Introduction


 私は、神様だった。

 神様の落とし子。
 神様の生まれ変わり。
 人と同じ外見なのに、人とは違う。
 生まれながらにして、全ての人から隔離されていた。

 私は、化物だった。
 私は、怪物だった。
 私は、――――人間なのに。



 雨が降っていた。
 しとしとと降ってくる雨を凌ぐものは、茂っている木の葉だけだった。大きな木の幹の根本。木により掛かるようにして、体をうずめている私はただただ、一人だった。寒くて、悲しくて、寂しくて。一人でいることに、私は耐えられなかった。どうして、私が一人なのかわからないまま。私は、一人でいることが誰よりも嫌いなのに。みんな、みんな、私のそばからいなくなってしまう。
 私の何がいけなかったのだろう。
 私の何が悪いのだろう。――――生まれてきたこと?
 赤い髪が嫌いだった。青と緑色の瞳が嫌いだった。
 神子様、と私を呼ぶのに、その影では私を化物と蔑む人々が嫌いだった。
 もう、何も信じたくない。

 愛するべき、友たちすら裏切ってしまった。

 しとしとと、降る雨が肩を濡らす、髪を濡らす。冷たくて、寂しい。
 本当は私は、ずっと、誰かを信じたかった。ずっと、誰かに愛されたかった。誰かに手を差し伸べられて、大丈夫だと言われたかった。
 足音が一つ、聞こえてきた。濡れた土を踏む足の音。
 私は顔をあげなかった。あげられなかった。
「アスナ、」と私を呼ぶ声が聞こえた。優しい声。

「アスナ、もう、大丈夫だよ」

 顔を上げた。
 きっと、涙と、雨でくしゃくしゃになっていた。眼の前にいる柔らかな微笑みを浮かべる少年の後ろから、慌てて走ってくる私の騎士と、少女が一人。更にはその後ろには、私の愛するべき友たちが並んでいた。

 雨が降っていた。
 冷たい雨を遮る、小さな傘が一つ。

 差し出された手を、手にとったその日。
 私は神様から、一人の人間になれたのだと思う。



 ――――この物語は。
 神様だった少女が、一人の人間となり、そして。

 英雄になる物語である。
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