懐かしい味を噛み締める

時間になり、コマツダに外出届を出し、外に出る。そう言えば外に出たことなかったなぁ、と思いながら辺りを見渡す。自然の匂いがする。すん、と鼻を動かしていれば、動物みたいだと笑われたので、取り敢えずキリを軽く叩いておく。ちらり、と門の方を振り向けば、圧倒的な存在感に思わず顔が引き攣る。隠密なんじゃないのか…?まあ、ガクエンチョウは目立つの好きみたいだしな…仕方ないか。
他愛のない話をしながら道なりに歩いて行けば、活気ある街並みに辿り着く。俺が知ってる街並みとは全然違い、思わず辺りを見渡してしまう。お、あれは何だ?


「…待て待て待て、興味があるのは分かるが、勝手に離れて行くんじゃない」
「あ、…悪い。色々興味深くてな。…やっぱり異世界なんだなぁ、と実感したんだ。大人しくしてるよ」
「…まあ、気持ちは分からないでもないがな。私も初めて見た時には驚いたし。…その、よ、良かったらはぐれないように…その…手を…「サラさーん、手を繋ぎましょ!」…きり丸」
「早いもの勝ちっすよ!ねっ、良いでしょー?」
「分かった分かった。ほら」
「やった!」
「あ、えっと…その…!」
「ん?ほら、イスケ」
「あ、有り難うございます…!」
「どう致しまして。そういや、何か言いかけてなかったか?」
「…いや、何でもないよ」

「?変なドイだなぁ」


じゃれ付いてくるキリと、控えめながらアピールして来たイスケと手を繋ぎながら問い掛ければ、ドイは複雑そうな表情を浮かべながら首を横に振る。…まさか、俺と手を繋ぎたかったのか?まさかなぁ…子供扱いか?歳近いのにそれは困るんだが。まあ、さっきの俺なら仕方ないのかもな…


「…サラさんの手は、冷たくて、働き者の手をしてますね…」
「そうかぁ?まあ、女らしからぬ手だとは思うがな」
「そんなことないです!ぼくは、その、す、素敵な手だと思います…!」
「ーー…そっか、有り難うな。イスケの手は小さくて可愛いなぁ。俺はイスケの手、好きだよ」
「!あ、えっと…有り難う、ございます…!」
「伊助ばかり狡いっすよー!!おれは!?」
「一々はしゃぐな、キリ。キリの手は…そうだな、頑張り屋さんな手だな。あんま無理すんなよ」
「…へへっ、分かりました!」
「…サラくんは手で色々分かるのかい?」
「いや、何となくだよ。後は話をした時の内容とかな。これでも記憶力は良いんだぜ?」
「…無自覚ですか…これは、なかなかの逸材かも知れませんね…」
「利吉もそう思うか?学園長先生もサラくんは忍者になれるんじゃないかと常に仰っていてな。サラくん用の教科書を取り寄せるとか言っていたな」
「吉野先生や新野先生が楽しそうに厳選してましたねぇ…サラ、諦めろ」
「はぁ!?待て、聞いてないぞ!」
「今言ったからな。吉野先生や新野先生は私達を止める方だったんだが…何かやらかしたのか?」
「、別に…やらかして、あー…あれはやらかした、に入るのか…ニイノ先生の方は分からん。ラン、何か知らないか?」
「わたしですか?…わたしが言ったって言わないで下さいね?川西左近先輩が引き止めてくれって遠回しに進言してましたよ。ーーあの人は放っておいたらダメだと思います、あの人の知り合いは守ってくれるとは思えません、って。サラさん、左近先輩に好かれてるんですねえ、勿論わたしも好きですよ!」

「はは、有り難うな。俺もランのこと大好きだよ。…カワニシかぁ、彼奴が気に入ってくれてるとはなぁ…」


まあ、照れ隠しで冷たい対応されてるのは分かってたがな。顔真っ赤だし。トキトモが俺を好いてるのが分かりやすいくらい、カワニシも分かりやすければ良いのにな…ポツリと呟けば、ランが遠い目をしてることに気付き、俺は苦笑いを浮かべる。…無理そうか、そうだな、俺もそんな気がして来た。
そんなやり取りをしていれば、うどん屋に着いたようだ。キリとイスケに誘われるがままに席に着けば、シンがこれがおススメです!と言う商品を見てみれば…


「…きつねうどんか。良いな」
「此処のおうどんはツユが美味しいんですよ〜、そのツユが染み込んだお揚げは最高ですよ!しかも!」
「しかも?」
「お揚げ二枚と沢山のネギ、かまぼこも付いて来てこのお値段なんですよー!」
「おお、具沢山だな……値段は、正直分からないんだが…これはお買い得なのか、キリ」
「お買い得っすよ!普通ならもうちょいしますもん!しんべヱがそこまで言うならそれにしようかな…サラさんはどーします?」
「せっかくシンが勧めてくれたんだしな、俺もこれにするよ」
「やったー!気に入ったらまた一緒に来ましょうね!おシゲちゃんも一緒に!」

「デート…ええと、こっちだと逢い引きか。の邪魔してないか?まあ、誘われるなら行くけどな」


苦笑いを浮かべながら言えば、邪魔なんて有り得ませんよ!と断言するシンに、少しばかり驚きながらも頭を撫でてやる。可愛いなぁ、やっぱり。イスケやラン達もシンのプレゼンによってそれぞれ選んでいく。食に関する時に増す語彙力は何なんだろうな…時間が経ち、それぞれの元にうどんが到着する。鼻を擽る良い香りが腹を刺激する。頂きます、というヤマダ先生の号令に合わせて頂きます、と言ってから少し息を吹き掛け、啜る。


「ーー…優しい、味だな…」
「美味しいですかー?」
「…うん、美味い。…何か、小さい頃を思い出す味だ」
「ーー…サラ…」
「…沢山お食べ。此処は半助と私の奢りだからね。気が済むまで食べれば良いさ。利吉、お前もだぞ」
「…はい。有り難うございます、父上。サラさん、この月見うどんも美味しいですよ」
「そうか、余裕があれば頼もうかな…ツユも美味いなあ。シンの言った通りだ」
「…えへへ、食に関してはぼくに任せて下さい!何か食べたいものがあればいつでも言って下さいね!とびっきり美味しいのご用意しますから!」

「…はは、うん。…頼りにしてるよ、シン」


しつこくない、飲みやすいツユは凄く優しい味で。幼い頃、母さんが作ってくれた料理を思い出すような味付けで思わず涙腺が緩む。…美味いなぁ、本当に。こんな優しい料理、母さんが亡くなって以来食ってなかったな…おばちゃんの料理も向こうの料理も美味いけど、この素朴な味には…勝てないかもなぁ…そんなことを考えながらひたすらにうどんを啜り満足してガクエンに戻れば、その日の夕食の肉じゃがに度肝を抜かれる。誰に聞いたんだよ、おばちゃん…それ以来、俺の為にか何処か懐かしい甘めの味付けの料理が繁盛に出て来るようになるとは…今の俺には分かるはずもなかった。…胃を掴まれそうだ。
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