このままじゃダメなことくらい分かっている。
いい歳した大人が周りの優しさに甘えてばかりで経済的・社会的に自立していない。仕事を与えられて働いてはいるけれど、本来踏むべき手続きを経営者の鶴の一声で得た仕事なんて同じ敷地で働く人と比べたら卑怯で後ろめたい気持ちが拭えない。特別扱いされることがこんなにも息苦しいなんて知らなかった。
一刻も早く自立しなくちゃと求人チラシを片っ端から目を通して応募してみたけれど素性しれずの人間を雇ってくれる奇特な方などそう簡単に見つかるほど世の中は甘くない。一昨日も、昨日も、そして今日も私宛の良い知らせは一通も届けられることはなく、ただひたすらに淡々と野菜を切り、茶碗にご飯をよそっては一日が過ぎていく。まるで昨日を繰り返しているような日々から抜け出したくて精一杯足掻いてるつもりなのに、何一つ実を結ばない。
このまま人の善意に後ろめたさを感じて生きていくなんて嫌なのに、自力じゃ何も変えられない虚無感をどうすればいい。
きっかけが、欲しい。
色も形も大きさも関係ない。社会のお荷物のような人生を変えるきっかけが、欲しくてたまらない。
濁った水の中を指でかき混ぜ洗い場の底に沈んだ食器を探していると、食堂の入口前で方向をかけた人影に気づき手を止める。
「お帰りなさい。早かったですね」
「ただいま。今日も洗い物ご苦労さま。どう?終わりそうしら?」
「はい、あと少しで片付きそうです」
買い物に出かけていた食堂のおばちゃんに声をかけると彼女は野菜いっぱいの籠を肩から下ろし「あ〜疲れたわ」と肩を叩いた。籠にはかぼちゃとさつまいもに山菜と秋を感じるものが沢山だ。
見たところお疲れだろうしお茶でも入れようかと塗れた手を布巾で拭いていると、いつの間にか背後に移動したおばちゃんが「今日も大仕事ね」と洗い終わった大小様々な食器の山を眺めて肩を竦め、そんな様子を見て便乗するように私は苦笑いをこぼす。おばちゃんの言う通り、今日も大仕事だった。特にランチタイムなんて洗っても洗ったも無限に汚れた食器が洗い場の底から湧き出ているのではないかとため息も着きたくなるほどだ。事実、台所よりも洗い場の前に立っている時間のほうが長いだろうし、重労働であることは間違いない。でも、だからこそ人で確保のために私が雇われている訳なので、私の口からは『大変』なんて言葉は口が裂けても言えない。他の人に仕事を取られたら今度こそ私は路頭に迷ってしまう。
食材片付けつつもお茶を沸かす。
「もうランチタイムも終わりましたし、後のことは私に任せておばちゃんは休憩してください」
「そう?じゃあそうさせてもらおうかしら。あ、そうそう。#name#ちゃん、ちょっと耳を貸して?」
「はい、なんでしょう?」
「仕事が終わったら私の部屋においで。いいものをやろう」
「え?」
後でいいものをやるから部屋まで取りにおいでも鉢屋に言われ、え、となり、おばちゃん登場し納得する。
「こら、鉢屋三郎くん。私の顔でイタズラするのはやめなさい」
「はーい。以後気をつけまーす。じゃ、またな」
鉢屋からお土産手を貰う。1度は部屋に持って帰ろうとしたが、何故鉢屋が自分に優しいのか理由がわからず鉢屋のもとへお土産を返しにいく。
何も返せないから貰えないと返すもじゃあ一緒に食べようとなり、雷蔵席を外そうとするが3人で食べようとなる。
鉢屋三郎に甘やかされている自立心の塊の主(理屈で動いてる)。どうしてこんなに優しくしてくれるの?と尋ねると何でだろうな?とはぐらかされる。
鉢屋家嫌すぎて全部忘れて捨てられた子と、その子を気にかけてるうちにクソデカ感情芽生えちゃった鉢屋。
溌剌とした姉を羨み、姉に懐く許嫁に物申す勇気もなく、鉢屋家特有の顔を隠した人達の奇妙さに嫌気がさし、日がな1日作法や家事、家のしきたりや鉢屋の嫁としての教え的な洗脳じみた教本を学ばせられもう限界。顔料の流通を担う家に生まれ、質の良さと口の硬さを買われて鉢屋家の目に留まり、互いの子供を盾に利害関係を結ぶ。
長兄が家を継ぎ、長女は鉢屋家の分家で歳が近い人と婚約。主人公は1つ下の鉢屋と許嫁となり、面の下の顔を目にすることで鉢屋家に縛られる。
▪️腹を大きくした姉が鉢屋家を訪れ、幸せアピール。旦那さんと愛し愛されの関係の上に三郎くんから手紙で会いたいって書いてたから、せっかく本家に来たし会いたいんだけどどこにいらっしゃるの?とキョロキョロしてる姉を見て、三郎様は不在にしておりますと答える。あら、そうだったのと別段気にしてない姉は、主の顔を見て、もう、久しぶりに会えたんだから機嫌を損ねないで笑顔を見せて。貴方が心配してるようなことにはならないわよ。と嫉妬心を見破られてはいるが誰に向けた矢印かまでは言い当てられなかった様子。
それから三郎不在で食事を囲む中、話題は姉の腹に注がれ、明るい方、言い方、場が華やぐはと比較され居心地悪い。私だって普通の家で過ごしていたら姉のようになれる、毎日同じ顔の旦那さんと皮一枚で生活する人に囲まれたら同じになれる、なってやるわよと唇を噛む。
姉よりも早く起きて食事の支度をしても、炊き上がった米をよそう姉の人の良さそうな顔に好感が向かう。
姉夫婦を見送った後に、昨日三郎くんが夜顔を見せに来たのよ。これ、貴方に渡してくれって。良かったわねと手紙を受け取り、中身を見たら学園生活が楽しいこと、気の合う奴らが多いこと、今度貴方が美味しいって絶賛したうどん屋に連れて行って欲しいと書かれ、三郎様は手紙の中ではこんなに積極的でおしゃべりなのねと思って読んでたら最後に姉あての手紙だったことを知り、姉にご執心の三郎と夫婦の真似事をできる間柄に離れないだろうし鉢屋家の許嫁でいる限り姉と比べ続けられる人生がこれからも永遠に続くことに絶望し、私の居場所はどこにあるの?と顔料を飲んで服毒自殺を図るも失敗。しかしこれをきっかけに自分が誰なのかわからなくなり、服毒自殺した事になり捨てられる。
捨てられた後に運良く食堂のおばちゃんに拾われるも、精神的に大きなダメージ食らってるため新野に見せるべく忍術学園へ招かれる。その後、おばちゃんの手伝いをしながら生計立て、忍術学園の生徒とも良好の関係(ほぼ関係ないが)を築くも、鉢屋だけは少し苦手である。(すっごいガン見される、つっけんどんな態度、悪戯されるから)
鉢屋13くらい(1年前の話。鉢屋が心入れ替えたあとは14歳スタート)
姉を恋慕する婚約者に一生を捧げる。堅牢な塀に囲まれた屋敷の中で操り人形同然の人生を送る未来を想像する度に涙が溢れて眠れなかった。
忍びが寝静まる朝ぼらけに、私は厨からくすねた3日分の食料と大事な画材を風呂敷に詰め堂々と正門を潜り家を捨てた。15年間自我を押し殺してきた私の人生に革命を起こした一世に一度の逃避行だ。
子孫繁栄のため更なる利を与える良き妻となるよう、偉い人の一存で親元を離されてからは朝から晩まで礼儀作法に和歌に香道に、裁縫も嫌というほど徹底的に仕込まれた。人並みには上達していると思うのだが、他者の言う『好い』というものがいまいち私にはピンと来なかったからか、何をやるにも『まったく、どうしてお前は凡人以下なんだ』と指をさされて笑われた。師範から習う手習いはぜんぶ嫌いだった。私は飽き性な上に褒められて伸びるタイプなもので、下手くそだから練習量を増やせと言われてもただただ時間を無為に過ごし、何も得られるものがないなら
。そんな我儘な私にも好きな事があった。それは絵を描くこと。
あの家には絵師がいなかったから何を描いても先生面する口煩い人はいなかったし、絵の中であれば自由にどこまでも遠くへ行けるのだ。冬に春の花を咲かせることもできる。過去の先人が歌を詠む姿だって眺めることができる。絵は私の孤独を救ってくれた。それだけでなく、私に自由を教え、お金を稼ぐ方法も教えてくれた。『世間知らずの無能な小娘』なんて二度と言わせたるものか。だって今の私は売れっ子扇面絵師絵だもの。
「梅ちゃ〜ん、今週中にあと3本追加で描きあげられそう?」
2日前に依頼者が手折った山吹を上から下からと視点を変えて造形を観察し、もうあと三輪白紙に花を添えようかと筆を取ったところ帳場に座る『奥さん』が頭を悩ます一言を放ったので狼狽えて筆を落とした。
「さ、3本ですか?」
今抱えている仕事まで終わったら2日お休みを貰うという約束で先週末の休日を潰して描きあげていたというのに、追加のお仕事なんて聞いてない。「お願い、アタシの顔を立てると思って、ね?」とお願いされても快く承諾できるほど心に余裕などなく、言葉に出す勇気が無い分引き受けることを視線でやんわり拒んだところ、「ありがと〜!うちのお得意様のご主人が元服用の贈り物に1本、残り2本は親戚の子にせがまれてどうしても梅ちゃんの描く扇子が欲しいんだって。もちろんバイト代は弾むから!」と勝手に話が進んでしまった。
奥さんに頼まれたら断れるはずがない。
今持ってる仕事を2本を描きあげて、追加の3本まで仕上げたら暫く休ませてもらえるならやる気を出さない訳にもいかない。
「ごめんね〜」とまったく申し訳なさそうにしてない奥さんに私は肩をすくめ、お茶を一口含んで座布団に座り直す。
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