これから宜しく
あれから猛スピードで色々決まり、俺は明日から事務と食堂、たまに保健室と用具の手伝いをすることになった。多分読めないぞとは言ったが、ヨシノセンセが教えてくれるみてぇだから頑張ろう。最初は事務と食堂だけだったのに、俺が医療も出来るってドイが言ったから仕事が増えた。まあ、別に良いけど。ニイノセンセに懇願されたのもあるけど、医療は嫌いじゃない。救える人は救いたいからな。
どうやらイインチョウが天女に魅了されていた時、止めようとした後輩に怪我を負わしたらしい。幸い、大したことはなかったみたいだが、イインチョウは思い詰めて出てこないそうだ。
「……疲れた」
「大丈夫かい?学園長は結構強引だからね……」
「んー、まあ、正直居なかった性格だからちょっと反応に困るが、慣れてみるよ」
「ああ、そうしてくれると助かる。お腹は空いてないか?おばちゃんから貰って来るよ」
「腹は空いてるけど、今は休みたい。明日の朝、案内して貰っても良いか?」
「勿論」
「有り難うな。……それにしても、天女の効果はかなり痛いんだな」
「……ああ。今は正気に戻っているけど、顔を合わせ難いから出てこなかったり、自分を責めてる子も多い。ご飯は食べているみたいだけど、やはり心配だね」
肩を落としながら溜め息を付くドイの背中をポン、と叩く。……この忍術学園にはイインカイと呼ばれる組織が存在するらしい。そのイインカイは全部で9つあるらしいんだが、ちゃんと機能しているのは1つもないらしい。一番必要な筈の医療と用具の責任者はまだまだガキで、危ないことはさせられないらしく、センセ達が全員でローテーションしながら賄っているそうだ。大変だな……世話になる訳だし、俺も頑張らねぇと。
「サラ、明日は大変だろうけど頑張ってくれ。何かあったら言ってくれ、力になる」
「……ドイは自分のことだけ考えろ。自分のことは出来る限り自分でやるさ」
「う……はは、なかなか言うな……」
「落ち込んでる暇なんかねぇだろ。……大切なんだろ?」
「……!当たり前だ!」
「だったら、守ることだけ考えろ。遠慮なんかするな」
「……サラ……」
「……人は、何時死ぬのか分からねぇんだからな」
母さん、父さん、ヒューズ、大総統。他にも色んな人が簡単に死んでいく。……俺の、知らない所で。全部救える訳でもねぇのは分かってる。けど、知らない所で消えるってのは、本当に止めて欲しい。悲しくて、仕方ねぇんだ。命を奪うのも必要だと分かってる。軍人を志願した時から、分かってるつもりだった。でも、大切な人達の死を考えると……どうしても、躊躇する。色々考えて、頭がごちゃごちゃする。真っ白に、なっていく。
「サラ、大丈夫か?」
「……ん、平気だ。ちょっと考え事」
「……そうか。明日、私かシナ先生が迎えに行くから、ちゃんと部屋に居なさい。厠はすぐそこにあるから、出来たら厠以外には外に出ないでくれ」
「まるで軟禁扱いだな……まあ、状況が状況だから仕方ねぇけど」
「すまないな……生徒達はまだ滝夜叉丸と一部しかサラのことを知らないから余計な刺激を与えたくないんだ」
「わーってる。俺も迷わねぇ自信はねぇし、外出しねぇよ。ただ、早く来いよ?顔も洗いたいし」
「ああ、分かってるよ。さ、着いた。ゆっくり休んでくれ」
「おう。お休み」
「お休み。……サラ」
「ん?」
「寝巻き、似合っているよ」
にっこりと笑顔を浮かべながらそう言ったドイに、思わずすぐそこにあったものを投げたが、虚しくドアにぶつかって落ちた。……あの野郎……!今の俺は、シナセンセから貰ったこの世界の服に身を包んでいる。キモノと言うらしい。着方が分からなくてシナセンセに聞いたのは言うまでもないだろう。シナセンセは困ったように笑いながらドイに頼んでいたが、俺は一応女だからシナセンセが良いと言ったら、皆が固まっていた。……まあ、こんな口調だし、髪も短いしな、間違うのも仕方ねぇし、慣れてる。ニイノセンセは気付いていたらしいから、流石医者だな、と思った。
(……慣れねぇなぁ、二ヶ月持つかな)
今までの天女は女らしかったらしく、部屋全体が女の子女の子していて、少々居づらい。明日、ガクエンチョウにでも模様替えの許可を貰おうかな。貰えなかったら……んー、どうすっかな。部屋でも変えて貰うか。教師陣はあまりこの部屋をよく思ってねぇみたいだし、ぶっ壊すのも悪くねぇな、うん。
念のために薄い氷の結界を布団の周りに作り、布団に入る。布団は意外とふかふかで、寝心地が良い。色々考えようと思ったが、今は寝てしまおう。起きたら元の世界であったら良いな、と望みながら俺は目を閉じた。
(突然始まった異世界での生活)
(さてさてこれから何をしよう?)
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