ピザ美味しかったなぁ。ダミノ最高。もうお昼いらないや。
少し早い昼食を済ませたなまえはご機嫌に腹を撫で自室へ戻る最中であった。伸びるチーズの余韻に浸り午後から急遽入った家入との血生臭い約束も頭の片隅に追いやられる程幸せに浸っていた。ウロウロと女子部屋に続く階段前を不審者の如く徘徊する鮮やかな水色に出会うまでは。
何やってるんだろあの人。迷子?
東京校の関係者に水色頭の女性はいない。京都校には一人いたが。金髪魔女っ子パイセンに足場の悪い森の中を走らされた嫌ぁな記憶になまえは『声をかける』選択肢を早々と捨て来た道を引き返す。京都校にろくな人はいない。あの人が居なくなるまで時間潰しに散歩でもとなまえは足音を立てぬようゆっくりと踵をひるがえし登ったばかりの階段へと向かおうとした。しかし方向転換を終えた直後「あの!」と背中越しに声がかかったことでなまえはビクッと肩を揺らし、ぎこちない動作で声をかけた人物へと視線を合わせた。
「あなたは確か東京校の1年の方ですよね!!」
そういう貴方は京都校の…いい人そうな人。いい人ではない。いい人“そう”な人(暫定)。京都校の学長と庵先生が何度も口にしていた苗字は確か。
「……三輪さん、でしたよね。京都校の」
「あ、はい。そうです。役立たず三輪です!」
「役立たず?」
それって自己申告するものだっけ。あまりに潔い自己評価の低さに会話のテンポが乱れ、独特な間の悪さになまえは視線を窓の外へ逸らす。真希先輩か野薔薇ちゃん今すぐ来てくれないかなぁ。私この人苦手かも。
京都校の三輪さん。交流戦中に何度か顔は合わせていたが、こうして互いを認識し言葉を交わすのはこれが初めてだ。互いの印象を決める初回の会話にしては出だしが些か癖が強すぎる気もするが、視線があった途端に睨みつけ嫌味を吐く他の京都校の人と比べればまだマシか。彼女の傍に人影はなくどうやら1人で東京校女子部屋前へやってきたらしい。オドオドとした挙動に彼女の行動を何となく察して、京都校の寮部屋は2階ですよと階段のある方向へ指で指し示した。しかし彼女は迷子じゃないんですと首を横に振り困ったように笑った。
迷子じゃないなら何しにここへ?まさか明日に繰り越した個人戦に向けて東京校側に嫌がらせ?…なわけないか。お人好し寄りのいい人そうだし、自分の手を汚してまで貪欲に勝ちを掴みにいくような性格にも思えない。
「迷子じゃないならどうしてここを徘徊していたんですか。あまりふらついてるとおっかないヤンキーが来ますよ」
「(ぶ、物騒だなぁ…)その、用っていうほどの用じゃないんですけど渡す暇がなかったので今のうちにと思って。遅くなりましたがこちら京都土産です。東京校の皆さんで分けてください」
「あ、りがとうございます」
手に持っていた紙袋がまさかお土産袋だなんて予想外だ。中身を覗くと舞妓さんのイラストが描かれた包装紙に生八つ橋の文字。教師、2年の先輩、1年生、合わせて3箱も入っていた。みんな大好き抹茶味とは、この人できる。
正直京都校の第一印象が最低すぎて、息を吐く要領で癪に障る言葉ばかりを吐き散らす当たり屋集団と思っていたが、少なくともこの人は違うようだ。三輪さんからは他の京都校生とは違い傲慢剥き出しの京都プライドを一切感じない。交流戦と言いつつもしっかり人数分お土産を持参してくる分には最低限の礼儀を持った良い人なんだ。受け取ったお土産を抱きお礼を述べる。自己主張強めの怖い人たちかと思っていたけどそうでも無いんですねと東京校を代表しなまえは軽く謝罪するが、
「あの、実はそれ歌姫先生が東京校の皆さん宛に個人的に買ったものでして…私達は1円も出してないんです」
申し訳なさそうに告げられた事実に穏やかな笑顔は一瞬にして無に返った。なるほど、やはり京都校の生徒と学長は好きになれない。
「それとですね…」
「はい?」
庵先生を探しに来た道を引き返そうとする私を三輪さんはもうひとつ話があると言い引き止めた。言いにくそうに手を揉み視線は足元をふらついてる。その落ち着きない様子からなんの話題を振るつもりか察しがつかないほど鈍感ではない。つまらないお願い事をしてきたら迷わず平手打ちしてやる。背の後ろに隠した指を1本ずつ解しながらじっとりと口元を見つめるなまえの気迫に三輪は縮こまる。しかしそれでも伝えたい事なのか、逃げ出す素振りもなく、手の震えを隠すように真剣が抜けたただの入れ物を握りしめた。
「い、虎杖くんの件についてですが、私は皆とは違います。虎杖くんの事はよく分かりませんし、両面宿儺の器とか、特級呪物を飲み込んだとか、それがどれほど危険なのかも正直他人事みたいな。上からの指示を受けてあの時は断ることができなかった。も、勿論私は殺す気なんてこれっぽっちもありませんでしたよ!!…ただ、冷静になって考えてみたら私とんでもない事をしたなって」
「それで?」
「えと…謝らなくちゃ、って」
「そうですか」
立場上上の指示に従う他なかった。でも人を殺すつもりなんてなかった。悪い事をした。だから謝りたい。言いたいことは分かったし、私も三輪さんの立場なら同じことをしたと思う。気持ちはよくわかった。で?
「それ、私に言う必要あります?」
この時間は一体何なのか。話し方的に今の言葉を本人に伝えと欲しいわけでもなく、ペラペラペラペラと自身の正当性ばかりを主張する言い訳をツラツラとまぁ面倒臭い事この上ない。虎杖君に謝りたいのか、それとも東京校側に自分は味方だといい顔したいのか。どちらにせよ私に伝えてどうするつもりなんだろう。適当に相槌を打つくらいしかできないけど。
「お土産渡しに来てくれてありがとうございます。じゃあ私はこれで」
「え、あ、はい。お疲れ様でした…」
共用スペースのソファーでスマホを当っていた野薔薇ちゃんへお土産を渡し、ちょっと職員室に行ってくると告げ学生寮を後にする。
京都校は虎杖くんを呪霊として殺そうとしてた。術式の強さや呪術師の経験を考慮してもあのフィジカルモンスターは簡単に殺せないだろうし、今回は五条先生が見守っていたからもし京都校の思う様なシナリオに傾き始めていたとしても大事にはならなかったはずだ。虎杖君は良い人だ。こっちが困惑するほどに良い人。だから
「よっ!みょうじ。釘崎が京都校のお土産分けるってさ。共有スペース集合な!」
「わかった」
少なくとも虎杖くんは世界が終わる瞬間まで笑っていて欲しい。