ハロー・カロリア!

 年末も近づき、一層の寒さを増してくるこの頃。アスナはミタマ地方での降誕祭を終えて、ミアレシティ内にあるプラターヌ研究所へと帰ってきていた。年明け直前には再び、ミタマ地方へ戻らなければならないという強行スケジュールではあるものの、子どもたちや夫とクリスマスを過ごしたいという気持ちは本物だ。少し浮かれ気分でミアレ空港を抜けようとしたところで、愛おしい夫であるプラターヌが両手を広げて待っていてくれたときには、きっといくつになっても、何度でも惚れ直すのだろうと考えながら荷物を捨て置いてその胸にダイブしてしまった。くるくると、二回ほど回って、足をつけた後には、頬や鼻に何度もキスをしてくれて、出迎えてくれた。後ろでは、騎士であるウィリアムが少し困ったように笑いながら、荷物を拾い上げてくれており、プラターヌは彼にもおかえり、と笑顔で返す。長らくともにある彼も、プラターヌにとっては、家族も同然である。
 家である研究所に戻ってきて、アスナはくつろぐ間もなく、部屋の掃除やら洗濯やら、と家事に没頭した。こうしている時間が一番好きなんだ、と前にウィリアムに話したところ、存外家庭人としてやって行けていることに酷く感心されたものだ。一段落ついたところで、ウィリアムがお茶を淹れた、と呼びに来てくれたので、三階から降りて、エントランスへ向かえば、ノア・ティアナ・アレクの子どもたちはすでに揃ってお菓子を食べており、プラターヌも資料を持ちながら、お茶を飲んでいた。

「帰ってきた早々にごめんね、ママ」
「平気よ。こうしている方が気が紛れるし」

 向こうだと、誰も何もやらせてくれないのよ。
 アスナが不満げに発する声に、ウィリアムが肩を震わせた。ああ、どうやらミタマ地方では相当過保護に扱われたことが大層不満らしい。そろそろとウィリアムが伺い見てくることに、アスナはにこにこと笑うばかりだ。
「あ、そういえば、ママ!」
 プラターヌが思い出したように、手を叩いたかと思えばデスクの引き出しを開けて、美しい白い封筒をアスナの前に差し出した。その封筒をしげしげと眺めた後に、アスナは一度開けられた痕跡のある蝋封を再度開封させて、中から二通の手紙を取り出した。一通は、便箋よりも厚手の紙で、そちらを開くとどうやら、メニューが書かれている様子だった。
「これって……」
「シンティランテからだよ〜。前に予約出してたの、どうやら取れたみたいでね!」
「わぁっ!しかも、クリスマス・イブじゃない!」
 きゃあきゃあと喜びながら、アスナがくるくると回っている。それを見ていた、ノアが苦笑しながらも、アレクを抱っこした。
「母さんたち、行っておいでよ」
「え、で、でも!」
「二十四日、一日だけなら俺でどうにか出来るし、この研究所には人は他にもいるし、ウィリアムさんもいるしさ」
「さすがはアスナ様のご子息!! 勿論ですとも、私もおりますから、どうぞ、アスナ様楽しんできてください!」
「いいの……?」
 ウィリアムとノアが揃って頷く。アスナはそろそろとプラターヌを伺う。なんだかんだと行って、プラターヌの研究が一段落ついていないと一緒に行けないのだ。すると、プラターヌもニコリと笑って、部屋の奥からガラガラと旅行鞄を引っ張り出してくる。
「行こうか、ママ!」
「プラターヌ大好き〜!!」
 勢いよく抱きついて、二人とも床に倒れ込んでしまうが、愉しげに笑っている。ノアはそれを見ながら、ふうとため息を付き、アレクと顔を見合わせて笑い、ティアナもいいなーと言いながらも、父と母にお土産の約束を取り付けていた。



「いい、あんまり夜更かししちゃダメよ? ちゃぁんと、ウィリアムや研究員の皆の言うこと聞くのよ?」
「はーい」
「わかってるよ、ママ!」
 アレクとティアナの視線に合わせて、アスナが何度も何度も確認するように告げる。
「ノア、お家のこと、頼んだよ」
「勿論、任せておいてよ」
 プラターヌとノアも言葉をかわして、その肩をプラターヌが叩いて笑った。すると、搭乗を告げるアナウンスが空港内に流れてくると、プラターヌがアスナを促して、ふたりとも搭乗ゲートへと向かっていった。子どもたちがいってらっしゃーいと手を振る中、アスナ様、お気をつけて〜と一人、号泣していたウィリアムには苦笑するしかないが、旅行らしい旅行は久々であるアスナはわくわくしながら、座席についた。
「飛行機なんて、乗り慣れてるのにね! どうしても、こういう瞬間はドキドキしてしまうわ」
「カロリア地方はママも初めて?」
「いいえ、以前王家に招かれて行ったことがあるわ。ほら、ノアも連れて、親善バトルしたのよ」
「ああ、そうだね」
 シートについて、シートベルトを着用する。離陸まで、他愛のない話をしながら、アスナはカロリア地方のパンフレットを広げている。せっかくだ、シンティランテへ行くついでに観光をしたいという意思をプラターヌはひしひしと感じ取って、どうにかして時間を作ろうかな、と考えるのだった。