出逢い
昨日の出来事から、一夜が経った
あの後、オヤジが気を失ったエースを担ぎ船に戻って来て、手当てした後、甲板上の空き部屋に寝かせられた
『サッチの言った通り、仲間になったな』
「だろ?」
「すぐに慣れればいいがなぁ」
慣れる筈ない。戦いを売って負け、殺されずに命を取り留めた。屈辱だと思われても仕方ない
『なぁ、サッチ』
「ん?」
『エースがあたしと似てるなら多分…いや、絶対に何ヶ月かは慣れないと思う』
「まだ決めつけちゃあいけねェぜ?」
「何の話だよぃ」
「エースがクロムにそっくりっつー話」
マルコはなるほど、と頷いた。その反応を見て、小さく息を吐いた。やっぱり似てるのか。あたしとエースは…
そんな話をしていると、部屋の扉が開いた。中からは浮かない表情のエースが出て来た
エースの所へ行こうとしたクロムの肩をサッチが掴んだ。怪訝そうにクロムが見上げると、ニッと得意気に笑ったサッチがエースの所へ向かって行った
クロムは心配そうに眉を寄せながら、マルコは黙って、サッチの背中を見送った
『あいつ、大丈夫かな?』
「さぁな」
『そういえば、あたしの時もサッチだったな…』
「よぉ〜、新入り」
『……』
「そんな怖い顔すんなよー。俺はサッチ。お前はハーツ・クロムだろ?」
『…気安く喋り掛けてくんじゃねぇよ』
「なぁ、クロム。お前はこの白ひげ海賊団で唯一の女なんだぜ?知ってたか?」
『興味ねぇよ。いい加減にしねぇと殺すぞ』
「なぁに言ってんだよ?俺達もう仲間で家族だぜ?」
『うるせぇーッ!あたしはてめーらの仲間でもなければ家族でもねぇし、白ひげ海賊団でもねぇッ!あたしはユースティティア海賊団だッッ!』
「だから、オヤジがお前に娘になれって言われた時点で、お前はオヤジの家族で、オヤジのむ…」
あの時あたしはサッチの言葉に激怒して、思わず胸倉掴んだ…
『あんな言葉だけで私物扱いなんざ、ふざけてるな』
「私物じゃねェって。娘だって」
『てめぇ等がどう思おうが勝手だが、必ずあたしを船に乗せて治療した事を後悔させてやる』
「仲間殺しは大罪だぜ?」
『大罪だろうが何だろうが、白ひげを殺しててめぇ等も1人残らず八つ裂きにしてやるよ』
「お前、サッチにそんな事言ってたのかよぃ」
『その後はサッチ突き飛ばして、さっさと部屋に戻ったよ』
「散々だねぃ」
『いやぁ、ホント。よく馴染んだもんだよ。あの頃はオヤジに復讐する事だけしか考えてなかったし』
「その時点では、末恐ろしい娘だよぃ」
『後でサッチに謝ろ。何かすげぇ申し訳なくなってきた…』
「大丈夫だろぃ。あいつのメンタルは強化ガラスで覆われてるからねぃ」
『え…何?そういう問題?』
「ふざけんな!誰がお前らなんかとッ…!」
「だが、オヤジに負けた時点で、お前は俺達の仲間だぜ?」
「黙れッ!俺はお前らと仲間になる気なんてねェッ!」
そう怒鳴り、エースはその場を去って行ってしまった。思った通り、エースは嫌悪の情を抱いている様だ。1人になったサッチにマルコとクロムは歩み寄った
『どうだった?見てた限りじゃ…難しそうだったが』
「ありゃあ、当分無理だな」
「まぁ、そんなもんだろぃ。急に仲間って言われても、頭が混乱するだけだ」
分かっていた事とはいえ3人は顔を見合わせ、溜め息を吐いた
「クロムと時みたいに、掴み掛かられると思ったぜ」
『げッ…覚えてたのかよ』
「いやいや、かなり印象に残るって」
「それに関して、言いたい事あるんだよな?クロム」
「はい?」
『ぁッその……あの時あんな事して…ごめん…』
クロムが眉を下げて申し訳なくしていると、その姿に目を丸くしたサッチだが、何故か盛大に噴出し、その笑いを口に手を当てて抑えた
『何で笑うんだよ!』
「だってよぉ、ホントに申し訳なく謝ってるからついな」
『いや、さっきのエースとのやり取り見てて、何かあたしの時も苦労してたんだろうなぁって…』
苦笑したサッチはクロムの額に軽くピンッと指を弾いた
「はいはい、これでチャラ。もう仲間であって家族なんだから過去の揉め事は気にしなーい」
胸をドンッと叩いて、笑うサッチにクロムは苦笑した
「…強化ガラス」
『あ、なるほど』
「ん?何だ何だ?」
「『何でもない』」
◇◇◇ ◇◇◇
あれから、エースからのオヤジに対する復讐は続いた
寝込みを襲ったり、オヤジの検査の時に襲ったりと、その数は数百回に上った。途中で止めさせようとしたが、サッチから気の済むまでやらせとけ、と言われ、止められた
そんな中、今日もサッチとマルコ、そしてあたしの3人はいつもの様に船縁で雑談していた
「どうしたよぃ。クロム」
『ぁッ…え、何?』
「ボーっとしてたぞ?」
『いや、エースがまた1人でいるからさ』
不意に船の奥を見て、またエースが1人で海を眺めている姿があったからつい気になってしまった。またあの浮かない表情。仲間になったのなら、少しでも笑っていてほしい
今はそんな事言えないけど
「Σおいッ!あれって海軍じゃねェか!?」
隊員の1人が海の奥を指差しながら叫んだ。その声に賑やかだった甲板が静まり返り、クルー達は一斉に隊員が指差す方向に視線を送った
「ホントだ!海軍だッ!」
「1、2………5隻はいるな」
「昼間から大層なこったな〜。ま、楽勝だろ?クロム」
『何であたしに言うんだよ』
「最近見れなかったからなぁ。クロムの戦ってるとこ」
『はぁ?見なくてもいいだろ。てか、海軍の相手するの超めんどい』
クロムは口を尖らせた。そりゃあ、あんな海軍何隻いても大して変わらない。ただの大将の元でいきがっている犬共
相手するだけ無駄だとクロムは思っていた
『ほっとけほっとけ。相手するだけ無ッ…Σぅおッ!』
突然クロムの両手を握り締め、目をキラキラさせている隊員達。その期待する様な瞳に苦笑し、まさかと思った
『何だよ、お前ら。その目は…』
「俺達!隊長が戦う所久々に見たいですッ!」
『はぁあ!?』
次々に挙手して意気揚々と参戦するクルーの中でクラウスまでも可笑しそうに笑いながら、隊員達に賛成していた。それに困った様にクロムは頭を掻いた
『たく、こいつ等は…』
「まぁまぁ、新入りも入ったんだしよ?」
「新入り」と聞いて、自然的にエースの方へ目を向けてしまった。さっきまで海を眺めていたエースは甲板が騒ぎ始めたからか此方を見ていた
『ハァ…』
◇◇◇ ◇◇◇
『んじゃ、行ってくるぞー』
手をヒラヒラさせて船縁に乗り出した。結果的にみんなの勢いに流される様に行く事になってしまったが、いつの間にかその気にはなっていた