そしてまた1人

クセルクセス遺跡。此処に来たのは久し振りだと思いながら、俺とアルに両端を固められているのが不服そうな表情を隠そうとしない大将に、俺とアルは顔を見合わせ、苦笑いを浮かべる。本当なら出しちゃいけないんだがな、殺害予告がある訳だし。まだ犯人は分かってないらしいし…上層部の奴らはちゃんと仕事してんのか?ま、俺とアルを護衛に依頼したのだけは褒めてやるけどな。


「それにしても驚きました。まさか少佐も当時のメンバーだったなんて」
「一時期サラ殿に指導して貰っていた時がありましてな、その際に誘って頂いたのです。…まさかこんなことになるとは…」
「そうだったんですね…サラさんなら大丈夫ですよ!だって、少佐の師匠なんですから!ね、兄さん」
「そうだって。サラが簡単にくたばる訳ないだろー?異世界だってすぐに見付けてやるよ。此処の遺跡なら俺も解読出来るからな。だから、ちょっとは落ち着けよ大将」
「…五月蝿いぞ、鋼の。中尉、まだ着かないのか?」

「もう少し掛かります。…心配なのは皆同じですよ」


先導している中尉と、当時一緒に見付けたらしい人達が振り返り、大将を見つめる。その瞳は今にも泣きそうで、胸が締め付けられるような感覚に襲われる。…中尉、滅多に泣いたりしないから余計かもな。そんな目で見つめられた大将はぐっ、と唇を噛み締めた後、すまない…と謝罪を入れてから黙り込む。


(…まあ、焦る気持ちは分かるんだけどなぁ…)


きっと、今の大将にはヒューズ中佐のことが気掛かりになってるんだろう。それに、大将はサラのこと好きだし。ウィンリィやメイにもバレバレなのに、サラ本人は伝わらないし、大将もバレてないと思ってるしで、色々問題だらけだ。まあ、俺はどうにかするつもりないが、アルは痺れを切らしたウィンリィとメイと一緒に何か仕出かしそうだな。面白そうだし、それで進展するなら願ったり叶ったりなんだけど、サラがヒューズ中佐を忘れないと話は進まないよなぁ…まあ、簡単にはいかないのは分かってるけどな。俺としては大将にもサラにも幸せになって貰いたいけど、な…
そんなことを考えながら、久し振りに会えた嬉しさからか、少佐に笑顔で話し掛けている弟に癒されていれば、ーー…ぞわり、と嫌な悪寒を感じる。これは、一体…?


「ーー着きました、此処です」


冷静な、中尉の声。此処か…と感慨深げに言う大将に同調しようと顔を上げた瞬間、目の前が真っ白になるくらいの衝撃を覚える。周りは少しは保存されているのに、奥地だからか荒れ果ててしまっているのにも関わらず、存在感を示す遺跡に、ほぅ…と溜息が零れる。ーー…綺麗だ。


「兄さん、文字が書いてあるの読める?」
「何、まさか読めないと言うのか!?お前が読めると言うから同行を許可したと言うのに…!」
「大将、落ち着いて下さい。…見惚れてしまってるのよね?サラも暫く同じ反応だったから…」
「…そうでしたな。不思議な現象でした。我々が何を言ってもサラ殿は暫くあの遺跡に夢中でしたからなぁ…」
「あー…読めるから大丈夫だ。…へえ、サラもなのか?」
「ええ。…エドワードくんも、よね?」

「うん。…これは、俺達が知ってる遺跡じゃないよ。否、“知ってたら”おかしいレベルだ」


過去だとか未来だとか、そんなレベルじゃない。次元が違う。技術が違い過ぎるんだ。こんなことがあって良いのか?何でこんな高度な遺跡がこんなところにある。俺はそっと遺跡の方に足を進め、そっと触れる。…放置されていたはずなのに、崩れていない。寧ろ、これだけが異常に綺麗だ。これは持ち帰るべき、かもな…


「ーー…鋼の!!その遺跡には何が書いてあるんだ!」
「…そんな大声出さなくても聞こえるって!…天女って呼ばれる存在に学園が脅かされる時、救世主が現れる、って意味合いだな。…救世主がサラってことか?」
「何!?…ならば今は死んでない、みたいだな…安否だけでも確認出来ただけで良しとするべきか…鋼の、他は何か書いてないのか?」
「ーー返さない、って」
「ーー…は?」
「…この世界って書いてあるってことは、異世界ってことか?中尉が言ってた通りだな…」
「兄さん、1人で納得してないで説明してよ!!大将抑えるの大変なんだよ!?」
「落ち着いて下さい!まだエドワードくんが解読してるじゃないですか!」
「離せっ…!!返さないとはどういう訳だ!!サラとは2度と会えないと言うのか!!」
「落ち着いて下され、マスタング大将。…エドワード殿、そこには返さないと、書かれているのだな?」
「うん。…何を返さないのかは、書いてないけど」

「それはまた珍妙ですな。…サラ殿が解読した際は、そのようなこと書いていなかったはずですが」


鈍器で殴られたような衝撃が俺を襲う。さっきまで騒いでいた大将も今は五月蝿くない。嘘ですよね、少佐…?震えるような声でアルが少佐に聞けば、少佐は首を横に振ってから、一枚の紙を差し出す。それをアルが引ったくるように奪ったのを見て、俺も見せて貰おうと遺跡から離れた後、何となく再び遺跡に目を向けーー…目を見開き、俺は声を上げる。


「少佐、そこから逃げろ!!」


叫ぶのと同時に、少佐を守る為に錬金術を発動するものの、手応えを感じられない。おいおい、まさか…っ!!と思いながらも、遺跡から少佐に向かって伸びる無数の手に、ぶるりと体を捩る。あの時の悪寒はこれか…!!遺跡で発動した為に、砂埃が辺りを舞う。頼む、間に合っていてくれ…!


「ーーうそ、だろ…?少佐…」


砂埃が晴れ、辺りが鮮明になった後、居て欲しいと思いながら錬金術を解除すれば、そこには何もなくて。最初から少佐なんて居なかったかのように、何もない地面がそこにあった。間に合わなかった…そう理解したと同時に、カリカリと小さな音が聞こえ、その音の方に目を向ければーー…まだまだ足りない、と返さないと書かれていた文の隣に新たに書き加えられていた。この遺跡に、意思があるのか…?色々問題は尽きないが、まずは取り乱している大将とアルを落ち着かせるのが最優先だよな、と無理矢理納得してから落ち着かせる為に声を掛ける。…まだこの事件は終わりそうにないな…

同時刻、


「ーーお頭!!人が倒れてますよ!」
「何ぃ!?お前等!買い出しは後だ!こっちに来い!」
「「「はい!」」」


こんなやり取りが起きていたなんて、俺は知らないし、知る方法すらなかった。



(理解出来ないことばかりだけど、諦めたりしない) (絶対返して貰うからな)
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