平和に行きましょう。

私は役たたず?


その日、#name1#なまえは気づいてしまった。何故前衛向きの武器を扱う自分が毎度毎度後方支援に回されて得意でもないデバフ係を任されているのか。

「もしかして私、特捜隊のお荷物…?」

ハッと口元を抑える。まるで両親の不倫現場を意図せず目撃したようか気分だ。それなりに数をこなし経験を積んできた方だと自負していた。特捜隊が結成される前からテレビの中で活動していたし、ペルソナの扱いなら仲間の中で誰よりも長けている。シャドウが複数襲ってきてもひとりで対処できる。だが、先日ペルソナを発現したとはいえ身体能力に恵まれた彼らからしてみれば私なんぞペルソナだけが取り柄のペーペー。長斧に振り回されるヒヨっ子と笑われても事実なので言い返せない。

氷だけが残ったカップを揺らしてガックリとテーブルに項垂れるなまえを陽介をはじめ特捜隊メンバーはそんなわけないだろとなまえの悩みの種を席から立ち上がる程に否定する。事実なまえは強かった。数日前から力に目覚めた彼らに比べれば経験の差は歴然である。だが仲間の言葉を受け入れ前向きになろうとするもなまえの憂いはなかなか晴れない。戦闘の指揮を執るリーダーがこの場を不在にしていること、前衛向きのメンバーが何故後衛に配置されデバフ係に任命しているのか、その理由をはっきりさせない限り胸のモヤモヤは消えないだろう。

「はぁ〜…」
「デカイため息だな。そんなため息ついてると幸せが逃げるぜ?それに落ち込むことなんてないだろ。鳴上が何考えてるのかわからねぇのはいつもの事だけどさ、後方支援って周りをしっかり見れる奴しか務まらないポジションだろ?このメンバーでそれができるのはお前くらいだって事だ。頼りにしてるぜ!」
「はぁ…」
「え、俺の言葉響かなかった感じ?」
「ちょっと花村が下手に励ますから余計落ち込んじゃったじゃんか!」
「なんで俺が責められんだよ!?」

3度目の怪奇事件が発生し巽完二くんが行方不明となった。時を同じくしてマヨナカテレビが放映され、モンモンと湯煙立ちこめる大浴場とかなりはっちゃけた様子で褌を揺らす巽くんを物理的にも社会的にも救うべく、事前調査の打ち合わせとして特捜隊メンバーはジュネスに集まっていた。特捜隊の初動は速い。終礼が終わると昼休みから荷詰めした鞄を握りジュネスへ直行する。授業が終われば学校に用は無いのである。
私は特捜隊メンバーの自覚が薄いのでゆっくりと自分のペースでジュネスのフードコートに向かうのだが、今日も私と鳴上くんを除くメンバーが既にフードコートに揃っており小腹飯をつまみながら今後について話し合っていた。鳴上くんは?と尋ねると里中さんが諸金に捕まって居残ってると苦笑いした。可哀想に、あの先生話長い上に説教くさいからなぁ。肝心のリーダーから諸金に運悪く捕まったと連絡が入ると、待ちぼうけ組は空いた時間を埋めるように最近校内で流行っている噂話を口々に披露し花を咲かせ始めた。根も葉もない噂話を花村くんが意気揚々と披露し、それを冷めた女性陣が正論で叩き伏せる。「女子が冷てぇ〜!!」と大袈裟に嘆いているがいつも同じやり取りを繰り返しているので特段なんとも思わない。
扱う話は様々だ。同級生のカレカノ情報から真面目なあの子の薄暗い秘密話。特捜隊に誘われるまでクラスメイトの名前どころか顔すらうろ覚えだった私は何やら盛り上がりをみせる今どきの学生達を一歩離れた場所から傍観しジュースを啜る。時折相槌を打ちながら、けれど頭の中はテレビの中にいるクマのこと。

適当に話を聞き流しているうちに話題が学校からテレビの中へ移り変わり、前線の苦労話を肩を叩きながら語るメンバーになまえはずっと抱えてきた違和感を言葉に置き換え、ハッとした。私、特捜隊のお荷物?
思うに特捜隊へ加入してからずっと誰かの背中に守られて戦ってきた。幼い頃からテレビの中を自由に出入りしてきた。それなりに危ない局面をくぐり抜けてきたし、私の力量は鳴上君達も十分理解しているはず。
最初はメンバー間の戦闘経験を埋めるため敢えて後方支援に回されているのかと自己解釈していたが、最近は皆の急成長に危機感を覚え、1人だけ置いてけぼりにされないか内心焦りが生まれている。そろそろ前線に立たせてもらえる頃合いではないかと期待しているのだが、鳴上君の様子を見る限りその兆しは全く見受けられない。鳴上君が私を前線に立たせない理由。考えられる理由としては、単に私が【邪魔】だからだろうか。一人で戦う習慣が長く体に染み付いているから、もしかしたらそれが。
この世の終わりのような面持ちでポツリと呟くなまえに前線組は顔を見合せると『いやいや、ないないない!』と激しく顔を横に振った。

「何を言い出すかと思ったらそんな事かよ。#name1#が役たたずなわけないだろ?もしそうなら俺たちは一体なんだよ。虫以下か?」
「そうだよ!この前もペルソナ攻撃でシャドウごとダンジョンの壁を突き破ったのはどこの誰だと思ってんのよ!!!」
「私はまだペルソナとかテレビの中の世界のことあんまりよく分からないけど、#name1#さんは普通に強いと思う。自信もって!」
「でも…この前、里中さんがダウンした時にフォローで前に出たら、鳴上くん『危ないから下がってろっ』て剣幕な顔で指示されたのが私の中で引っかかっているというか」

実質戦力外通告だよね、これ。
ぷくっと片頬を膨らませたなまえはまたため息を吐きテーブルに項垂れる。安全地帯からデバフをかけるなんて誰でもできるポジションなのに何故いつも私が固定なんだろう。周りはどんどん力をつけて武器を新調し広い背中を見せつけてくる。積み上げた経験の差などすぐに埋まっていく。私、ここにいなくても別にいいんじゃないか。というかペルソナ使いの私よりもペルソナを使えないクマの方が一蹴まわって有能なのでは?私よりもシャドウの対処法に詳しいし、愛嬌もある。

「私って必要?」

空っぽになった紙コップを握り潰す。ジュース1杯110円。お小遣いは貰ってはいるものの高校生のお財布事情はかなりシビアだ。ダンジョン攻略の傍らでお小遣い稼ぎするよりも、真面目にバイトをした方が稼げるんじゃないだろうか。いっその事バイトしよっかな。
すっかりいじけたなまえの様子に雪子と千枝がゴニョニョと作戦を練る。悠の戦闘方針に振り回されなまえが自身を過小評価しているようだが、デバフがあるとないとではダンジョン攻略の難易度も断然変わってくる。メンバーにとっては彼女がここで抜けられるとかなり困るのだ。
「#name1#さん」と雪子は座り直し背筋を伸ばす。真面目な空気になまえも体を起こして背を伸ばした。

「#name1#さんよく聞いて。確かに鳴上君は何考えてるか掴みづらいし、たまに言動に引っかかる部分もあるけど。彼って私たちが想定している以上に心配症だしかなり過保護に接してくるところがあるからそんなに気にしなくてもいいと思うよ」

心配性。過保護。

「そうそう!私がテレビの中から現実世界に戻ってきた時も鳴上君から『大丈夫か?』って連絡がそりゃもう1日2何通も来たから。あまり深く考えすぎない方がいいと思う」

二人の言い分もわかるし鳴上くんが過保護とマメを足して2で割ったような人だって事はわかってる。分かってるけど…。
テーブルに身を乗り出し熱く説得してくる千枝と雪子の勢いでもなまえはどこか浮かない表情で指のささくれを眺めている。どんな励ましの言葉も前線に立たせてくれなければ何も心に響かない。

「ま、気になるって言うなら、俺がそれとなーくアイツに言っといてやるよ」

親指を立て『任せろ!』と相棒役が高らかに私の悩みを片付けてくれるらしい。嬉しい申し出だけど、あまり期待せず実力で示す他ないだろう。1度鳴神くんと話し合うしかないだろう。ダメそうならバイト始めよう。

「みんな、ありがとう」

縁あって特捜隊に加入し、1ヶ月も経たずに退会しようと迷っていることを悟られないよう笑顔で誤魔化しこの話を終わらせようとした時、悩みの種を埋めて育てた元凶が大きく手を振り現れた。流石は都会から来た落ち武者。諸金に捕まっていた割にはちっとも凹んだ様子はなく、なんとも涼しげな顔をしてる。

「すまない皆。待たせたな!」
「気にすんなって。そんじゃ、今日も行きますか」
「ああ。おっと、その前に。なまえ」

名を呼ばれなまえは顔だけを悠に向ける。
なぜ名前を呼ばれたのか。テーブルに両手を着き席を立つなまえに悠は鞄を漁りながら近づいてくる。
相変わらず背伸びしても埋まらない身長差に首を痛めて視線を上にあげていると突然視界が揺れた。その直後に頭を包んだ重量のある懐かしい帽子に私は思わず素っ頓狂な声を上げた。

「安全第一」
「…」

首の下でカチッと金具が噛み合う音が鳴る。これでよし、そう言わんばかりの善意100パーセントの満足気な顔になまえはキュッと口を結び悠を睨みつけた。
これがちょっとした過保護ね。ふーん。なるほどね。
凍りついた空気に流石のムードメーカー達も口を開けないのか、陽介も千枝も我関せずとばかりに席を立ち一足先に電気コーナーへと向かう。
ソロ活動に戻ろうかな。今にも舌打ちが聞こえそうな不機嫌な面持ちでなまえは白いヘルメットを外し悠に投げた。何故なまえが呆れているのか、イマイチなまえの感情に疎い悠は疑問符を飛ばしながらも『ヘルメット忘れてるぞ!』となまえの後を追いかける。イマイチ噛み合わない感情と会話が雪子のツボに入ったらしい。雪子の笑い声に重なった「もう辞めるから!」と叫ぶなまえの声はジュネスのフードコートに悲しく木霊した。

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