異世界での初めての朝
小鳥の囀りが聞こえて、目を覚ます。起きたら元の世界であって欲しいと願っていたが、どうやらそれは敵わないらしい。天井も壁も、何もかも女の子らしいピンクに、俺は思わず溜め息を付いた。……別にピンクは嫌いじゃねぇけど、何でよりによって一面ピンクにしたんだよ、解せねぇ。今までの天女は女らしかったんだな……平和な世界だったらしいし、平和ボケしてたんだろう。俺があまり関わりたくない人種だ、多分な。
まだ寝惚けている目を擦りながら、窓を開ければ、心地よい風が入ってきて、思わず頬を緩める。あまり景色は良くねぇけど。この部屋は元々物置小屋だったらしく、かなり離れた所にあった。日当たりとかに問題はねぇが、ガクエンチョウの部屋からかなり遠い。生徒には好かれてても、教師陣には嫌われてたみたいだな、天女……
(まあ、大切な生徒を使い物にならなくしたんだし、それも当然か)
まあ、生徒達を野放しにした方もどうかと思うが、きっと目が覚めてくれると思っていたんだろう。その結果が今の現状な訳だが。教師陣の予想よりも圧倒的に上回っていたんだろう、天女の力と言うものが。写真とかねぇかな、一度見てみたいものだ。ニンジャとしての特訓を受けていた生徒達の心を骨抜きにし、ドイの心も掴んだその天女サマの顔を。とんでもなく美少女なのか、何らかの補正が掛かっていたのか……
(……まあ、恐らく後者だろうな)
ニンジャには、3禁と呼ばれるものがあるらしい。金、恋愛、酒は御法度なんだそうだ。……正直、酒が呑めないのは俺としては辛い気もするが、此処に居るのはまだガキだもんな……ドイが受け持ってるのは10歳らしい、まだまだ遊びたい盛りだな。天女の効果を受けたのは、13歳、14歳、15歳なんだそうだ。つまり、この3禁を知り尽くしている筈の年齢であり、ちゃんと自分達でも気を付けている筈だ。そんな奴等の心を骨抜きにしたんだ、補正が掛かっていた方が説得力がある。
……まあ、此処でごちゃごちゃ考えても仕方ねぇかと溜め息を付いて振り向けば、そこにはドイが居て、俺は瞬きを繰り返す。
「……ドイ?」
「おはよう。声を掛けても返事がなかったから心配になって入って来たんだが……どうかしたかい?」
「……あー、そいつは悪かったな。考え事をしてただけだ」
「考え事?」
「天女のこと。ドイも心を骨抜きにされたんだし、何らかの補正が掛かっていたんだろうなって」
「……!はは、そうかも知れないな……ほら、ご飯を持って来たから一緒に食べよう。おばちゃんの料理は美味いぞ」
「そいつは楽しみだな」
話を逸らされた、か。まあ、ドイにはドイなりの考えがあるんだろう。あまりにもうじうじしてたら、背中を蹴るつもりでは居るが、今のうちは見守っていてやろう。新人教育だと思えば良いだろう、気持ち的にはな。……本当は生徒と一緒に食え、と言いたいが、未だに溝があるみたいだし、一緒には食べれないんだろう。俺の監視と言う面目で一緒に食べるとは言うが、本当は顔を出来る限り合わせたくないんだろうな。
まあ、話を逸らしたいなら今は無理に話す必要はねぇな。今は時期じゃないってことだ。俺は小さく溜め息を付き、ドイと同じように手を合わせてからいただきます、と言って、取りあえず卵焼きに手を出した。
「……!……美味いな……」
「そうだろう、おばちゃんの料理は一等美味いんだ」
「こいつはナメてた……甘さ加減が丁度良いな。飯も美味い。……人の作る料理は久し振りだ」
「ん?自炊してたのかい?」
「独りだからなー、軍でも孤立してた方だし。たまに上司が一緒に食べようって誘って来たりしたけど、それ以外は自炊してた」
「……家族とかは?」
「もう居ねぇよ。俺が5歳の時に内乱で亡くした。両親も親戚も全部、な……父親代わりもつい最近亡くしたばかりだ」
「……すまない」
「別に気にすることはねぇよ。俺は充分生かされた。色々あったけど、な」
……そう、本当に色々あった。まあ、俺自身が"それ"に関わることは少なかったんだけどな。気絶させられて、目覚めた時にはほとんど終わってた。寂しくもあったが、これがあの人の優しさなんだと受け入れるつもりだ。………唯一心残りがあると言えば、あの人の最期の問い掛けに応えることが、出来なかったことか。次に会ったら、絶対に応えてやる。今は死ぬ訳にはいかねぇけどな。
「今日の予定ってあれか、挨拶するだけだっけ?」
「ああ。サラが良いなら今日からでも手伝って欲しいって新野先生が言ってたが……どうする?」
「俺は構わねぇよ、どうせ暇だし」
「そうか……まあ、学園長のことだからそう簡単に終わるとは思わないが、新野先生には伝えておくよ」
「……サラッと恐ろしいこと言ったな。ガクエンチョウは楽しいのが好きそうだな」
「……楽しい、で済むと良いな」
「目を見ろ目を」
視線を逸らしながら言うドイの額を軽く小突けば、ドイはぱちくりと瞬きをしながら、くすりと笑みを浮かべた。……俺は笑わせたかったつもりはねぇんだが、少しでも元気になったのならそれはそれで良しとしてやろう。俺は優しいからな。感謝しろよ、ドイ。軽く口元を緩めて笑えば、ドイは目を見開いてからまた視線を逸らす。……何だよ、俺は驚くほど笑顔が下手くそってことか、畜生め。
……それにしても、あのガクエンチョウが何かを企んでないってことは多分ないだろう。面倒くさくないと良いな……
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