仲間入り
『エースの奴、何処居んだ?』
廊下をキョロキョロと見渡したながら歩いていた
また船内で昼寝か。はたまた迷子か
ガチャッ
『エース?』
ガチャッ
『エース?』
ガチャッ
『おーい』
ガチャッ
『エーッ…』
「何してんだ?お前」
後ろから声を掛けられ振り向くと、さっきから捜していたエースが立っていた
『おぉ、いたいた。甲板にいねぇから、また中で迷ってんのかと思ってな』
「お前は俺の親か…つーか、心配しなくてももう迷わねェよ」
『へぇ、あたしは暫く迷ったがな』
「クロムって案外おっちょこちょいなんだな」
『どういう意味だー!』
「わりぃわりぃ。からかっただけだ」
愉快そうに明るく笑うエースに、自然に笑みが零れた。数週間が経ち、以前では考えられない今のエース。すっかり、あたし達の家族になっていた
『あ、今日は宴だってさ』
「宴?誰の?」
『決まってんだろ?エースとスペード海賊団のクルー達のだ』
「俺達の!?」
『そうだぜ?正式に祝ってなかったし、結構みんな張り切って準備してるから、盛り上がる宴になるぞー!』
「俺達の為に宴なんて、嬉しい事してくれんなぁ」
エース照れ臭そうに頭を掻いた。エースは素で笑っている。こんなに笑い合えて、笑顔で話せる日が来るなんて…
本当はあのまま船を降りてしまうのではないかと心配してしまっていた。だから本当に嬉しい。今こうして家族で笑い合える事が…
『なぁ、エース』
「ん?」
クロムはエースの顔を見上げ、嬉しそうに笑った
『家族になってくれてありがとな』
「お…おぉ」
エースは改まって言われた事に驚いた表情をしたが、はにかみながら頭を掻いた
「お前の言った通り、白ひげ海賊団は今まで会ってきた海賊とはちげェな。口先だけの奴らじゃなかった」
『だろ?だからあたしは信じられたんだ。エースも信じられるって気付いたから、此処にいるんだろ?』
「そうだな」
“家族”という重みを分かっているオヤジだからこそ、信じられた。エースも、そう感じられているみたいだ
「ところでお前、白ひげのマークは何処に彫ってあるんだ?みんなどっかしらには彫ってんだろ?」
エースはクロムの身体をまじまじと見た。白ひげ海賊団に入団した者は、何処かしらに海賊旗を彫っている。因みにエースは背中にでかでかと彫っていた
「見た限り…ねェな?」
『あたしは服越しには見えねぇんだ。でもちゃんと彫ってあるよ』
ほれ、とクロムは服の襟を躊躇いもなく左の胸元まで下げた。そこには確かに白ひげのマークが彫られていた。だが、胸元まで見えてエースは驚きで一気に顔を赤くし、目を咄嗟に逸らした
「お前は…普通、男の前で躊躇なく見せるか?」
『何だよ、エースが何処って聞いたんだろ?』
「そういう所にある時は口で言え」
『何で?』
「は?何でって…言わなくても分かるだろ」
無自覚発言。“家族”という仲間でいるからといって、安心しすぎているのがクロムの悪い所だと薄々だがエースは感じ始めていた
『エースは万年上半身裸じゃねぇか』
「俺は男だから良いんだよ。そんな無防備だといつか襲われんぞ?」
『は?襲われるわけねぇだろ。そんな隙作らねぇし』
「絶対お前は隙作るだろ。家族っつっても男だらけの所に女が1人だぜ?」
『ないない』
ホントに身内に対しては全くと言って良いほど無警戒で無防備だな…
エースは浅くため息を吐いて、本気でこれからのクロムの身が心配になった
『あ、宴は夕方。朝からはみんな買い出しに行かなきゃいけねぇから』
「買い出しってことは、俺逹も行くのか?」
『そうじゃねぇの?人手もいりそうだし』
「おぉ!だったら一緒に行こうぜ!」
『おー、良いぜ』
お互い歯を見せて笑い、買出しに向かう準備を始めて騒がしくなっている甲板へ向かった