そんなに単純で良いのか?
あれからはずっと無言だった。聞いたことに答えただけとは言え、もう少しオブラートに言うべきだったか、なんて後悔してみる。まあ、多分出来ないだろうが。辺りを見渡せば、皆が皆暗い表情をしており、俺は苦笑いを浮かべる。別に、そんな顔させたかった訳じゃねぇんだけどな。ドイはあからさまに顔を歪めていて、多少なりとも罪悪感を抱く。
ポム、と柔らかい感覚が頭を撫でる。不思議に思って目線だけ移せば、ヘムヘムが俺の頭を撫でていて、俺はくすりと笑みを浮かべる。
「なんだ、慰めてくれんの?」
「ヘムー……」
「はは、有り難うな。……慰めて貰ったの、久し振りだ」
「ヘム?」
「事故で無くしたとか戦で無くしたとかなら同情されるんだけどな……俺が手を出したのは禁忌と言われる奴だからな。自業自得なんだよな、ある意味」
「……禁忌、とな?」
「水35L、炭素20s、アンモニア4L、石灰1.5s、リン800g、塩分250g、硝石100g、硫黄80g、フッ素7.5g、鉄5g、ケイ素3g、その他少量の15の元素……コレが何のことか分かるか?」
「……いや……?」
「人間の体の成分だ。俺の居た世界ではこれが全部子供の小遣いで買える。……笑っちゃうよな、人間ってのは随分と安いらしい。代償はハンパねぇけどな」
左足をポンポンと叩けば、察したのか驚いたように目を見開く。"人間を生き返らせる"そんなことが出来たら、皆が皆、手を染めるだろう。……やってはいけない、と口を酸っぱくして何回も言われていた。母さんにも、父さんにも。それでも……手を出してしまった。ただ、会いたかったと言う気持ちだけで。成功すると、信じて疑わなかった。……その結果が、これな訳だが。
「…まあ、信じるも信じないのもアンタ等次第だ。俺は嘘は言っちゃいねぇ」
「……疑う理由がないと思うがのう。のう、先生方」
「サラさん」
「ん?」
「……先程は疑ってすみませんね」
「……!いや、まあ、アンタの発言は正しい。俺は明らかに不審者だろうし、知らねぇけど色々あったたんだろ」
「……アンタ、ではありません。安藤夏之丞です」
「……この世界の名前は呼びにくいな、アンドウセンセ、で良いか?」
「構いませんよ」
「……何で安藤先生には先生を付けるんだ、サラ」
「お前は同い年だろうが、ドイ」
俺の言葉にドイは不満です、という表情を浮かべているが、俺は無視しておこう。アンドウセンセは勝ち誇った顔をしてるけどな。因みに敬語は無理だと前以て言ってあるから、これについては了承されている。……敬語、少しは勉強した方が良いかもな、必要かも知れねぇし。……まあ、この世界でしか使わねぇだろうし、必要ねぇか。
「ガクエンチョウ、1つ聞いても良いか?」
「構わぬよ」
「今までの天女は……自分の世界に帰ったんだよな?それはどのくらいの期間だったか分かるか?」
「ふむ……バラバラじゃったが、最低でも二ヶ月は居たのう」
「……二ヶ月……なげぇな、どうすっか……」
「む?どうする、とな?」
「はあ?どうやって二ヶ月過ごすかを考えてんだよ。住むところとか働かねぇと生きてけねぇだろ」
当たり前のことを言っただけなんだが、どうやらガクエンチョウには当たり前ではなかったらしい。俺の言葉に、ガクエンチョウはきょとんと目を丸くしていた。……俺、何か可笑しいのか?思わず不安になる。ちらりと辺りを見渡せば、誰もが皆、ガクエンチョウと同じようにきょとんとしていた。……何なんだよ、何が可笑しいんだ……?
「此処があるじゃろう?」
「……はい?」
「部屋は今までの天女達が使っていた部屋を使うと良い。仕事が欲しいなら与えるし、給料もやろう。食事もちゃんとある。……何が不満じゃ?」
「や、不満はねぇけど……寧ろ有り難いし。けど、アンタ等は天女に苦しまされてんだろ?俺はガキには興味ねぇし、何かをするつもりはねぇけど……そこまでの迷惑は掛けらんねぇよ」
「"迷惑"この言葉を使った時点でサラは今までの天女達とは違う。今までの天女達はやって貰って当たり前みたいな態度だったしのう」
「はあ!?……図々しいにもほどがあるだろ、有り得ねぇ……」
「……ふふ。やはり貴女は今までの人達とは違うわね。それに、忍術学園は秘密にするものなの。貴女が此処のことを誰かに言うとは思っていないけど、掟だから此処を知っているサラさんを外に出す訳にはいかないわ」
「……つまりあれか、それほどまでに戦力が落ちてるのか?……厄介だったんだな」
今までの会話を思い出してみれば、何となくその答えが浮かんだ。俺の言葉に、ガクエンチョウは何も言わずに笑みを濃くする。……秘密にしたい、って言ってる割には情報をペラペラ教えてくれた。こっちが不思議に思うくらいにはな。やけに簡単に教えてくれるなとか思ってはいたが……成程な。最初から軟禁するつもりだったのか。策士だな、このガクエンチョウ。
……タイラはセンパイを奪われたと言っていた。つまり、天女に心を奪われ、鍛練を怠っていたんだろう。いくら在籍しているのがガキとは言え、ニンジャを育てる学舎を見す見す見逃すとは思えん。潰そうとするのが普通だろう。敵は少ない方が良い。
(……乗って見るのも悪くはねぇな、情報も得られるし、衣食住も多分心配ねぇ)
何より、ドイが気になる。別に好きだとかそういった気になる、ではねぇけどな。空元気と言うか、何と言うか。無理して明るく振る舞っている気がする。ヤマダセンセやアンドウセンセも気にはなっているみたいだが、本人が言うまでは何も聞かないんだろう。俺は少しなら我慢してやるけど、あまりにもうじうじしてたら手を出さない自信はねぇ。ドイがいつまでもでもでもだって、だったら覚悟しとけよ、目を醒まさしてやる。
……まあ、やっぱり此処は言葉に甘えさせて貰うか。俺はガクエンチョウを見つめ、頭を下げる。ガクエンチョウは俺の反応に満足そうに笑っていた。
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