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≪序章≫


行きかう人々、荷物。
笑顔で手を振る者や、涙ぐみ別れを惜しむ者もいるなかに、この二人もいた。


「では、いってきます。」
キャリーケースを引く手を止め、振り返って女は旅立ちの言葉を告げる。


「あぁ。」
195pの大きな体と、白のコートによって目立っているであろう男がそれに応える。


《――――日本行きの便をご利用のお客様は・・・≫

催促するよう流れるアナウンスに、再び足を動かす。


「気をつけろよ、優」
エメラルドグリーンの瞳が優を真っ直ぐと射抜く。
そこには、言葉や態度のようなそっけなさではなく、不器用な優しさが滲んでいた。


「はい。着いたら連絡しますね、承太郎さん。」
優は不器用ながらも、承太郎らしい見送りに笑みを溢してその場を後にした。




――――――――――――――――――――


「優ちゃんや、これなんだがのぅ。」

始まりは、ジョセフの念写であった。
念写した写真は2枚。20代半ばの女性の写真と、女子高生と小学生の男の子が写る写真だった。



「これは・・・。彼らはスタンド使いなんでしょうか。」

それにしてはスタンドが写っていないし、いつものような禍々しさがない。

ジョセフの念者では、スタンド使いはたいてい本体がスタンドとともに、
そしてどこか怪しく写されるのだが今回は違っていた。



「はて、わしにも分かりかねるわぃ。じゃが、写るということは何かあることは確かじゃのぅ。」

その通りだ。今まで彼の念写が意味を成さずして終わったことは一度足りともない。
ならば、調べるまでだ。









「・・・米花町?」
承太郎がきょとんとした瞳で優を写す。


珍しい反応が見れたことに優は心の中で驚きながら、
多くの書類をのせたシックな書斎机の奥で、プレジデントチェアに腰掛けた彼に向けて話を続ける。


「はい。米花町に行きたいんです。」


優は懐にしまっていた例の写真を承太郎へ向けて机に置く。
「じじぃの念写か。」


「えぇ。お気づきだとは思いますがこの2枚、変なんです。
 いつものような禍々しさはないですし、スタンドも写っていない。」

手掛かりとして、

そういいつつ優は写真に写る女子高生を示す。

「この制服は米花町に存在する帝丹高校のものです。」


承太郎の力強く、輝きを放った碧色の視線が、優に話の先を促させる。
そう、これだけではない。

優はさらに一枚の紙を、承太郎の前に置く。

「米花町のここ最近の事件件数、事故件数、そして死亡者数が他よりも群を抜いています。
首都での犯罪の多発を念頭に入れたとしても、米花町でデータは異常です。」


これは―――

     「杜王町か・・・。」


決して優だけが至った考えではなかった。

承太郎も同様に感じていた。


吉良吉影などのスタンド使いたちによって安全が脅かされていた杜王町の行方不明者数を

康一が調べた際、通常の4倍の数であったという報告を優たちは聞いている。


ジョセフのいつもとは異なる念写、

あの時と同様に町にある違和感、



どれをとっても何かが起きていることを勘ぐってしまう。

それゆえに優は、



「米花町に行かせてください。」



と、申告したのだった。



承太郎は腕を組み、しばらく考えるように目を閉じた。




もう三年、自身の部下として面倒をみていた優だが、

単身でスタンド使いが現れそうな任務に着かせたことは無かった。



優が生まれつきのスタンド使いであるがゆえに、

自然と人との距離を置いてしまうことは知っている。



それがどうにも、あいつにと被るのだ。

承太郎は、ともにエジプトを旅した青年を思い出した。



杜王町で出会った際にも、亡き友人と似ても似つかないのに重なる姿に

どうも放っておけないでいた。


それはどうやら優がSPW財団に慣れた現在も変わらなかった。






承太郎だけでなく、ジョセフも、そして財団の周囲の人間も、

優に甘く、世話を焼いていたのもあり、



優の根本的な他人に対する―――


もはや身内のように扱ってくれている彼らには優も心を開いているので別だが。


―――スタンスは何も変わっていないのだった。









承太郎は、ひとつ決断する。


優には

同じようにスタンド使いでなくても、

目的が一緒の旅をしていなくても、

その人間性を見てくれる人間がいることを知ってもらわなくては。







あいつのように、


そんな世界を知らずして死んだ、あいつのようにはしたくないのだ。










「別件で人員を割いている。優、お前一人で行けるな、」

そう、一人で行っておまえ自身の力で見つけて来い。

お前が信頼できる人間を。
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