Lantern


雷蔵


根気強く耐え忍べば、何時か報われる。
何時か、『この人』も自分自身を見つめ直してくれると信じて唇を噛み締めて耐えていた。
なのに、私はどうして、あの時見ず知らずの人に『助けて』なんて。
どうして私、あんな卑怯なことを。

事務員の方にここで待っているよう言われてから数分空を眺めていると潜り戸からひょっこり頭を出した彼は照れくさそうに頭をかきながら「突然知らない男から文が届いてびっくりしただろ?驚かせてごめんね」と謝った。私は彼の一言に酷く驚き、それと同じくらい底知れぬ恐怖を感じていた。この人は謝るという行為になんの抵抗もないらしく、それも私の軽率な一言で争いの渦中へ巻き込まれた被害者だというのに、以前出会った時と同じ全く気にしてませんよと言わんばかりのニコニコ顔には恐れいる。
彼の言うように文は突然我が家に届けられた。さぞかしご立腹だろうと恐る恐る開封した文にはお手本のような美しい文字が整然と並んでおり、季節の時候から始まった中身はさぞかし長考して捻り出したであろう回りくどい要件が綴られていたが、要するに1度会いませんかと言うものだった。目を通してすぐに私はピンと来た。きっと私に文句を言いたくても感情をありのままに文へしたためれば後々誤認を引き起こす証拠物として悪用される可能性がある。だから気持ちをはぐらかすように敢えて回りくどい内容を文にしたため、呑気にひょこひょこやってきた私に思いの丈をこれからぶつけるのだろうと。
温厚な人ほど怒らせると怖いという。丸く下がり気味の目に温和そうな眉、人当たり良さそうな雰囲気なんてまさに温厚そのものだ。きっと今にも『お前のせいで!!』と飛びかかり、胸ぐら掴んでしきりに怒鳴り散らしたあと慰謝料だ何だと高額のお金を要求するに違いない。誠心誠意頭を下げて謝ったら許してくださるかしら。せめて両親に迷惑がかからないよう少ない貯金もこさえてきたのでこれで手打ちにしてもらえたら。ビクビクしながら彼の一挙手一投足に身構えていたのだが、どういうことか、手紙の差出人は怒るどころかほんの少し頬を赤らめると気恥しそうに私へはにかむのだ。

「改めまして。僕の名前は不破雷蔵です。今日から暫くは君の許嫁を努めさせていただきます。えーっと、これからよろしくね?」

不破雷蔵と名乗ったその人は私を打つことも胸ぐらを掴むこともせず、ただ友好の印として握手を求めた。『あの人』と同じ瑠璃色の忍ひ装束の袖から伸びるボコボコと凹凸が目立つ分厚い手の皮。指の形は所々私の指とは違う方向に曲がっていて、その中でも人差し指は他の指と違って極端に曲がっている上に皮が盛り上がっている。虫を潰すどころか花を摘みとることすら躊躇しそうな雰囲気なのに、忍者になるため並々ならぬ努力を積み重ねてきた強者であることは手を見ればわかる。それにこの手を見れば『あの人』の傲慢不遜な言動を制して私の許嫁にとって代わった事実も現実味が増す。とはいえ見るからに気弱そうなこの方が『あの人』を抑え込んだなんてまだちょっと信じられない。
もしかしたら、不破さんはまだ猫を被っているだけで、二度三度会ううちに『あの人』と同じになってしまうのかもしれない。
頭がすげ変わっただけで私の扱いは何も変わらないだけだったらどうしよう。もしかすると今よりもっと最悪な方向へ転がっている可能性も捨てきれない。


仏にも悪魔にも転ぶ可能性を秘めた手を私は固唾を飲んで見下ろしていた。顔をあげると首を傾げて私を見つめる仏の顔。しかし女ひとり黙らせるには充分鍛えられた大きな悪魔のような手が差し出され、ここが自分の人生の分岐点だと悟る。
一生馬鹿にされ虐げたまま付き人同然の人生を送るか、それ以外の人生か。悩むことなく私は先の見えない未来に人生を賭けて彼の手を取り素性を明かした。飼い犬のように呼び捨てられることが多かったからだろうか、「梅ちゃん」と友達のように親しさを込めた呼び方に照れずにはいられなかった。

許嫁が代わってから早いものでもう一ヶ月が過ぎていた。
私は城勤め、不破さんは学生。お互い平日を忙しくしているため交流は文の往復、あとは休日を使ってたまに町へ出かけたりもする。不破さんとの初めての逢瀬は得体のしれない相手を接待しなければいけない理不尽と恐怖に押し潰されそうで、団子の味も分からないほどに緊張していた。串を握る手の震えを隠せないほど心の声が態度にダダ漏れな私に気後れさせないよう不破さまはクスッと笑えるような小話を披露したり中々お目にかかれない団子の山を頼んでみたりと私の緊張を解いた。まるで凪のようなお方だ。私が相槌を打ち忘れても彼の眉間はピクリとも動かない。おそらく喜怒哀楽の怒りを持たずに生まれたのだろう。飲水のように団子を次々と平らげていく大食漢に呆気を取られたが不破さまとの逢瀬は平凡に恙無く幕を閉じ、何度も何度も約束を取り付け顔を合わせて、今日でもう何度目かも分からない逢瀬になる。

「うーん…Aセットの季節のお団子が気になるけど、Bセットの大福も捨て難いなぁ。このお店は大福が有名だって聞いてるけど、期間限定ものは今しか食べれないし…うーん」

不破さんはよく悩む。

「すみません、AセットとBセットを1つずつお願いします」

「これで悩みは解決ですね。さぁ、どうぞお好きな方をお召し上がりください。」
「お召し上がりくださいって…あのさ、前にも言ったけど、僕の事は気にせず君が好きなものを選んでほしい。余り物を進んで食べるような寂しい事はしないでおくれ」
「でも、」
「でももヘチマもない。今の君の許嫁は僕なんだ。どうか僕に気を遣わないでくれ。そんな怯えた目で見られると悲しい気持ちになるからさ」


「雷蔵さまは本当に心根の優しい真っ当なお方です」
「君にそう言われるとなんだか照れるなぁ。それにしてもどうしたんだい急に?」
「いえ、何となく言葉にしたくなったのです。雷蔵様は私なんぞに勿体ないほど出来たお方で、この先貴方と添い遂げる女人はさぞかし徳を積んだ素晴らしい方なのでしょうと」

「ずっとこのままでいいのに」



迷い癖があるけれど、あの時は迷うことなく助けてくれたことに感謝してる。

婚約者が親に告げ口して事実を確認される。そこで不破は他に好きな人がいるのにお前に付き合わされて可哀想だと言われ、でも、と反論したいけど反論できず。

次に不破に会った時、事実を確認するも否定。嬉しいのに信じられず、誰を信じたいのか分からない主に雷蔵が僕はいつでも君の味方だよと言われあなたの言葉が本当だと信じたいと縋り付く。



新しい婚約者に不安しかない子と、勝負して奪ったとはいえ相手が自分で良かったのかと悩む雷蔵。
忍たまに婚約者いる主。
婚約を破談にさせてくださいと頭を下げ、それをふざけるな!と怒る忍たま。
町で出かけた際に亭主関白押し付けられて泣きそうにしてるところに双忍が現れて、その態度はどうなんだと指摘。
お前たちには関係ないだろと主の手を引っ張り去ろうとする男。助けてほしそうに振り返る主に別に許嫁だし普通だと肩を抱かれるも震えており、男が取り柄がない女だが家同士が決めたから仕方がないだの、完全に下に見てる。俺以外に引き取り手がいないんだと言うものだから、雷蔵がじゃあその子は僕が引き取るよとケロッと申し出て、三郎も思わず雷蔵!?となる。
驚きの提案に男もえ?となるも、イヤイヤでこの先連れ添うのはお前にとっても彼女にとっても酷な話だろ?こう見えて面倒見はいい方だから安心して任せてくれと雷蔵がいい、男は、少し顔を上に向けた女を見て舌打ちし、冗談に決まってるだろ!優等生は冗談が通じねぇなぁとボヤいて帰る。

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