予想外






『ただいま、オヤジ』
「何だ?妙に疲れた顔しやがって」

遅めに帰ってきた事もあり、オヤジに帰った事を伝えに行くと、早々に言われた。まぁ、確かに今日は妙に疲れた気がするけど…



『別に。ただ此処の島の連中がかなりウザかっただけだ』

「そうか。それは災難だったな?」

ため息混じりに言うと、オヤジは可笑しそうに笑って、いつも通り手元の酒を喉に流し込んだ



『あ、でも久々に顔見知りに会ったんだ』
「ほぉ、顔見知りってェのは誰だ?」

『スモーカーとたしぎちゃん。知ってるだろ?』
「海兵のか?」

『それ以外いねェだろ』

「おめェの口から海兵の名前が出てくるとは、珍しい事もあるんだな?」

あんなにいつも海軍を忌み嫌っているクロムから出てきた海兵の名前。尚、物珍しそうな視線を送っているオヤジをクロムは軽く睨み上げた



『勘違いすんなよ、オヤジ。あたしは変わらず、海軍なんて滅べば良いと思ってる』
「だが、そいつら2人は違うんだろ?」

『……まぁな』

「聞いてみてェな。海軍が人1倍嫌うおめェが何でその2人を好くのか」

『いや…そんな特別な出逢い方はしてねェよ』

クロムはオヤジの隣に座り、思い出す様に口を開いた










『白ひげ海賊団の領地が荒らされてる?』
「あぁ」

朝方。突然呼び出されたと思えば、マルコから言われた報告。何でも、最近白ひげ海賊団の領地である島の1つが妙に荒らされているという内容だった



『それって、完全にオヤジに喧嘩売ってるって事だよな?』

「…恐らくな」

何処の命知らずだ、と正直思った。オヤジを敵にまわすという事は、白ひげ海賊団全体を敵にまわしているのと同じ事だ。モビー・ディック号に乗ってる何百のクルーだけでなく、傘下の海賊団も敵になるという事…

死にたがりなのか、はたまたそこまでの自信があるのかはどうでも良いが、ただ…オヤジに対する侮辱行動だと思うと腸が煮えくりかえる気分になる



『んで、何であたしを呼び出したんだよ?』

「その荒れてる情報のあった島に行って、様子を見てきてほしいんだよぃ」

『1人で良いのか?』

「いや、今回はもしかしたら予想外の相手が荒らしてる犯人かもしれねェからな。零番隊全員で行ってもらうよぃ」

『あたしは構わねェけど、1つ聞いてもいいか?』
「何だよぃ」

『殺して良いんだよな?そのゴミ』

不適に笑うクロムに、マルコは少しばかり悪寒がした。朝の寒さからでは決してなく、静かに漂う殺気を感じ取っての悪寒…

マジ切れ寸前…て事かよぃ…



「オヤジの許可は貰ってる。お前の好きにしろぃ」

『了解』

それから昼近くになると、クロムは零番隊全員を甲板に集めさせ、今朝マルコから頼まれた内容を伝え、すぐさま船を降りた





「零番隊全員来させる必要はあったのか?」

『相手はオヤジに喧嘩売ってる奴だ。もしかしたら、結構やる奴なのかもしれねーだろだってさ』

正直、犯人が誰なのかの目星も付いていない。もしかしたらもしかするかもしれない…



「オヤジに喧嘩売るくらいに力に自信があるって事なのかもな?」

「そんな奴、いねェだろ。そうそう」

『どんな奴だろうと容赦しねェよ』

「随分ご立腹みてェだな。俺達の隊長は」
『当たり前だろうが。すぐに見付けたら殺してやる』

「ま、領地を荒らしてるのは気に入らねェな」

それから領地の島の住人に話を聞いてみた。白ひげ海賊団の名を名乗れば、おどおどしながらも住人は答えてくれた

島を荒らしているのは数十人の男。名は名乗らないらしく、突然島に男達が上陸してきた。首謀者と思しき男の顔はフードを被っていたらしく分からないらしい

住人に毎回白ひげ海賊団の事を聞き出そうとして、口を割らなければ殺すだの島を潰すだの脅されているみたいだ

中には殴られたり乱暴されたという住人もいた





『マジでクソだな。そいつ』

「あ、安心して下さい。私達は決してあなた方の事を言ってはいません」

「すまねェな…俺達の領地だからって理由でこんなになっちまって」

「いえ、あなた方が此処を守って下さっていたお陰で、今の今まではホントに平和だったんですよ」

『すぐに片付けるからな。その命知らず』
「…はい」

比較的、この島の住民は他の領地の住民よりは穏やかな性格。だから尚の事、バツが悪かった






◇◇◇ ◇◇◇






「ハァ、こうも手掛かりがねェと正直手の出し様がねェな」

『手掛かりがねー以上は仕方ねーか。一旦出直ッ……!』

クロムの足が止まる。それに釣られて隊員達の足も止まった。ただ止まっただけでなく、クロムは目の前を鋭く睨み付けると懐から銃を取り出した



「お、おい。クロム…どうしッ……ッ!」
「え…あれってッ…」

数百メートル先にゾロゾロと白い服装の団体が見えた。一瞬誰だと思ったが、一斉にその団体がこちらに駆けてくるのに気付き、正体が分かった




「いたぞぉおッ!」
「引っ捕らえろーッ!」


「海軍ッ!?」
「おいおい、何で此処に海軍がいるんだよッ!?」
「は、早く逃げましょうッ!」

『下手に背を向けんじゃねぇッ!あっちは銃を構えてんだッ!弾の餌食になッ…』
ガツッ!


「クロムッ!」
「隊長…ッ!?」

突然大量の白い煙がクロムを押し倒し、押さえ付けられてしまった。何が起きたのか分からない隊員達はただ響めいている



「やっぱり来やがったか。海賊共」
『てめぇッ…』

白い煙がだんだん人の形になり、現れたのは白髪に葉巻を加えた目つきの悪い男





「てめェッ!クロムから離れッ…!」
『馬鹿ッ!海軍が迫ってんだろうがッ!』

「ぇ…Σおっとッ…!」

背後から迫ってきた海軍達が斬り掛かってきた。クラウスは寸前で躱したが、周りを見れば他の隊員達も海軍を相手に斬り合いを始めていた



『ゲホッ…!退けよッ…くそ海軍ッ!』
「海賊に耳を傾ける訳ねェだろ」

馬乗りで押さえ付けられたまま、喉に十手を突き付けられ、呼吸が乱れる



「スモーカーさん!船の準備出来ました!」
「おぉ、たしぎか。遅かったな」

スモーカーって…
あぁ、こいつは【白猟のスモーカー】か。聞いた話じゃこいつの持ってる十手の先には悪魔の実の能力者の力を弱まらせる「海楼石」が埋め込まれてる…だったか…?



「たしぎ、こいつの能力は抑えた。今の内に手錠」
「は、はい!」

能力を抑えた…?
何言ってやがるんだ?こいつら…
………まさかッ…

たしぎとかいうメガネを掛けた女海兵があたしの手に手錠を掛けて安堵した様に表情が和らいだ

あー、やっぱりこいつら…



「何がおかしい」

クロムの口角が上がったのにスモーカーは怪訝そうに更に眉を寄せる


『海軍は本当に標的の情報収集出来てんのかよ』
「どういう意味だ」

『誰の入り知恵か知らねェけど、生憎あたしに海楼石は…効かねェんだよッ!』

クロムは自分を押さえ付けていたスモーカーの腕を掴み、そのまま身体から炎を燃え上がらせた瞬間にスモーカーは煙へ姿を変え、間合いを取ると、睨み付けた



「どうなってやがる」
「あ、あり得ません!能力者に海楼石が効かないなんてッ…!」

『うるせェな。効かねェもんは効かねェんだよ。ホント海軍は情報収集があめェな』

炎を抑えて懐から銃を取り出したクロムは2人を睨みあげながら言い捨てた。海軍相手とあって、余計いつもより殺気を放っている

スモーカーは慣れているのか、平気そうではあるが、十手を持つ手に力が入っている。たしぎは経験が浅いせいか、初めて身体を刺す程の殺気に顔を強張らせた



『お前、白猟のスモーカー…だろ?仲間から噂は聞いてる。随分な海賊嫌いなんだってな』

「海賊は秩序を乱すただの悪党だ。特に…てめェら白ひげ海賊団はな」

『悪党…か。あたしは別に良いが、オヤジを悪党呼ばわりするのは気に入らねェな』

クロムは炎を噴き上がらせ、目の前のスモーカー達を鋭く睨み付けた。一方のスモーカーは十手を強く握り締め、白い煙を噴き出させた




「スモーカーさん!1人では危険ですッ!」
「俺達も参戦しますッ!」

ゾロゾロと後ろから剣を片手に何人かの海兵がクロムの周りを囲み始めた。それにクロムは愉快そうに口元を釣り上げる




『そんな威勢良く集まらなくても安心しろよ。此処にいるお前ら全員、ハチの巣にしてやるから』

目を見開かせて銃を構えながら言うクロムの威圧感に、囲んでいた海兵達は冷や汗をどっと流した



『あー、それとも…火炙りの方が海軍様はお好みか?』

手に炎を溜めると、クロムは勢いよく腕を振り下ろした。炎は数弾の大きな塊となって取り囲む海兵達の方へ向かっていく


「Σきょッ、巨大な炎が迫ってきますッ!」
「な、何て能力なのッ…!」
「防ぐ手段がありませんッ…!」

『丸焦げにしッ…ん?』

取り囲んでいた海兵の前を白い煙が覆った。被弾して爆発すると思っていたが、どうやらその白い煙に瞬間的に炎の軌道を変えられてしまったようだった

軌道が変わった炎は全く違う所に被弾し、爆発を起こしていく




「俺の部下達に手ェ出すんじゃねェよッ!」
「スモーカーさんッ…!」

『へぇ…』

白い煙と共に海兵達の前に現れたスモーカー。広範囲に渡って海兵を守った白い煙の正体がスモーカーであると分かり、クロムは驚くよりも口角を上げて愉快そうに笑った




「あいつの相手は俺がする。てめェらじゃ歯が立たねェ」

「しかしッ…!」
「たしぎッ!あいつ以外にも海賊がいるのを忘れんじゃねェッ!」

たしぎははっとした様に振り返る。確かに後ろには未だに多くのクロムの隊員達と海兵達が斬り合いをしている。それを思い出し、歯を食い縛った後、たしぎはスモーカーに敬礼し、後ろの斬り合いへ参戦していった





『お前、変わった奴だな…』
「あぁ?」

『いや、でも何か嬉しいなぁ。お前みたいな奴が海軍にいたなんてな』
「どういう意味だ」

『あぁ、気にしないでくれ。でも…海軍は海軍だ。手加減しねェぜ』

口元を釣り上げたクロムとより眉に皺を寄せたスモーカーはお互い同時に地を蹴った


/Tamachan/novel/6/?index=1