山賊たちを一掃した頃合いを見計らったように茂みから飛び出してきた甲冑姿の人物はジェラルトさんの元同僚でアロイスと名乗った。ちょび髭にいかにも優しそうな顔の男性は級長?を探していたらしく、その級長というのが傭兵団に助けを求めに現れた育ちの良さそうな3人組の事だった。
クロードたちの安否を確認するや否やアロイスさんは大修道院でレア様が会いたがっているからと強引にジェラルトさんを引っ張り大修道院へと進路を変えさせた。行きたくないのなら無理して行かなくてもいいのだが、ジェラルトさんの渋い反応を見る限りそうはいかないのだろう。帝国領から大修道院はそう遠くない。ちょっと顔を見せるぐらいならとジェラルトさんは急遽ファーガス行きの進路を変更し、食料確保も兼ねて私たちはフォドラの中央に位置する大修道院へと向かうこととなった。大修道院、正式名称はガルグ=マク大修道院。いつも遠くに聳えたっていた古城。地図の中央に描かれるガルグ=マク大修道院はフォドラを形作る3つの国の中央に建設されフォドラに広く信仰されているセイロス教の総本山でもあるそうだ。ちなみにクロードたちが通っている士官学校も大修道院に併設されているらしい。三大国から未来を担う若者たちを集い育成し歴史に名を残す英雄を過去何人も排出した一流の学校には私と同じくらいの歳の子が身分問わず通っているんだとか。特に今年の入学生は異例で、将来三大国の顔を担う若者達が在籍しそれぞれが三学級の級長を任せられているんだとか。何故アロイスさんがあれほど焦った様子でクロード達を探し見つけた途端腰が砕けるほど泣き喚いていたのかよく分かった。もし私がアロイスさんならあの場面では間違いなく気絶していた。
話し言葉や雰囲気から良いとこの貴族とは思っていたけれどまさか国を代表する未来の指導者で、その指導者達と共に剣を振るっていたなんて意表を突く出来事の連続にまだ頭が追いつかない。もしかして私は一生分の運を意図せずしてここで使い果たしたのではないだろうか。
だとしたらすごく困る。この世界に来てもう10年経つけれどそれでもまだ帰りたい気持ちは心の底で燻ってるから。
「ベレトったらすっかり人気者ね。若い指導者に囲まれて戸惑っているみたいだけど」
「照れているんですよ。武芸の腕を褒められて喜んでるんだと思います」
「ふーん。アタシにはいつも通り無表情にしか見えないけどね」
ガルグ=マク大修道院に向かう道中、先の戦いでの優秀な活躍ぶりを見せたベレトに三人の指導者はぜひ自分の国で働いてくれと熱烈に歓迎し、その様子をなまえは親のような顔で後方から見守っている。嫉妬のような醜い感情はない。自分に褒められるようか才能がないことくらい分かりきっているし、努力一つで生き残ってきた凡庸じゃあ彼らの話には混ざれない。
寂しいかと聞かれたら…まぁ、少しだけ。だがそれ以上にベレトの隣に自分でもジェラルトでもない人間が並んでいる光景が新鮮で、卑屈になる暇もないほど興味と違和感がドっと押し寄せ目が離せない。表情が乏しく無口な人だから傭兵達すら積極的に彼と関わりをもつ人は少ない。だからこうして人に囲まれ楽しそうに談笑するベレトを見ているとあんな顔もできるのかとなまえはまるで知らない人を見ているような気分だった。
『これでベレトもなまえ離れだ』肘で軽く突き揶揄う先輩にやめてくださいと反論していると前を歩いていたクロードが突然振り返り『なまえも一緒に来いよ!』と声を掛けた。何処に行こうと言われたのか話の前後を少しも聞いていなかったなまえだったが、戦術や知識、文化、なんであれ自分が介入する隙間などないとなまえは静かに首を振り断った。
後ろをゆっくり歩いた方が気楽でいい。
次期指導者たちがベレトとの会話を楽しむ光景を眺めながらなまえは任された馬の手網を引いて歩いていた。すると急にクロードが歩幅を狭め隣に移動してきた。ベレトさんとの話は良いのかと尋ねると彼は一対一で話す方が気楽だと器用に片目を閉じる。ベレトさんとはまた違う不思議な魅力がある人。貴族らしくない気さくな人柄と申し訳なさを感じさせない気遣いに感謝しながら、クロードが語る愉快な大修道院の話に私の心は強く惹き付けられた。
生徒の話、食堂の話、大修道院には至る所に猫や犬がいて、温室には珍しい沢山の花が咲いているんだとか。
「大修道院を見て回る時間があるなら是非案内は俺に任せてくれよ」
なまえに紹介したい奴が沢山いるんだ、きっとすぐに打ち解けられる。そう楽しそうに自身の友人について語るクロードに私は楽しみだと会わずとも容易に想像が着く彼の友人たちの笑った顔を頭の中で想像した。
華やかな街を抜け、険しい坂を登り、濃霧の上に聳え立つ小高い山の上に建てられた古城を模した教会こそがガルグ=マク大修道院、国境を跨ぐ際決まってジェラルトさんが避けて通ってきた場所だ。厳かな門を潜り小さな市場を抜けるとクロード達はこれから授業があるからと玄関ホールで別れた。またな!と手を振るクロードに手を振り返し、暫くジェラルトさんと共に大修道院を歩いていた傭兵団一行だったが、セイロス教最高指導者の元へぞろぞろと大群が謁見するわけも行かず、ジェラルトさんとベレトさんが戻ってくるまでの間傭兵達は暫く大修道院内で自由行動を言い渡された。
ただし面倒事は起こさないようにとのこと。面倒事に巻き込まれないことも追加で。
ジェラルトさん達と別れた途端酒好きな大人達は迷うことなく食堂へ向かった。飲める時に飲まねぇとな!だって。子供の私には理解できない貪欲さだ。
食堂から漂うお腹が空く匂いに同席しようか少し迷ったものの、食事よりも外を見て回る方が楽しそうだとなまえは大人達に散策することを伝え仲間と別れた。一人で大丈夫か?と5つ上の先輩に単独行動を心配されたが、賊が出るわけでもあるまいしと言葉を返せば、それもそうかと肩を竦め快く送り出してくれた。
武器を持つ兵が歩いているとはいえここは教会の敷地内だ。悪人もそう手を出すまい。
いい天気、散歩日和の天気だ。欠神をしながら草花が生える方向へとなまえは足を運ぶ。歴史を感じさせる石畳に立派な建造物にクロード達のような制服を着た差程背丈も変わらない人達、それと至る所で足を伸ばす犬や猫がそこら中に転がっている。正直大袈裟だなぁと思いながら話を聞いていたが、確かにクロードが言った通り人の数並に生息していそうだ。
釣り堀に、温室、横長いこの建物が学生寮なんて、士官学校には一体何人の生徒が在籍しているのだろう。
くるりくるりと踵を軸に視線も体も回しながら通り過ぎていく生徒達とすれ違うように、具体的な宛はなく、しいといえばクロードを探して大人しく歩き回っていた。…はずが。
「なんでこんな目に…」
私が一体何をしたと言うんだ。
何度場面を振り返っても己の非に該当するような不敬に一切思い当たる節はない。だが白目を向いて気絶した少女を放置して散策を続行できるほど非情でもないため、脱力した体を背中に乗せ来た道を引き返す。『この程度の重さ、羽を背負っている様なものだわ』と強気な発言ができるほど筋力に自信など無い。しっかりと体に見合う重さになまえは腕を震わせ、不安定な足取りで1段ずつ確認するように階段を下りていく。面倒事に巻き込まれるなと言われ、その数分後に見事面倒事に巻き込まれたと仲間に知られたら最低でも1年間はこの話題で馬鹿にされるに決まってる。嗚呼、ジェラルトさんが腹を抱えて笑う姿が容易く目に浮かぶ。
そもそも、この子は何故気絶したのだろう。ただ角を曲がった先に彼女がいて、ぶつかりそうになったから足を止め道を譲っただけ。おかしな行動はなかったはず。だが道を譲った直後独特な悲鳴を上げ白目を剥いて気絶した彼女は何度呼びかけても揺すっても目を覚まさず、一応回復魔法をかけては見たが回復どころか泡を吹いて痙攣し始めたものだから団の修道士に診てもらう他あるまい。
さっさとこの子を運んで散策を再開させたい。大修道院に呼び出しをくらった時のジェラルトさんのあの嫌そうな顔。恐らく今回を逃したら大修道院の散策は二度と出来ないだろう。
神様、どうかこれ以上私を面倒事に巻き込まないでください。
「ああ…ど、どうしたら……」
…神様、私をお見捨てになられたのですか。
「す、すみません…。私があんな所で弓を落とさなければお忙しそうな貴女のご迷惑になることはなかったでしょうに……全部、私が悪いんです。私がちゃんと断れなかったから…」
「どちらかと言うと貴女に弓を十張も運ぶよう頼んだ人が悪いと思います。だから謝らないでください」
袖付きの外套に初めて機能性を見出した瞬間だった。長い袖を抱っこ紐の如く背に担いだ少女に巻き付け、拾った弓六張で少女の臀部を持ち上げ揺れる体を固定する。大人しく食堂で時間を潰しておくべきだったと己の選択に後悔するなまえの隣で「すみません」と「私のせいで」を呟きながら影ばかりを選んで歩く少女もまた己の選択と失態に嘆いていた。
この世の不幸全てを自分のせいとばかりに語る少女を慰めてあげたいのは山々だが、ここまで卑屈だとどう言葉をかけたらいいか1つも分からない。気にしないでと伝えても頭は下がる一方で、楽しい話題を振っても予想の斜め上へと暗い話に逸れていく。彼女の自己肯定感は息をしているのだろうか。ただ弓を落としただけなのにここまで卑屈になれるのは逆に凄いなと1周回って感心するのだが。
己の平穏を神に祈った直後、目の前を歩く少女が小石に蹴躓き派手に弓を派手にばらまくなんて思ってもみなかった。弓をばらまいた少女が拾うどころか神に祈り解決を図ろうとする一連の流れも含めて。悲惨な一部始終を目撃し誰が手を伸ばさず素通りできるだろうか。
明らかに1人で運ぶ量じゃない弓をかき集めながら気にしないでくださいと手助けを拒む少女へなまえは強引に弓を拾い「行きますよ」と腕を絡ませた。これも鍛錬の一貫と思えば漏れでそうか溜め息も涙も引っ込んでいく。彼女は訓練場に運ばなければならないと言った。特に時間制限もないためなまえは性格通りな歩幅に合わせながら、食堂、それから訓練場と、訪れる順番を決め名も知らぬ少女2名の為にお節介を焼いていたのだが、
「きゃあ!!そこの人、どいてどいてぇー!!!」
もぉー!!神様っ!!!
「あの、ありがとうございました!お陰で転ばずに済みました!」
「いえ、咄嗟とはいえ足で受けとめてごめんなさい」
2度あることは3度あるらしいが、頼むからこれ以上の面倒事は起こらないで欲しい。
慌ただしい足音が背後から近づき振り返った時には派手に宙を飛ぶ少女になまえは考えるよりも先に重心が崩れた体へ滑り込み片足一本で抱きとめた。稀に見る見事な転倒だった。躓くような小石は目を凝らしても見当たらないが、そんな小さなことよりも彼女に怪我がなくて良かった。芝生とはいえ転んだら痛いもの。
「…何でしょうか?」
じゃあねと手を振って別れたつもりがいつまでも後を着いてくる杏色の少女になまえは気になって足を止める。クロード達と同じ服装、艶のある髪、薄らと色がついた頬と唇。ああ、そういうこと。平民の分際で貴族様を足で受け止めたことを咎められるのかとなまえは口を結んで身構える。しかし「もしかしてあなたが…噂の傭兵さん?」と憧れの目で見つめてくるものだからなんのこっちゃと気勢が削がれた。
「うわさ?」
「級長達を山賊から守った腕利きの傭兵さん。貴女の事ですよね!」
さっきの身のこなし、只者じゃないですよね!と臆することなくずいっと距離を詰めた少女になまえは目を丸くした。何を言い出すんだとなまえは瞬きを繰り返し、その後丁寧に首を横に振って言葉を否定した。
「その傭兵は私の知り合いの事だと思います。私も傭兵ですが腕利きではありませんから」
腕利きの傭兵と聞いて頭に浮かぶのは2人だけだ。且つ級長を守ったの話を聞けば自ずと誰が噂として上がっているのか、悩まずとも答えは1つしかない。私じゃないと事実を打ち明けた途端に少女はなぁんだとあからさまに肩を落とした。しかしなまえが噂の傭兵じゃないと知っても少女の興味関心が削がれる様子は微塵も感じなかった。むしろ…
「そうなんですか…?あ、でも!その歳で傭兵していることも充分すごいと思います!失礼ですがお幾つですか?」
「……たぶん16だと」
「えー!?あ、あたしと同い歳なの!!?でも凄く大人っぽく見える!!」
どうして傭兵しているの?傭兵って色んなところを旅するんだよね?これまでどんな所に行ったの?傭兵って基本何をするの??口を開く度になんで?どうして?と矢継ぎ早に質問を寄せるアネットになまえは腕を絡めた少女へと助けを求めた。しかし卑屈な少女が勇敢にも助け舟を出してくれる訳もなく、そっと視線を逸らし愛想笑いを浮かべたなまえに杏色の少女は「あ、そんな事よりも自己紹介がまだだったね!」と明るく手を打った。
「あたしアネット。友達からはアンって呼ばれてるの。貴女は?」
「…なまえ、です。ジェラルト傭兵団の一員で後方支援を主に任されています。短い間ですがよろしくお願いしますアネット様」
「…と、とりあえず同い歳だからもっと気楽に話しかけて欲しいな!ね、マリアンヌ!」
「え、ええっと……私なんかに話しかけても気分が暗くなるだけなので。どうかお二人でお話ください」
「ええっ!?」
アネットさんとマリアンヌさんは知り合いのようだが、この様子だと名前を知っている程度なんだろう。私が言うのもなんだがこの顔ぶれで楽しく会話を試みるのは些か無理があると思う。アネットさんは話好きで、私は未だにこの世界の常識が分からない傭兵で、マリアンヌさんはとにかく卑屈で顔を合わせてもくれない。私が背負ってる人なんて気絶したまま起き上がる気配もない。無理して話す必要も無いと思うのだが、それでもアネットさんは果敢に話題を振っては距離を縮めようとする。クロードもそうだった。どうして黒い制服を纏う人は身分関係なく気さくに話しかけてくれるのだろう。私が知る貴族とは正反対な物腰の柔らかい口調にいまいちどう接したらいいか分からない。
生きる知恵を記憶するために昔の思い出を断捨離してしまったからだろうか、同年代の子とどんな距離感で話していたか忘れてしまった。
ちょうど食堂前で井戸端会議に勤しんでいた修道士に泡を吹いた少女(ベルナデッタと言うらしい)を預け、まだジェラルトさんは帰ってこないというので今度はマリアンヌさんの用事を済ませるため訓練場まで弓を運ぶ。キョロキョロと周囲を見回しながら初めて大修道院に来たと話したなまえにアネットは大修道院散策も兼ねてちょっと遠回りしようと寄宿舎とは反対側の道から訓練場へ向かうことを提案した。この先には厩戸や綺麗な花が植えられているらしい。厩戸と聞いてマリアンヌさんが少し俯いた顔を上 げる。馬が好きなんだろうか?雰囲気的に動物全般を愛し愛されてそうだ。
授業は終わったのかと尋ねるとアネットさんは首を縦に振り、新任の先生が来ることになったから今日の午後の授業は全て休みになったと嬉しそうに話した。だから制服姿の人達がそこら中を歩き回っているのか。士官学校に行けばクロードに会えるかと思っていたが、あの性格だと今頃何処かを歩いているだろう。大修道院から引き上げる前にもう一度会えるだろうか、駄目ならアネットさんに伝言を頼むか。
アネットの言葉に甘えなまえは握った6張を4張に減らし、アネットとマリアンヌで3張ずつ分配し直した。厩戸を通り、美しい中庭を抜け、大広間と呼ばれる砂埃ひとつない清潔な空間になまえは簡単の声を上げた。この先を抜けたら大聖堂だと開ききった扉から見える長い連絡橋になまえは驚きのあまり握った弓を落としそうになった。想像以上に広い敷地だ。まるで迷路みたいだと呟けば一節も過ごしたら地図を見なくても歩けるようになるよとアネットさんが言った。それを聞いて一瞬、なるほど一節もあれば覚えられるのかぁなんて呑気なことを考えそうになったが、逆を返すと地図なしで歩けるようになるまで一節もかかるのかと広すぎる敷地にゾッとした。
「ところで、なまえはどうしてベルナデッタを背負って歩いていたの?」
観光気分で歩いていたなまえは突然アネットが投げかけた質問に思考を停止させる。
「ベルナデッタって誰でしたっけ?」
「先程まで背負っていた方です…」
ああ、あの子か。
「出会い頭突然気絶されたので団の修道士に診てもらおうとしていたんです。それで歩いていたらマリアンヌさんが困っていたので荷物持ちの手伝いをして、それからアネットさんと出会いました」
「そ、そうなんだぁ…」
回復魔法をかけたら泡を吹いたのでなにか重い病に罹っているのかと心配していたのだがアネットさん曰くベルナデッタさんは極度の人見知りだそうで気にしなくてもいいそうだ。
いや待てよ、極度の人見知りで気絶するのかあの人…なんだか生き辛そうな人だ。
見慣れない服装が珍しいのか、周囲の視線を引き付けながらもなまえは堂々とマリアンヌの腕を引いてアネットと同じ方向へと靴の先を向ける。
「ここが士官学校だよ!」
昼休み中だから人がいないけど、いつもはこの長椅子が全部埋まるくらい生徒がいるんだよと3つある教室のうち真ん中の教室を紹介するアネットに続きなまえは恐る恐る教室の中を覗き見る。これが学校。すんっと鼻を鳴らせば本を枕に眠ってしまった時と同じ学びに誘うような匂いがする。入っておいでと言われてマリアンヌと共に恐る恐る場違いの空間へと足を踏み入れる。
教室の入口に弓を置きアネットに言われるがままなまえは誰かの席に腰掛け、閉じた分厚い本に手を伸ばす。
「見てもいいでしょうか?」
「いいよ!これは算術の教科書、でこっちが信仰の教科書だよ。マリアンヌ達は何の授業を受けていたの?」
「紋章学です…ハンネマン先生が担当の…」
パラパラと頁を捲れば眠くなりそうな文字の羅列がびっしりと紙に記され、見ているだけで頭がこんがらがりそうな複雑な図形になまえはそっと本を閉じた。経験と感覚で戦ってきたなまえには遥かに難易度が高すぎたのだ。
寄り道もそこそこに、席を立ち弓を握り直す。訓練場はすぐそこだと跳ねるように前を歩いていたアネットに前を向いて歩かないと転びますよとなまえが声をかけようとしたその時だ。
「うわぁっ!!で、殿下!!?」
「間一髪だったなアネット。ん?マリアンヌが何故青獅子の教室に?それにお前はジェラルト殿の…」
派手にぶつかったアネットを抱きとめた青年はクロードからは『ディミトリ』、アネットからは『殿下』と呼ばれた一刻の王子だった。クロードはともかく、この人に友達感覚で話しかけたら間違いなく首が飛ぶ。怖い、無理、助けてクロード。貴族の中の貴族の登場になまえは恭しく頭を下げたが、服の内側では冷や汗が滝のように流れていたことは言うまでもない。
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