいわ、お前」

冗談だと分かっていても寒気は感じた。それはきっと実際にこいつを女呼ばわりしてなめてかかった男達の最期を見てきたからだろう




「俺も命は惜しいよぃ。頼むから口喧嘩だけで済んでほしいもんだな」

『そりゃあ大丈夫だ。家族には手ぇ出さねぇから』
「キレた時のお前を考えると信じられないよぃ」

『んじゃあ指切りするか?』

ほれ、と小指を立たせたクロムにホントに約束出来んのか…と半信半疑なマルコだったが、ズイズイと急される勢いに負けて大人しく指切りした








◆◆◆ ◆◆◆









『なぁ、サッチ。お前たまには髪下ろしたら?』
「あ?リーゼント無くなったら俺じゃねェだろ?」

ある日の朝8時。あたしは寝起きのサッチの髪を解かしていた。時々頼まれるが、今日もいつも通りのサッチの髪型




『たまには気分転換も良いんじゃねぇか?カッコよくなると思うのに』

「じゃあクロムがキスしてくれたらいいぜ?」
『はぁ!?』

「冗談だ、冗談」

サッチが椅子から首をのけぞりながら歯を見せ、笑って言った。いつもの様な悪戯っぽい笑み。それに口を尖らせた




『心臓に悪いんだが?』

「いやー、最近お前女っぽく見えてきたからな〜。からかってみたんだ。本気なら嬉しいんだけど?」

『なッ…何言ってんだ馬鹿!髪一本残らず刈るぞ!』
「Σおーいおいおいッ!それは勘弁だ!マジでッ!」

バリカンに手を掛けたクロムを慌ててサッチは宥めた




『んで、どうすんの?髪型』

「まぁ、とりあえず今日もいつも通りで頼むよ」

満面の笑みで言ったサッチが何か可愛くて、クスッと笑みが零れた。あー、これだからサッチは憎めないよな…ホント

それからサッチのおかしな話を聞きながら淡々と髪をセットしていた









◆◆◆ ◆◆◆











サッチの髪を整え終えて、何気ない話題で盛り上がっていると、突然小電伝虫が鳴りだし、思わず怪訝に顔を見合わせた。そしてクロムはゆっくり小電伝虫を手に取った



『誰だ?』
〔おお、クロムか?〕

『あぁ、スクアードか』

雑音と共に小電伝虫から聞こえた声の主は意外にもスクアードだった






『どうしたんだよ、珍しいな。お前から連絡が来るなんて』

〔あぁ。今偶然通り掛かった海岸沿いの所で、ジンベエとあのスペード海賊団の船長が闘ってたから伝えようと思ってよぉ〕

『…え、何だって?』
〔だから、ジンベエとスペード海賊団の船長が闘ってるんだよ、今。あの2人の身体見た限りじゃあ、何日かぶっ続けで戦ってんだろうな〕

暫く唖然とした。あのポートガス・D・エースとジンベエが戦っている。何の為に…そんな事…

名を上げる為か
はたまたただ己の力を知る為か



『分かった。ありがとうな、わざわざ』

スクアードとの通信を切り、クロムが小伝電虫を元の位置に戻すと、後ろからサッチが声を掛けた






「何かあったのか?」
『それが…』

クロムはスクアードからの電話の内容を話した。内容を知らされてサッチも唖然と目を丸くした





「マジか」
『マジだ。オヤジに知らせた方が良いのか?』
「良いだろーなぁ。内容が内容だ」

苦笑したサッチに釣られて苦笑し返した


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