恩人
翌日。昨日の事があったものの、クロムはクルー達にはいつも通りの笑顔で接していた。幸いあの手首の傷に深く触れてくる者はいなく、ただのかすり傷だ、と一言言えば皆が納得していた
今は船縁に座り、ボーッと海を眺めていた
「クロム」
『よう、エース』
極めていつも通りに振る舞うクロム。包帯を1人で替えたのか、昨日よりは巻き方が整っていない
「お前、包帯自分で替えたのかよ」
『まぁな。ローよりはかなり雑だが、問題ねぇよ』
「船医にでも頼めば良いだろ?」
『今朝見たらまだ縄の痕が残ってんだ。船医に見せたら、お前みてぇに縛られたのかって変に無駄な心配させちまうだろ』
ローにも言われたしな、と付け足すと、エースの顔が少しばかり怪訝そうな表情に変わった
『んで、何か用か?』
「いや…昨日の奴の事が知りたくてな」
『昨日って……あぁ、ローの事か』
クロムは思い出した様に口元を緩まし、船縁から降りた
「前から知り合いみてぇ感じだったよな?」
『まぁな』
「命の恩人っていうのも気になるし…教えてくれよ。お前とあいつの事」
クロムは微笑みながら頷き、その場に座り込み、船縁に寄り掛かって、話し始めた。エースも同じ様に座り込み、耳を傾けた
『は?この島は武器を売るので有名な島?』
「そうらしいぜ?何でも武器の種類では世界一らしい」
『で?』
「お前、そろそろ銃買い替えた方がいいんじゃねェか?」
クラウスの言葉に怪訝そうにクロムは眉を寄せた
『何でだよ』
「お前が使ってる銃。もう長く使っててボロボロじゃねェか」
クラウスに指摘され、懐からその問題の銃を取り出し、まじまじと確かめた。確かに改めてよく見ると、所々ボロが出ている
航海した当時から愛用している銃だから長年と言えばかなり使い込んでいる気はする。だが、愛用しているからこそ手放すのには惜しかった
『まだ大丈夫だろ』
「そんなボロボロで戦ってる最中とかで故障するなんて事になりかねないだろ?暴発したらどうすんだ」
『…あぁ、なるほど。要はあの島に買いに行けってか?』
「別にいいんだぜ?あの零番隊の隊長が愛用の銃の暴発で重傷!なーんて新聞に載っても平気なら」
ニヤニヤしながら言うクラウスにイラッと青筋を立てたクロムだが、それがホントになったら洒落にならない。世間にそんな事広まったら、オヤジの恥になるし…
少々面倒だが、結局島に買い出しに向かう事になった
いつも通り、オヤジに許可を取り、クルー達の賑やかな見送りをされて船を離れた。ストライカーで数分の所に陸があり、人目の付かない岩場の影に上陸した
『へぇ、結構綺麗な眺めじゃねぇか』
島に上陸したクロムは、とりあえず商売人が集うと言われている島の中央に向った
「おい、姉ちゃん。こんな危ない所に来るなんて、男でも探してんのか?」
向かってる最中に肩を掴まれた。振り向くとサングラスを掛けた男がニヤつきながら尋ねてきた。あからさまなチャラ男だな…と浅くため息が出た
当然そんな奴に興味が無いクロムは、懐から銃を取り出し、男の眉間に向けた。見掛け倒しな男は案の定、ヒッ!っと銃を突き付けられた恐怖で引き攣った声を上げた
『そんな事で来てねぇんだよ、こっちは。その鬱陶しい面を引っ込ませられねぇなら、手伝ってやるよ』
カチッと銃のセーフティを降ろして鋭く睨めば、男は冷や汗を大量に流しながら足早に目の前から立ち去った
『フン、腰抜けが』
男の情けない背中を眺めながらクロムは銃をしまうと、中央に続いている道を再び歩いた
島の中央に着くと、大勢の男達で騒がしく随分賑わっている。盗賊やら海賊やら賞金稼ぎやらがごった返していた。どんなのが売られているのかとりあえず知る為に、クロムは騒がしい中に入って行った
「おいおい、見てみろよ。女がいるぞ?」
「珍しい事もあるモンだな。こんな所に女なんてよぉ」
男達の中に女はクロムしかいない。すれ違う男はみんな、不思議そうに目で追った
そんな事一切気にせず、クロムは愛用の銃を眺めながら手頃な武器が無いか1つ1つ出店を回った
『やっぱ女は他にいねぇのか』
予測していた事ながら、クロムはそんなに驚いた素振りはしなかった
「そこの姉ちゃん!どうだい、見ていってくれ!」
「俺の所も見ていってくれ!サービスするからよぉ!」
珍しい女の客とあって、出店を出している男達が次々にクロムに宣伝した
『すげぇな、バズーカなんかも売ってんのか』
「俺の所のバズーカは性能じゃ、何処にも負けねェぜ?」
『あたしバズーカは威力あるから好きだけど、実戦じゃ相性悪いんだ』
「そうか、残念だな…」
「じゃあ俺の店はどうだ姉ちゃん!俺の店はナイフとか近距離タイプの武器を揃えてんだ!」
次々に宣伝される。それにクロムは確かに品揃えはいいな、と思わず苦笑した。その後も宣伝の波に飲まれながらも自分にあった銃はないか店を転転としていった
◇◇◇ ◇◇◇
『やっぱ自分にあった武器なんて、そう簡単に見つからねぇよなぁ』
2時間掛けて全出店を回ったクロムだったが、結局自分にあったモノは見つからなかった。最後に替え弾だけ必要程度買い、未だ賑わう男達の中を引き返していた
『まぁ、武器は無かったけど…結構良い弾があったからよしとするか』
銃に買った弾を射し入れ、モビー・ディック号に戻ろうと思った時…
ドガァァアアンッッ!
一瞬辺りが真っ赤に照らされたと思えば、突然の爆音。辺りには爆風と砂煙が吹き付けた。それに驚いた男達が慌てた様子で逃げていく
出店は風圧でほとんど吹き飛ばされ、売り物の武器が辺りに散乱した
『何だ…』
クロムは爆音のした方を見構えた。あんなに大勢いた男達は足速に逃げ、出店が無残に倒れてしまっている
やけに嫌な予感がする…
見構える先は未だに砂煙が漂っていて見えない。肌にビシビシと痛い程伝わる威圧感からして、ただ者じゃないとクロムは嫌でも感じてしまう
思わず息を呑んだ…
「何じゃ腰抜けの集まりかいのぉ」
砂煙から聞こえた声に、クロムは目を見開いた。聞き覚えのある声。いや、この世界にこの声を知らない奴はいない…
まさかッ…アイツが…?
半信半疑だが、嫌でもアイツとしか思えない鋭い殺気。気付くと、銃を持つ手が微かに震えている。本能的に危険としか頭から信号が送られて来ない…
海賊なら誰でも絶対に出会したくない人間…
「こんな所で武器を売っていれば、海軍に知られても可笑しくないのにのぉ」
海軍の絶対防御
海軍のトップである“センゴク”の守り刀
海軍3大将の1人
『赤犬ッ…』