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独特な匂いと、機械音の響く空間。
呼吸器をつけてベットに横たわっている女。


そしてその様子をガラス越しの廊下から見る二人の男がいた。





一人はケピ帽、


もう一人はニット帽をかぶった男。




重苦しい空気に拍車をかけるような二人の沈黙。相手の出方を探るような視線が交わる。





先に口を開いたのはケピ帽をかぶった男。

承太郎だった。






「彼女はこちらで引き取る。」


そう言って病室に入ろうと扉へ歩を進めるが、




その道をニット帽の男に塞がれる。




「如月優は重要参考人だ。」


つまりはNO。




男はズボンのポケットに手を差し込んだままの姿勢だった。



そこからはなんの緊張感も見られず、

鍔の下から見える承太郎の鋭い視線にも決して怯む様子はない。




その様子に承太郎のサファイアの瞳が一層の冷たさを帯びる





「のちにSPW財団から正式な通達がそちらに送られるだろう。」


だからどけ、と言外に伝えようとも相手は動かない。





口を開くことはないが、何者だ、と目が問うている。


決して相手にのまれない点や、一から疑っていく姿勢は大したものだと思いつつも

それが今この時でなければと承太郎は思わずにはいられない。





出そうになる溜息を押し殺し名乗る。





「俺は空条承太郎。SPW財団の一員であり、彼女の上司でもある。」



優の持ち物から身分を明らかにし、こちらに連絡を入れたのは紛れもなくFBIである。

つまりこの場に現れる人間がSPW財団の人間であることなど当に知っていたであろう。


それでもなお、目の前の男は承太郎の財団証の提示を促した。


男の警戒心の強さと、

優の置かれている状況が嫌でもわかる。


「彼女は捜査の対象だ。」


名乗っても、依然塞いだ道を譲る気のない男に


承太郎も言葉を返す。




「要請はした。許可も下りる。」

どいてくれ、と最後につけ加える。


一般人にスタンド能力を使用したいわけではないが、こうも頑なだと使わざるを得ない。

承太郎がそのようなことを考えていると、




ニット帽の男の背後から、眼鏡をかけた初老の男が現れた。

見た感じは落ち着いた、優し気な雰囲気をもっているように見える。





「君がミスター・空条だね。上から話は聞いたよ。」



「そうですか。それでは彼女を、」





承太郎はすぐにでも優をSPW財団の治療室に移したかった。


通常のケガだけであればまだいい。



しかし敵のスタンド攻撃によっては一刻を争う可能性や、一般的な処置ではどうにもならない場合だってある。





そもそもどうして優がこのような状況になったかは承太郎もすべてを把握しているわけではない。


一つ言えるのは、彼女がここまでケガをするのだから十中八九相手はスタンド使いだ。




その程度の情報だけだからこそ、焦りが生まれるのだ。



まず優の安全を確保し、

治療するにはSPW財団へ運ぶことが一番なのだけは揺らぐことのない結論だった。



「しかしこちらとしても、彼女は重要な存在だ。一人そちらにつけてもよろしいかな?」



面倒なことになってしまったのは、
優がいた現場にはFBIも居たこと。そして一人は亡くなったという。


その捜査官殺害の容疑が優にかかっているのだがら事態は複雑だ。




単なる被害者であれば、身元引受人で済んだというのに。


「……いいでしょう。」



こちらにも譲歩がなければ、組織同士の関係性が厳しくなるのは必至。

譲歩せざるを得ない要求をしてくるあたり、食えない男だ。


「では赤井君、よろしく頼むよ。」


初老の男の言葉に頷いたのはニット帽の男。




彼が赤井秀一か。





承太郎も耳にしたことがあるその名前。


自身の威圧にも動じない憮然とした態度にようやく納得がいく。
すべてを見透かしそうな強い目力をもった赤井のペリドットの瞳が強く印象に残るのだった。


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医師やナースに移動の指示をだし、SPW財団の車へと移送する。




予定していた通りで問題なさそうだと、運転手と話す承太郎の言葉に、




赤井は事前に患者の移送を考え、またその急な変更すら視野に入れなければならない状況とは何か、
頭で答えを打ちだす。




「……何に狙われている、」



如月優は狙われている。

だからこそ、目の前の男が急ぎやってきたのだ。


では、何に?





それについては、




「…まだ分かりかねる。」




空条承太郎という男からも答えは得られなかった。


その表情からも、嘘は見られなかった。





そして引っかかるのはもう一つ。




誰かに狙われているからこそ、居場所を移すという行動は理解できても、
このFBIの管理する病院が危険である前提が納得できない。





「監視も付いたこの状況でも危険だと、」

二人体制の捜査官による監視と、ナースによる容体管理。



俺が発した言葉は、すぐさま遮られる




「死人が増えるだけだ。」

君たちでは無力だ。いくら優秀なスナイパーだろうがな。





その言葉は、如月優という女の安全というよりも、
その周囲の人間の安全を確保するためのものに聞こえる。



空条承太郎がどのような意図でその言葉を発したのか理解しかねるが、


己にとって重要なことなど一点だった。
如月優が生存し、仲間の死の理由を明らかにすることである。


赤井が発見した時には、仲間の捜査官は息絶えていた。




そして傍には如月優が倒れていた。銃を握って。

状況的に言えば彼女が黒だ。だが情報が少なすぎる。


すべては彼女の話を聞かなくては始まらない。


その点においては、おそらく空条承太郎と見解は一致しているのだろう、と赤井は思うのだった。
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