膝丸と和菓子


今日は朝から雨がザアザアと降っていて、というのも私が現世に合わせた景趣に毎日、季節ごとに変えて感覚が狂わないようにしているからなのだけれど。つまり今は梅雨なのである。



山伏なんかは「雨の中、鍛錬するも是修業!」なんて言ってカカカと出掛けて行ったけれど、大抵の者が建物の中にいる、そんな日。



初めこそ屋内デイズを楽しんでいたものの、こうもやる事が無くてはだんだん腐ってしまっていた。いや、もちろん出陣や任務に内番、演練なんかはこなしているけれど、1日って24時間あるんだぜ?やることなんてすぐに無くなってしまう。



うーーーーーん、なんて唸り、ややしっとりとした肌が気持ち悪いなと思いながら畳の上でゴロゴロしていると、トン、トン、と誰かの足音が聞こえてきた。耳が地面に近いからよく聞こえる。重さからして背の高くない太刀か、小さくない打刀だなと考えて体を起こした。さすがに転がったままで出迎えるなんて事はしない。主、と声を掛けてきたのは、案の定太刀だった。


「主、今良いか」
「おー、はくりょくー。どうしたの」
「入るぞ。と言うかなんだ、そのはくりょくというのは……」
「膝丸は薄緑だから、はくりょく」
「できれば音読みはしないでほしい」


そんな下らないやり取りをしながら迎えた彼は、普段よりなんだかワクワクしている様だった。広間に、と私を急かす膝丸に何かあったの?と聞けば、いや、その……と少し恥ずかしそうにして私の腕を引いた。








「わあ、何これ!」


かわいい!と言って手に取ったお皿に乗っていたのは、薄緑色をした葉っぱの形の練り切りに餡が包まれている和菓子だった。葉っぱの上に白いのがちょんちょんと付いていて、可愛らしい。膝丸に聞けば、光忠と小豆が作ったのだと言った。


「おとし文、というんだ。葉の色が鮮やかだろう。それにこの白い粒。昆虫のオトシブミが、卵を産んでその葉をくるくると巻いて地面に落としたものを表現しているんだ。中々可愛らしいな」


普段より少し饒舌な彼は、そういえば和菓子、とりわけ練り切りが好物だった。成る程、だからソワソワとしていたんだな。


広間にはあまり人がいなくて、それは光忠がそう指示したかららしい。初めて作った練り切りなので、まずは和菓子の味をよく知っている私と、ついでに今日の近侍である和菓子好きの膝丸に食べてもらいたいのだと。そして二人に好評であれば、お八つとしてみんなを呼ぶ、との事。

味見係とは、責任重大である。


鮮やかな色に、添えてあった黒文字で線を入れる。少し切り取って口に含めば広がる控えめな甘さに、自然と頬が緩んだ。


「うん、ん、ふふ……これ、すごく美味しい!」
「ああ、うん。これは美味だ。とても良い」


そう言って二人して褒めそやせは、光忠はちょっと照れた様子で小豆にも伝えてくるよ、と言って厨へ向かった。それを見届けてからお皿の上を見て、そういえば、と膝丸を見た。正しくは、膝丸の髪を。


「この葉っぱの色、膝丸の髪みたいね」
「え?」
「ちょっと膝丸の方が薄いかな?でもほら、綺麗なうすみどり」


そう言って彼の髪に少し触れれば、ちょっと嬉しそうに笑って、そうか、と呟いた。


「綺麗だけど、美味しくて、どっちにしろなんだか勿体無いね」
「それならば食べてしまえ。その方が菓子も本望だろう」


そう言いながら黙々と頬張る膝丸は中々普段見られない姿で、ちょっとそれに笑いながら、そこは光忠じゃないんだ、と心の中で少し苦笑いをした。


「そうだねぇ……食べちゃお」


そう言って私も残りを口に入れて味わっていれば、光忠がお茶を持ってきてくれた。小豆は?と聞いたところ残りのみんなの分を作っていると返ってきたので、後で何かご褒美をあげようかな、なんて考えながらお茶を啜った。


「この後はどうするんだ、主」
「うーん、寧ろする事が無くて悩んでいたところ。どうしようかなぁ」
「ふむ……それならば、囲碁か将棋でも指さないか」
「う、それはちょっと苦手……オセロなら良いよ」
「仕方無いな、ではそれにしよう」


同じくお茶を片手に聞いてきた膝丸にそう答えると、彼はオセロを用意しに自室へと向かって行った。私もお茶を飲み終わって、そちらへ向かおうと席を立つ。すると厨から小豆が出てきて、小さめの巾着を私の手に乗せた。


「これは?」
「こんぺいとうだ。ふふ、きみもかれもすいーつ、すきだろう?光忠にはないしょだ、もっていくといい」


そう言ってしぃ、と人差し指を唇に当てた小豆はちょっと可愛かった。彼に先程のお菓子と金平糖、両方のお礼を言うと、私は金平糖の巾着を落とさないように持ちながら膝丸(きっと髭切も一緒にいるだろう)が待つ部屋へと向かった。