見付けてみせるさ
苛々する。全てのことが煩わしい。嫌な予感だけが脳と胸を締め付ける。知識が足りない。自分自身の力のなさに吐き気さえ覚える。…私の力が及ばなくなることなんて、雨の日以外はないと思っていたのに。何故、こんなにも無力なんだ。どうして、私に力がない。…これ以上、大切な人を失いたくない。なのに、方法がない。どうにかなってしまいそうだ…部下の私を見る視線すらも消し炭にしたいくらいだ…!
「ーー…大将、少し落ち着いて下さい」
「すまないがそれは無理だ、中尉。何か報告は入ってないのか!?」
「ーー申し訳ありません。只今、全部隊を走り回らせていますが、有益な情報はまだありません」
「……くそ…っ、やはり私も探す」
「お待ち下さい、大将!大将は今は動かない方が…!」
「このまま指を咥えて待っていろと?!」
「ーー少しは落ち着けよ」
「……鋼の……」
只の八つ当たりだ。自分が最低なのは分かっている。だが、何故私はただ待って居ることしか出来ないんだ…!!凛とした声が聞こえ、そっちに視線を向ければ、私の表情を見た鋼のは呆れたように溜息を付く。溜息を付きたいのは此方の方だと言うに…!
「焦っても良い事なんかある訳ねぇだろ、大将。少しは頭を冷やせ。あのサラが簡単にくたばる訳ねぇだろ。悪運強いだろうしな」
「兄さんには負けると思うけどね。…でも、兄さんの言う通りだと思いますよ、大将。少し落ち着いて下さい。ホットミルクなんてどうです?」
「ホットミルクなら私が淹れます。アルフォンスくんは座ってて下さい」
「わあ、中尉の淹れたホットミルク大好きです。お言葉に甘えますね」
「…………」
「いい加減にしろよ、大将。今のアンタは外に探しに行けねぇだろ。警備だって今は薄いんだから大人しくしてろよ。ーー命、狙われてるんだから」
「……そう、だな……」
私は小さく溜息を付き、椅子に腰掛ける。ーー先日、何者かかはまだ特定出来ていないが、私宛ての殺人予告が届いた。私は大丈夫だと主張したのだが、遠くに居る筈のエルリック兄弟が此処に居ると言うことは上は私の主張を受け入れてはくれなかったらしい。中尉がホッとしたような表情をしているのを横目で見ながら、私は溜息を付いた。
「…あの反応は、錬金術ではない筈だ」
「…そりゃあそうだろ。化学反応がなかった。どんなに錬金術に長けてる錬金術師でも、全く化学反応を出さない、音も出さずに錬金術を発動するなんて出来る訳ねぇ」
「そうだね、兄さん。あれはーーどちらかと言ったら神隠し的な感じがするよ。急に消えたんだもの、扉を開けた筈のサラさんが…音もなく、一瞬で」
「神隠し……そんな非現実なことをまさか目の当たりにするとはな…」
「本当に神隠しだとすれば打つ手はねぇよな…大将、そんな顔すんなって、悪かったよ」
「今のは兄さんが悪いよ、自業自得だよ。…シェスカも調べてみるって言ってたけど、本当に神隠しだとしたら調べようがあるのかな…」
「ーー異世界、と言うのを聞いたことがありますか」
「中尉?」
人数分のホットミルクを淹れてテーブルに置いた中尉がぼそりと呟く。思わず名前を呼べば、中尉は些か悩むような仕草を見せたが、ポツリと呟いた。以前、サラと中尉、部下の数名でクセルクセス遺跡に行った際、埋もれている石版があったらしく、それをサラが解読したんだそうだ。そこには異世界と言う言葉があったらしい。
中尉が言うには、我々が今居る空間とは別の空間が複数あるらしく、それをまとめて異世界と言うんだそうだ。時間の流れや季節が違う空間もあるんだそうだ。…なかなかスケールが大きいな。
「…中尉はサラが異世界に連れ去られたと思っているのか?」
「確証は持てませんが、恐らくそうではないかと」
「異世界ねぇ……突拍子もねぇ話だけど、辻褄が合わない訳じゃねぇよな…サラが突然消えたのも納得出来ると言えば出来るよな…」
「…異世界かぁ…サラさん、変なことに巻き込まれてないかなぁ、あの人優しいから面倒臭いって言っても首を突っ込んじゃうから…」
「……ない、とは言い切れませんね」
顔を引き攣らせながら言った中尉に、私は頷く。寧ろ、容易に想像出来るくらいだな…アイツは何故か面倒なことに自分から巻き込まれに行くことが多々ある。それは此方に居るエルリック兄弟にも言えることだが、エルリック兄弟は巻き込まれやすい、サラは巻き込まれに行く。正義感がある訳ではないが、変に真面目だからな…見過ごせないんだろう。
…取り敢えず、少しは突破口を見付けられたな。私は少し冷めたホットミルクを飲み、口を開く。
「中尉」
「はい」
「当時の部下を覚えているだけで良い、今から呼び出してくれ」
「はい…?」
「エルリック兄弟は……要らないが護衛として着いて来てくれ。これから出掛ける」
「はあ!?」
「えっと、出掛けるって何処にですか?」
「決まっているだろう。クセルクセス遺跡だ。その石版を見に行く」
「はあ!?そんなの部下に任せれば良いだろ!アンタは命狙われてるんだから大人しくしてろよ!」
「もう大人しくなんかしてられんな。…手掛かりになるかも知れんのだからな」
唯一の手掛かりに成り得る情報であり、今はそれに縋るしかない。…情けない話ではあるがな。掛けてあるコートに腕を通せば、溜息を付いた中尉は電話を掛け始める。何人集まるかが重要なんだが…まあ、中尉の記憶力を信じるべきだな。鋼のは乱暴に自身の髪を掻き乱し、アルフォンスは困ったように笑う。…すまないな、エルリック兄弟。巻き込むつもりはなかったのだが…しょうがないだろう。私の護衛を頼まれたのだからな。
(…絶対、見付けてやるからな…待っていろ、サラ)
必ず、連れ戻してみせるからな。怪我なんてしないでくれよ。お前はまだ嫁入り前だし、女性なのだから。自暴自棄になるのも分からなくはないが、お前が傷付く必要なんか皆無だ。お前はーーただの、被害者なんだからな。色々有りすぎて混乱しているのは分かるが、あまり自分を責めるな、サラ。また、笑ってくれ。そんなことを願いながら、私は窓から空を眺めていたーー…
(失いたくない大切な存在)
(諦めたりなんかはしてやらない)
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