優しい朝
天女の匂いが染み付いた部屋をぶっ壊した翌日。俺はくノ一部屋から作り直した部屋に舞い戻って来ていた。あのくノ一部屋の空き部屋は俺の倉庫にしてくれるらしい。そんなに荷物増やすつもりないんだが。まあ、何はともあれ、だな。今日は土曜日。忍術学園はお休みだ。1年は組とドイとヤマダ先生とうどん屋に行く日。…割りと、楽しみだな。
「サラ、おはよう。自分が作った部屋での寝心地はどうだ?」
「おはよう、ドイ。ま、あの匂いがしないのは幸せだな」
「はは、違いない。…今日の件、その、覚えているか…?」
「うどん屋だろ?俺も楽しみにしてるし忘れてはないさ。此処の食材は良いのばかりだからな、うどんも期待してる」
「そ、そうか…!しんべヱ御用達だからな。味は保証しよう」
「シンの味覚なら安心感が凄いな。…静かだな」
「…ああ。実家に戻る生徒達が多いからな。月曜日からまた騒がしくなるぞ」
「…うん、それも良いかも知れんな」
静か過ぎるのは性に合わない。困ったように笑いながら言えば、ドイは瞬きを数回繰り返した後、確かに少し寂しいかも知れないな。と頷きながら告げる。付き合いが短い俺ですら、寂しいと感じるのだから、付き合いが長いドイはかなり寂しいだろうな。今日は人数が少ないからお手伝いは良いと言われている。確実に気を遣われたんだろうな…そんなことを思いながら、ドイと他愛のない話をしながら食堂に行けば、見覚えのあるシルエットが飛び付いて来た。
「サラさん、おはようございますー!!」
「おお、キリか。元気そうだな。おはよ」
「元気っすよー!今日はサラさんも一緒にうどん屋っすからね!…あ、土井先生も居たんすね、おはようございます!」
「私はついでか!!…おはよう。何だ、もう皆集まってるのか?」
「半助とサラくんが最後だな、おはよう。サラくん、良く眠れたかい?」
「おはよう、ヤマダ先生。ああ、良く眠れた。此処は空気が良いな、窓を開けると心地良い風が吹いてくる」
「サラさんの所は星が綺麗に見えないんですもんね?」
「おー。まあ、田舎の方に行けば見えるみたいだけどな。便利になるのも考えものだな、自然が壊れるのは気持ち良いことではないし」
「便利になるのも自然も共存出来れば良いですよね。あ、おはようございます」
「お、リキチか。おはよう。そうだな、そうなれば一番良いけど…難しいだろうな」
上層部の奴等は自分のことしか考えてないジジババばかりだからな。自然破壊だって必要なれば率先してやるだろう。自分が楽になるなら進んでやる。んで、クレームが上がれば部下に押し付ける。分かり切ったことだな。俺含めて両手くらいの人数しか反対派が居ないからな…後は上層部に目を付けられたくないっていう小さい野郎と、盲信的に上層部を崇拝してる頭おかしい奴等、だな。洗脳?どうだろうな、やりかねないとは思うがな。
「、サラさんの所属している場所は殺伐としていますね…」
「そうだなー。まあ、戦争とか良く起きるからな…事件とかも日常茶飯事だし、治安は最悪だろうな。親父が居た時は少しはマシだったが…今はその親父も居ないからな」
「はにゃぁ…大変でしたねぇ…サラさんはその中でどんなお仕事をしていたんですかぁ?」
「俺は書類整理とか、壊れた場所の修繕とか…あとは、そうだな。大きい戦が終わった後だったし、住民達へのケアとか見回りとかだな。町からは出られなかったし」
「出られなかった…?…まさか…間者だと思われていたのか?」
「カンジャ?」
「間者、だよ。そうだな…敵の所に忍び込んで諜報活動をする、と言った感じだな」
「ああ、スパイか。そうだな、それを疑われてたと思うぜ?親父が亡き今、俺の後ろ盾はない訳だし、潰すなら今って感じなんじゃないか?」
「潰すだなんて…女性相手にあんまりですね…」
「大きい戦が終わったばかりだって言っただろ?あれも身内の裏切りだし、俺は元々女だってことからナメられてたし疑われてたからなあ…しゃあねえよ」
おばちゃんに声を掛け、今日の定食を貰う。早朝から帰宅している生徒が多いらしく、今日の定食は白米に卵焼き、焼き鮭、味噌汁、漬物、冷奴というラインナップのみ。まあ、どんな料理でもおばちゃんのご飯は美味いから良いんだけどな。お昼は要らないのよね?と聞いて来るおばちゃんに頷いてから席に向かえば、やたらと神妙な表情を浮かべていて、俺は小さく笑う。
「ンな顔すんなよ、本人は別に良いって思ってんだぞ?」
「良くないだろう!!…くそっ…」
「はは、優しいなあ。…ショウ?どうした?」
「…いえ。その人達はどんな人生を歩んで来たのか気になっただけです。叩きのめしてあげたいですね」
「庄ちゃんが少し過激…!?けど、どんなに捻くれてるのか少し気になりますよねー。正気なのか聞きたいっす」
「きりちゃん、顔が笑ってないよ…!サラさん、辛かったら辛いって言って良いんですからね!他の人がどんなことを言おうと、私達はサラさんの味方ですから!」
「サラさん、美味しいの食べて元気出しましょー。嫌なことは忘れた方が良いですよー」
「しんべヱの言う通りですよー。ナメさん触ります?」
「食事中にやめなよ、喜三太…!えっと、帰って来たら竹刀とか、一緒に振りませんか?身体動かしたら、気が晴れますよ!」
「えー?だったらぼく達のからくりでも良いんじゃない?元気出るよ?」
「最新作が出来たんで、サラさんの感想聞きたいです!」
「馬に乗ってお散歩しましょう!気持ち良いですよ〜!」
「生物委員で飼ってる狼に子供が産まれたんです、見に来ませんか?」
「えっと、あの、一緒にお散歩したいです…!」
「伊助はもう少し欲を出しても良いんじゃないか?…サラ、私は君が今のままで良いとは思えない。欲を出しても良いんだぞ」
「半助の言う通りだ。…そうだな、興味があるなら火縄銃を触ってみるのはどうかな?私で良ければ指導するが」
「父上は教えたいだけですよね?…サラさん、少し街並みを散歩しませんか。此処の人達は優しい人ばかりですから」
「ーー…はは、うん、そうだな。そうしよう」
俺は壊れているのだと、申告してくれた奴のことを思い出す。まるで自分のことのように顔を歪めながら言った可愛い後輩に似た表情をする彼等を、蔑ろには出来なかった。馬にも狼の子供も触ったことがないなあと言えば、ダンゾウとトラの表情をパッと明るくさせ、是非触りましょう!と言って来た。うん、動物は良いかも知れんな。あれもこれも、と色んなことに誘って来るラン達やドイ達に、退屈だけはしなさそうだな、と思いながら俺は小さく笑みを零した。
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