お詫びに髪を乾かして





「お風呂入ってくるね」
「ああ」





そう言ってお風呂の前にある小さな脱衣所まで来た私は、服を脱ぎながら色々と思考を巡らせていた。


先ずは、あの赤い髪の彼をどうするかである。いや、なんだかずうっと居座って帰らなそうな気もするけれど、いつまでも居候されても困るのだ。狭いし。どうしたら帰ってくれるかな……なんて考えたけれど、多分何をしても無駄なんだろうな、と思って考えるのを止めた。




身体や髪を洗って、長めの髪はちょっと括って水面につかないようにして。お湯に浸かりながら、さてどうしたものか、と私は二つ目の事案を考え始めた。


それは、ゲームのとうらぶの事である。いや、別に好きなようにしろよと言われればそれまでなのだけれど、本人がいる中でやるのはちょっと恥ずかしいでしょ!特に大包平なんて、私が可愛がっている筆頭だもの。うちの子かわいいしてる時に本人に覗き込まれでもしたら、羞恥で息絶えそう。しかもあの赤髪、家にいるんじゃなくて私に憑いて回る気でしょ?

ハァァァ、と長い溜息をついて、私はバシャリとお湯に顔を浸けた。おお、結構大きい音がしたかも。なんて考えながらブクブクと息を吐いていた、その時。






「おい!大丈夫か!?」





大包平がお風呂場に入って来た。


いやお前なに、壁通り抜けられるとかチート過ぎるでしょ。

思わず固まってしまった私がとっさに考えた事がそれだったのは、驚き過ぎた故なので許してほしい。顔を上げて呆然と大包平を見つめる私に、彼はハッとして居心地悪そうに口を開いた。





「お前が、あまりに出て来ない上に、大きな水音がしたから、まさか気を失いでもしたのかと……」
「はぁ、」
「………………すまない」





謝った!!!大包平が謝りましたよ!!!やっぱり思ってた通りその辺は育ちが良い感じというか、うん、ちゃんとしてるんだね。目線をずらしながら言い訳のように、でも堂々と言う大包平は本当に申し訳ないと思っているようで、まあお湯を張っているし別に裸を見られた訳でもない私は元々怒るつもりにもならなかったので、別に大丈夫だよ、と言ってとりあえず彼をお風呂場の外へ帰した。










私が上がって髪をガシガシとタオルで掻きながら(一応乾かしているつもり)部屋へ戻れば、大包平は板張りの床の上で正座をして待っていた。



「え、なに、どうしたの」
「やはりきちんと謝らねばならないだろう。嫁入り前の娘の湯浴みに勝手に入ってしまったのだから」
「いや……大丈夫だけど」
「はあ?お前は何を言っているんだ」
「はい?」



嫁入り前というのはだな、なんて説教をされたのは理不尽だと思う。裸を見られたんじゃないんだから気にしないよ、と何度言っても食い下がってくる大包平にちょっと面倒くさいなと思い始めた私は、じゃあ責任取って髪乾かしてよ、と言ってみた。最初はそんな事で責任が取れるか!などと言っていた大包平も、私の様子を見て本当にそれだけで良いのかと分かったらしく、分かった、と一言言って私の手からタオルを取った。






「……だがやはりお前の肌を直接見てしまったのだから、」
「うるさい」
「む…………」



まだ諦めずにそう言う大包平に、昔と現代とでは価値観が違うのだとあれこれ説明してやった。でないとこれからもお互いの価値観の違いでこんな事が多発したら面倒だもの。



黙々と私の髪を梳いては水気を取り、梳いては水気を取りと繰り返している大包平の手付きは思ったよりも優しく、ギャップに少しドキッとしてしまった。そう言えば今更だけどなんで物に触れてるの、と聞けば、俺が触ろうと意識しているからだ、と返ってきた。なるほど、強く思えば触れるって事か。




「これで良いか。布で水分を全て取る事は出来ない」
「ん、いーよ。まあドライヤーなんてのもあるんだけどね」
「どらいやあ?何だそれは」




んんんんん、お前、それは反則だろう!平仮名で首を傾げるのは反則だから!急に来たパンチに心の中で少し悶えながら、私は彼にドライヤーの使い方を教える。すぐ手に取れる所に置いてあって、こういう時はやっぱりワンルームって良いよねって思う。



「ほら、これがドライヤー。えーと……か、乾かし装置……?ここを押すと、こう、ここから風が出るの」
「ふむ、成る程な」
「で、こっちを上げたり下げたりする事で、温風と冷風を変えられるのね。大体温風で乾かして、最後に冷風でもう一度一通り乾かして冷ますと髪が傷まなくて良いよ」
「温風と冷風を、……これか?これだな。ふぅん……成る程、理解した」



そう言ってドライヤーを手に取る彼を見て、私はコンセントにコードを挿した。温風に設定してスイッチを押した大包平は、勢いのある風の音に一瞬ビクッと肩を揺らしたようにも見えたけれど、あまり動じる事なくそのまま私の後ろへ回った。








ゴウッという風に髪を乾かされる。時々髪をブラシで梳いたり、手でわしわしと掻いたりする大きな手が気持ち良くて、私は目を閉じていた。

カチッという音とともに風が冷たく切り替わって、暫くして風音が止んだ。終わったぞ、と言ってドライヤーを置き私の髪をちょっと手櫛で梳く姿がかっこいい、なんて思ったりしたけれど、とにかくお礼を言ってちょっと赤くなっているかも知れない頬を悟られないようにドライヤーを回収した。