気持ち









『ただいま』
「うぃーっす」

「あ、お帰りなさい。クロム隊長、エース」

「海軍はいなかったのか?」
「いや、いなかった」

エースとクルーが話している隣で、甲板をキョロキョロとクロムは見渡した




『なぁ…クラウスは?』
「クラウスなら部屋にいたぜ?」

『…そうか』
「何か副隊長、いつになく仏頂面でしたけど…何かあったんですか?」

『ぇッ…いや…』

「気のせいだ。気のせい」
「そうですか?」
「もうすぐ飯の時間だし、その時には機嫌も直ってるだろ」

そうだな、と反応しないクロムに代わってエースが相槌を打った。クルー達が離れてからもクロムは変わらず黙っている




「クロム」

我に帰ったのか、肩を跳ねらせて反応したクロムにエースは苦笑して何気なく頭を撫でてやった




「あいつらが言ってたみてェに、飯の頃にはすっかり機嫌直ってるだろ」

『今日はもういい。何か食欲ねェし…私はもう休む』

クロムは苦笑しながら自室に戻っていった。エースは引き止めようと思ったが、敢えてそっとしておく事にした

やっぱ、かなりテンション低い…つーかもう声からして元気がねェ…






「どうしたもんかねェ」
「どうしたんだよぃ、エース」

振り向くと、そこにはマルコが腕組みしながら首を傾げていた。マルコ自身、クロムの今朝からの様子を心配していた




「クロム、元気無かったみたいだったが…クラウスか?」

「相当落ち込んじまったらしい」
「そうか、まぁそうだろうな」

「そっちはどうだったんだ?クラウスの様子は」
「イライラしてたのはホントみたいだよぃ。ま、本人の気持ちだからな。詳しくは知らねェよぃ。それからは自部屋から1回も出て来てねェ」

マルコは困った様に苦笑した。エース自身、クラウスもクロムに会いにくいんだろうと直感で悟った








◇◇◇ ◇◇◇









部屋に入ったら、直ぐに布団に横になり、枕に顔を埋めた

あぁ…ダメだダメだ。こんなんじゃ。てか、マジで心当たりなんてねェし。あ、もしかして今までいっぱい心配や迷惑かけたから、それが積み重なってッ…

それじゃあ、確実にあたしのせいじゃねェかよ
ばりばり心当たりあるじゃん



『あぁあ!くそ!』

どうすれば…このままクラウスと話せなくなるのは絶対嫌だ。誰かに相談?いやいや、これはあたしの問題なんだから自分で解決しねェとダメだろうが

もんもんとただ考えていても、嫌な考えしか浮かばない
身体も重いし、頭もどんよりだ



『もう明日にしよう。今日は何か…疲れた』

クロムはうつ伏せから仰向けに体勢を変え、静かに目を閉じた







◇◇◇ ◇◇◇







数時間経ち、空には太陽ではなく月が顔を出す頃。夕飯の時間はとうに過ぎ、クルー達が寝静まる時間となった。静まった甲板をクラウスはある人物の部屋へ向かっていた

決して穏やかとはいえない顔立ちで。そして、その人物の部屋の前に向き直った

この時間帯では大抵寝ているか。いびきが聞こえない所からして、起きてはいるか…

クラウスは目の前の扉を軽くノックした





「おぉ、開いてるぞー」

目的の人物とは、イライラの根源であるエース

黙って扉を開けると、当の本人はベッドに仰向けで横になっていたが、訪ねてきたのがまさかのクラウスである事に気付き、目を丸くしながら起き上がった





「クラウスじゃねェか」
「おぉ」

「珍しいな?クラウスが俺の部屋来るなんて」

歯を見せて笑い掛けてきたエースに何も返さず、クラウスは無言のまま近くにあった椅子に腰掛けた。そして数分、クラウスは無言のまま黙って俯いていた。が、漸く口を開いた




「エース。お前、クロムの事、どう思ってんだ?」
「は?急に何言ってんだよ」

「分かんだろ?お前」

「なぁ、朝からおかしいぜ?クロムに何かあんのかよ?」
「聞いてんのは俺だ。さっさと答えろ」

エースは困った様に頭を掻いた

まさかこんな単刀直入に聞かれるとは思っていなかったからだ。これは冗談混じりな返答をしたらまずい、と場の空気から察した。そして少し間を空けて、エースは答えた


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