壁を取り払う

翌日。昨夜の宣言通り、ガクエンチョウによる朝礼が行われ、まずはリキチが警備する為に暫く滞在するということが伝えられ、1年は組とコマツダの大歓声が暫く絶えなかった。好かれてるんだなあ、リキチ。そんな彼等に対し、リキチは困ったように笑いながらも手を振り返していて、出来る男は違うなあ、なんて思った俺は間違ってはいないだろう。そして、更にガクエンチョウの口からあの部屋をぶっ壊すということを生徒達に知らされる。さっきまでの歓声が鳴り止み、辺りは静寂に包まれる。今日から復帰を果たしたタキが驚いたように目を丸くしながら俺を見つめるので、俺は苦笑しながら口を開く。


「…お前だって、あの部屋嫌いだろ?結界は頑丈なのを周りに作るから、遠慮せずにぶっ放して良い。あの部屋がある限り、お前達は前に進めない。ーーいい加減、覚悟を決めろ」
「っ、わ、私は!貴女に何度も酷いことをしました!!それ、なのに…!何故…!」
「お前は被害者だろ。なあ、タキ。お前が苦しむ意味ないんだよ、加害者だったこへとかあやが苦しむのは当たり前だろうけど」
「…耳が痛いぞ、教官」
「…本当にごめんね、滝ちゃん」
「な、い、いえ…!!こうしてまた、…話せるだけで、私は満足です、から…」
「タキは良い子だなあ…天女に現を抜かした奴等は良く覚えておけ、タキみたいな子は早々居ないからな。許して貰えるだけ有り難いと思え。んで、後悔してるなら行動に移せ。お前達についてるその立派な足は飾りか?違うだろ?前に進め、いつまでもメソメソしてんじゃねえ。反省するのは簡単なんだからな」
「おいおい、サラ…その辺にしといてやってくれ…私も耳が痛い…」
「お前にも言ってんだよ、ドイ。キリ達を傷付けたら許さねえからな。お前達はオトナだろ。オトナは子供を導くのが仕事なんだよ、子供は宝なんだからな」
「ーー…ああ、肝に命じておこう」

「ま、今までの倍頑張れば良いだけさ。精神的にも、な。二度と、繰り返したくないだろ?」


そうだと、言え。お前達が戻って来るのを待っていた、何を言われても、どんなに振り払われても、めげずに声を掛け続けた彼等に、安心を与えてやれ。そんな意図に気付いたのか、ドイが頷くのとほぼ同時くらいに、6年生の、5年生の、タキとハマ以外の4年生、リキチのはい!という声が、辺りに響き渡る。ーー伝わってくれたようで、何よりだ。ちらっとガクエンチョウに目配せすれば、ガクエンチョウは満足そうに頷いてから口を開く。



「皆の気持ちは分かった!その気持ちを必ず忘れるでないぞ!今日のことを胸に刻み付けるのじゃ、ーー我々は、2度とあの悲劇を繰り返さないと」
「…学園長…」
「うむ。…あの部屋にけじめを付けたいと願う生徒達は授業が全て終わった後、あの部屋の前に集まりなさい。勿論、参加は自由じゃ。武器の持ち込みも可能じゃ。他はーー…何かあるかの、サラ」
「…そうだな。とりあえず、あの部屋以外の場所に被害がいかないように強力な結界を張るつもりだから、思う存分に暴れてくれ」
「あと!サラさんの錬金術が見たい人は必見っすよね!」
「…錬金術?」

「あー…まあ、そうだな。キリも楽しみにしてるみたいだし、盛大にやってやるよ。リキチは…そうだな、ヤマダ先生にでも聞いてくれ」


説明は多分、ヤマダ先生の方が上手いだろうし。そんなことを考えながらヤマダ先生の方を見れば、ヤマダ先生は困ったように笑いながらも頷いてくれた。…これがオトナの魅力って奴だな。ヤマダ先生、本当にイケメンだ。ご子息であるリキチもイケメンだし、奥さんも美人だろうなあ、なんて想像しながら、俺の錬金術を思いっきりやる発言に喜んでる1年は組を眺めていた。…可愛い過ぎじゃね?
あれから時間が経ち、授業が全て終了したのを確認してから、天女に充てがわれていた部屋に向かえばーー…


「…凄いな、全員参加か」


いさくやフワ、みたいなお人好しまで来るとは思っていなかった。見たことない武器を構えている彼等に、少し後ろ髪引かれながらも真ん中に向かって歩いていく。…終わったら武器のこと聞こう。足音に気付いたのか、真ん中を陣取っていたガクエンチョウが振り向き、俺を見て満面の笑みを浮かべる。


「おお、遅かったな!準備でもしておったのか?」
「いいんや?ヨシノ先生とコマツダと一緒に書類整理してた。あれ、シナ先生もやるのか?」
「あら、私がやったらおかしいかしら?…私だって、ずっとあの子に燻った思いを抱いていたんだもの、構わないでしょう?」
「…おかしいなんて思ってねえよ。見に来るだけだと思ってたから驚いただけ。ユキ達は見学だけなんだな」
「私達はサラさんの錬金術が見たいのが一番ですから!」
「それに、シナ先生の邪魔したら怒られますから…」
「見学に徹するのが得策なんでしゅ!」
「成程な。ま、精々鬱憤晴らしてくれよ、壊すのはやる気満々な奴等に任せておけ」
「教官!!まだ壊してはいけないのか!?」

「…お前は落ち着きがないな、こへ。ちょっと待ってろーー…ん、結界張ったからもう大丈夫だ。好きな時にやれ」


ーー思いっきり暴れろ。にい、と思わず口角が上がる。やっと枷を外してやれるからなのか、武器を見たからかは分からないが、存外ー…俺も昂ぶってるらしい。俺の言葉を聞き、まるで拘束を解かれたばかりの獣のごとく、こへが突っ込んで行く。そんなこへに続くように、他の連中も自分の武器を容赦なく部屋にぶちまかす。おーおー、派手だなあ。
暫く経ったが、彼等の怒りは収まらないらしい。ぼろぼろになった部屋を眺めていれば、俺の隣に居たヤマダ先生が見ておきなさい、と俺の頭を撫でた後、リキチ、トラワカ、タムラ、センに声を掛けてから、武器を構える。ー火器だ。そう理解したと同時にーー…攻撃が放たれた。


「ーー…すげぇ」


思わずポツリと零れ落ちる。たった1発、それだけなのにーー轟々と燃え盛る部屋だったもの。センの投げたあの小さい奴とタムラの大砲?が主な原因だろうが…火力、やばいな。焔の錬金術師、顔負けじゃないか?ボーっと眺めていれば、ヤマダ先生はどうだったかな、サラくん。君の期待に応えられたかい?と楽しそうに笑いながら問い掛けて来る。それに応えようとしてーー…俺は開き掛けた口を閉じる。見てな、と目だけで訴えてから、燃え盛る部屋の前に立ちーー…全てを払い除けるように祈りを込めながら、パンっ!と掌を合わせーー…炎を消し去り、真新しい部屋を生成する。これが、答え、だな。ヤマダ先生に視線を向ければ、ヤマダ先生は朗らかに笑っていた。俺の真意は無事に伝わったらしい。真新しい部屋を見て大歓声を上げながら飛び付いてくる1年生達を抱き止めながら、ホッと安堵の溜息を付いたーー…
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