朝から勘弁してくれ
アヤと話した翌朝、たっぷり寝たはずなのにまだ少しばかり眠い。ふわ、と欠伸を噛み殺しながらくノ一の離れから食堂に向かう。途中で会ったユキ達にサラさんの手料理楽しみにしてます!なんて言われれば喜ばずには居られない。これは腕を奮うほかないな、なんて思いながら暖簾を潜れば、そこには萌黄色の集団が。今回は3年生か、なんて思っていれば俺に気付いたのか、サンタンダが振り向き、満面の笑みを浮かべる。うん、可愛い。
「おはようございます、サラさん!」
「おはよう、サンタンダ。今回はお前等なんだな」
「はい!あ、まだ紹介してないですよね?右から浦風藤内、伊賀崎孫兵、富松作兵衛、次屋三之助、神崎左門です」
「待って待って。そんな早口で捲し立てられても困るんだが。…まあ、そっちに仲良くする気はないみたいだし、覚えるつもりはねぇけどな」
「…すみません、大丈夫だとは言ってるんですけど」
「良いんだよ、サンタンダ。お前が気にすることはねぇさ。あ、サンタンダさえ良ければ何だけど、カズマって呼んでも平気か?」
「!勿論です!乱太郎ばかり狡いなあって思ってたんです!自慢して来たんですよ」
「はは、そいつは可愛いな。カズマも気軽に話し掛けてくれて良いからな」
「有り難うございます!サラさんはずっと学園に居て下さるのですよね?七松先輩と修行もしているそうですが、怪我したら絶対に来て下さいね!治せるとしてもですよ!」
「…何処まで知ってんだよ」
流石に怖いんだが。ニンジャってこんなもんなのか?あの話をしてた時、カズマはおろか3年生1人も居なかった筈だろ?あれか、ランか。自慢しに行ったらしいなあ。可愛いけど軽く叱っておかないとな、余計な火種はない方が良い。天女を良く思っていない存在がいる限り、俺に懐いてる=妖術を使ってると思われかねん。…現に疑われてるしな。
(おー、怖い怖い)
ギロ、と睨んでくるものの、俺からカズマを強引に引き離そうとはしないらしい。まあ、俺の隣に居るから近付けないんだろうな、きっと。隙を見せたらすぐに引き離しに掛かるんだろうな。バカなことだ、心配ならすぐに引き離せば良いのに。自分に懐いてる奴を殺すことなんざ造作もないんだぜ?やらねぇけど。おはよう、と朗らかに挨拶してくれたおばちゃんにおはよう、と返してから厨房に入れば、俺は両隣をおばちゃんとカズマに塞がれる。有り難いことだな。
「サラちゃん、くノ一部屋はどう?良く眠れた?」
「あー…寝付くのに時間は掛かったが、ちゃんと寝れたから大丈夫。彼処は静か過ぎるから逆に落ち着かないな」
「早くこっちに帰って来て下さい。…簡単にくノ一教室には行けませんので会えないのは、寂しいです」
「帰って来て、か。…そうだな、早く戻れるようにしたいけど、まずは仲良くしなきゃいけねぇからなあ?」
「「「「「…………」」」」」
「皆!!…すみません、サラさん。後で言い聞かせておきますから」
「良いんだよ、カズマ。こういうのは時間が解決するもんさ。自分の目で見たことだけを信じるーー良いじゃねぇか。情報に踊らされるよりかは全然良い」
「…サラちゃんはずっと翻弄されてたのねえ。時期さえ良ければもっと歓迎してあげられたのに、…本当にごめんなさいね」
「おばちゃんが謝ることねぇよ、慣れてるから平気だって言ったろ?カズマもそんな顔すんな。お前達は被害者なんだから申し訳なさそうな顔することはねぇよ」
甘い、と評価されたとしても、俺はコイツ等を責め立てようとは思えない。ジョーキュウセイがタキ以外天女に骨抜きになった=3年生が実質のトップだ。自分達がやられたら次は2年生が狙われる。それじゃあ、2年生が狙われた後はーー?ラン達1年生なんざ、そんなに鍛練しなくても簡単にオトせるだろう。現にキリがそうだ。彼奴はボロボロになっていた。彼奴は過去が過去な訳で、そういうのには人一倍敏感なんだろうな。ったく、苦しんでる奴を更に苦しませて何が楽しいんだか。天女ってのは人の心を持ち合わせていないのか?許せねえな。
(…こんな小さな体で、大変だっただろうに)
タキだけがきっと、唯一の味方だったのだろう。ジョーキュウセイの穴を埋めるべく奮闘するセンセ達を頼るとは思えない。そりゃあ、まだ3年生だって子供なんだから頼りたくもなるだろうが、休憩すらしようとしないセンセ達に我儘言えるほど、コイツ等はガキじゃない。…甘えたかったんだろうけどな。実質トップな訳だし、甘える訳にはいかないと、自分より年下に心配かけまいと自分を叱咤してたのは、想像するに容易いことだ。…本当、カキュウセイが頑張ってるのに、ジョーキュウセイは何をやってるんだか。情けないにも程がある。
「サラちゃん、顔が怖いわよ」
「!あー…悪い、何か苛々した」
「!す、すみません!!そうですよね、気分悪いですよね!サラさんは何も悪くないのに!」
「違う違う、そうじゃねぇよ。…天女って存在に吐き気がしただけだ。要らねえよなあ」
「い、要らなくないです!サラさんが居なくなったら…!…う…っ」
「ちょ、カズマ!?泣くな泣くな!!包丁持ちながら仲間を睨むな!包丁置け、危ないから!」
「皆がサラさんを認めれば…!!」
「気持ちは有り難いし嬉しいけど落ち着こうな!?おばちゃんも笑ってないで宥めてくれよ!仲良くて何よりじゃねぇから!」
余計に疑われてんじゃん、マジかよ。俺が必死になって宥めているのにも関わらず、カズマを若干怯えたように見つつも俺を睨む視線にどうせお前が誑かしたんだろ?みたいな視線を向けて来ることに溜息を付きたくなる。カズマはカズマで異常なほど俺に懐いてくれてるから余計なんだよなあ…対立するのは避けてやりたいけど、何をすれば分かって貰えるんだろうな…
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