提案です

ゼンポウジに要注意人物を教えて貰った後、寝返りを打ったタキの手が俺の服の裾を離したので、俺は笑顔のゼンポウジに医務室を追い出された。女性なんですから早く寝て下さい、と言う言葉と共に。タキは保健イインで面倒見ると言われた。……まあ、今までの分仕事したいみたいだし、此処は素直に身を引こうかな。
俺が心地良い風を感じながらのんびり部屋に向かっていると、見覚えのある後ろ姿が目に入る。何かを探して居るかのような仕草に、俺は声を掛ける。


「こんな夜更けに探し物?大変だな、シナセンセ」
「!やっと見付けたわ!」
「え、俺を探してたの?」
「そうよ。今まで何処に居たの?何回も部屋に来たのだけど、全然会えなくて…」
「あー…何かごめんな。今まで医務室に居たんだ。俺は怪我してないんだけど、タキがナナマツの攻撃を受けてな…今、ゼンポウジが診てる」
「!!…そう。私が任務で出掛けてた時に色々あったみたいね」
「……まあ、な。まあ、悪いことばかりじゃねぇから良かったけど。あ、俺に何の用だ?何か手伝うのか?」
「いいえ、違うわ。ーー湯浴みに行きましょう!」

「……はい?」


つかつかと俺に近付いて来たシナセンセは、逃げられないようにする為か、ぎゅっと手を握る。困惑した俺の返事を了承と受け取ったらしく、シナセンセはにっこりと笑ってから、既に用意していたのだろう、2つ分のタオルと着替えを持っていて、俺に1つを持たせてから、空いてる方の手で俺を引っ張って行く。…悪いな、ゼンポウジ。俺は寝れないみたいだ。恨むならシナセンセを恨んでくれ。


***


「シナセンセ、ちょっと待って…!!」
「もう!女同士なんだから良いじゃない!抵抗はやめなさい!」
「無理だから!恥ずかしいから!!」
「何が恥ずかしいの?」
「…シナセンセみたいに綺麗じゃねぇから、隣に立つの恥ずかしいんだよ…!」
「(あら、可愛い所あるじゃない…)…じゃあ、違う姿なら良いのね?」
「え」
「じゃあ、行きましょうか」

「っ、はあ!?」


一瞬、俺を引っ張るシナセンセの力が弱まったと思い、目線を向けてみればシナセンセがさっきまでいた場所には、朗らかに笑う婆ちゃんが居て、俺は思わず目を擦る。げ、幻覚じゃないよな…?そんな俺の反応に、婆ちゃんは朗らかに笑うと、俺の手を引いて来る。それからはされるがまま、だな。桶で身を清められ、シャンプーやボディーソープをされまくった。そりゃまあ、これでもかってくらい丁寧に。背中の太刀傷を見た時は動きを止めたが、それも一瞬だった。
全てが終わった後、俺は湯船に浸かっていた。隣にはやっぱり婆ちゃんの姿がある。…この婆ちゃんは何処から来たんだ…?いや、それよりもーー…


「…あの」
「何でしょうか?」
「…どっちの姿が本物のシナセンセなんだ…?」
「さあ、どっちでしょうか。サラさんはどっちだと思います?」
「…分かんねぇ。どっちもシナセンセだと思ってる。気配も多少は違うが、本質は変わらねぇし…」
「質問を変えましょうかねぇ……どっちの私が安心出来ますか?」

「それは両方だから比べられる訳ねぇよ。普段のシナセンセはお姉さんみたいだし、今のシナセンセは婆ちゃんみたいだ。…婆ちゃん居ないから、ちょっと変な気持ちだな」


俺の言葉に、シナセンセは表情を少し暗くした後、一瞬で俺が知ってるシナセンセの姿に戻る。…ニンジャって凄い…びっくりしていると、シナセンセにぎゅーと抱き締められ……胸!胸!柔らかいけど苦しい!!


「…ぐ…シナ、センセ…っ…ちょっと離して…!」
「……ごめんなさいね。変なことをして」
「……は……?」
「…任務に行く前、貴女の姿を見たの。話し掛けようと思ったのだけれど、貴女の隣にきり丸が居たから話し掛けそびれちゃった」
「……キリ……?」
「盗み聞きするつもりなんて勿論なかったわ。…でも、間が悪かったわね。家族を失ったことを聞いてしまったのよ…ごめんなさいね」
「……誰かしら居るのは気付いてたし、別に気にしないでくれて構わねぇよ……」
「サラさんならそう言うと思ったわ。でも、私が言いたいのはそれじゃないの」
「……?」

「…少しくらい、甘えたって許されるわよ」


ぽんぽんと一定のリズムで頭を撫でられる。いつの間にか普通に息が出来るようになっていたが、俺はシナセンセの顔を見ることが出来ない。シナセンセの言葉は、何故か凄く響いた。本当に何でかは分からねぇけど。涙腺が弱まっているのか、うるうるときてしまう。泣くなよ、何で泣きそうになってんだよ……!!


「……生徒達がごめんなさい。貴女に何の罪もないのに……辛い思いをさせてるわよね。本当にごめんなさい」
「…それについては、俺が好きで首突っ込んでるだけだし、シナセンセにお礼を言われることはしてねぇから」
「してるわ。…元々は私達が生徒達を野放しにしていたからこうなったものだもの……私達の教育も、天女の魅力には敵わなかったのね」
「それは違うぜ、シナセンセ。天女には何らかの補正があったんだよ、きっと。補正には人間は無力だ。敵いっこねぇよ」
「……貴女には辛い思いをさせてばかりなのに…!」

「言っただろ、俺が好きで首を突っ込んでるだけだって。はっきり言えばただの自己満足だ」


だから気にすんなって言いたかったんだが、シナセンセには伝わらなかったらしい。シナセンセは悲しそうに顔を歪めた後、また俺を抱き締める。だから、胸…!!この状況を見たら、多分ロイは羨ましがるだろう。代わってやるぞ、今すぐにでも。普通に窒息しそうなんだよ…!!突き放せたら良いんだが、美人過ぎて気が引けるし、だからと言って婆ちゃんの姿だと、更に抵抗出来ないし…シナセンセには逆らえそうにないなぁ…


「…そんな、悲しいこと言わないで頂戴…!!」
「……シナセンセは優しいのな、俺は平気だから気にすんな」
「…貴女が進んでいるのはイバラの道よ。関係ない貴女がこれ以上苦しむ意味はないわ。今からでもくノ一の長屋に来て頂戴」
「くノ一…?おばちゃんも言ってたけど、他にも誰か居るのか?」
「くノ一は私が受け持ってる生徒よ。凄く可愛いくて良い子達なの。恋は御法度なんだけれど、忍たま達と付き合ってる子達も居たわ。幸せそうだったから応援してたのだけれど……」
「天女のせいで別れを告げられたって感じか…?」

「…ええ。私は同じ女ですもの。学園長先生にも他の先生にもあの女は可笑しい、信用してはいけない、今すぐにでも忍たま達と引き離すべきだと進言したわ。…受け入れては貰えなかったけれど…」


美人は溜息すら絵になるんだなぁ、とシナセンセを見ながら染み染み思う。…えっと、くノ一は話の流れからして女なんだろうな。シナセンセとしては、俺をくノ一の長屋で保護したいらしい。くノ一達は忍たま達と顔を合わすのが嫌らしく、食堂に来る時間もずらしているらしい。今日、つーか、昨日か。昨日みたいに外で食べて来るのも多いみたいだ。道理で見掛けない筈だ。


(…ガクエンチョウのシナセンセを見る目が少し違って見えたのはこのせいか)


まあ、そりゃそうだよな。シナセンセは天女の危険性を感じ、ガクエンの為に進言してたのに、今はこの状況なんだからな。…シナセンセの進言を、ちゃんと聞いてたらこんなことにならなかったかも知れない。キリがあんなに辛い思いをする必要だってなかった。多分、ドイが反対したんだろうな…天女に惚れてたみたいだし。何人目までなのかは知らんが。シナセンセは俺を妹のように思ってるらしく、くノ一達と一緒に過ごして欲しいそうだ。勿論、仕事関係は今のまま。男連中は許可がないとくノ一達の長屋に入れないらしい。更に手荒い歓迎もあるみたいだ。なかなか興味深い。


「…これは私個人の気持ちなのだけど、あの部屋で過ごして欲しくないのよ…壊したいくらいだわ…」
「…見るのも嫌って感じなのか?」
「……ええ。本当に、生理的に受け付けないの」
「…ドイもあの部屋嫌ってたみたいだからなー…ぶっ壊してやろうか?」
「…え?」
「勿論、ガクエンチョウの許可を得てからだけどな?シナセンセが言うなら壊してやるよ」
「…本当に…?」
「俺もあまり気持ち良くはないからな。香水だか何かの匂いが染み付いてて気持ち悪い。それに、シナセンセとかドイとかキリを苦しめる部屋なんてない方が良い」
「……ふふ、サラさんは格好良いわね」

「俺に惚れたら火傷するぜ?」


にやりと笑ってみせれば、シナセンセはクスクス笑う。どうやら少しは元気が出たらしい。安心したぜ…やっぱり美人さんは笑ってた方が良いよな。リザも勿体無いよなぁ、ロイがあんなんだからしょうがねぇんだろうけど。あんなに美人なのに、常に仏頂面だからな…まあ、真面目なリザらしいけどな。ロイももう少し真面目になればなぁ…リザの爪の垢でも煎じて飲ましてみるか…?少しは効果あるかもな…


「…シナセンセ、何か用事ある?」
「え?……夜が明けてからって意味で大丈夫かしら?だったら…午後なら空いてるわ」
「午後ね、りょーかい。くノ一の子達に時間取って貰う事は可能か?」
「ええ、私から頼めば聞いてくれる筈よ」
「じゃ、今日の午後、時間ちょーだい。ガクエンチョウにあの部屋を壊す許可を一緒に貰おうぜ」
「!サラさん…っ!ええ、勿論よ!」
「くノ一の子達って天女を良く思ってないんだよな?だからさ、急に行くよりかは顔合わせとかしときたくてさ。シナセンセ、橋渡ししてくれない?」
「勿論よ。何かあれば私が責任負うわ」

「はは、頼りにしてるよ」


ま、責任を負わせるようなことはしねぇけど。シナセンセにこれ以上負担掛けたくねぇしな。キリ達に簡単に会えなくなるのはちょっと寂しいけど、あの部屋がある限り前には進めねぇだろ。後ろ髪引かれる、つーのかな。縛られてる奴も沢山居ると思うんだよな…だからこそ、あの部屋を壊す必要がある。存在しなかったように、な。錬金術を使えば容易いことだ。まあ、午後までは我慢するけどな。…くノ一の子達に受け入れて貰えると良いけどなぁ…
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