そういうのは慣れてないんだ

チクチク、と視線が突き刺さる。この視線はずっと受けていたし、気にしねぇがドイが心を痛めているみたいだ。大丈夫だ、と言っているんだけどなぁ……俺が視線を向ければ、バッチリと目が合う。大抵は視線を逸らしたり驚いたように目を見開いたりするんだが、こっちを睨み返して来るのもある。その場合は俺も睨むか鼻で笑ってやるんだが、そうすると向こうは驚いたような反応を示す。覚えてはねぇが、俺も空から降ってきたみてぇだし、天女とほぼ変わらねぇかも知れねぇが、俺はガキには興味ねぇし男漁りをするつもりもねぇ。皆が皆、自分達を欲してると思ってんじゃねぇぞ、この自意識過剰野郎が。
俺は今、ガクエンチョウの隣に立っている。朝礼で皆に紹介するとは言ったが、まさかこんなに居るとはなぁ……


「……という事で、彼女には事務員の手伝いとおばちゃんの手伝いをして貰うことになった。サラ、自己紹介してくれるかの」
「おー。……サラ・クローズ。歳は25でてめえ等に興味はねぇ。皆が皆、自分達を欲してると思ってんじゃねぇぞ、この自意識過剰ども」
「「「!」」」
「サラ!?もう少し優しく……!」
「ガクエンチョウには許可を得てるぜ?我慢出来なくなったら暴れるけど良いか?って。なあ?」
「うむ、許可したから気にすることはない。面白そうじゃしな」
「「「学園長!!!!」」」

「つー訳だ。今までは楽だったかも知れねぇけど、俺はガキだからって多めに見たりしねぇからな。少しは我慢してやるけど……オイタが過ぎたら……どうなるか、保証は出来ねぇよ?」


オブラートに包んでなんか、やらねぇからな。ニィと笑っていれば、教師陣が頭を抱えてるのが見えた。……ガクエンチョウ、てっきり教師陣にはちゃんと説明してるんだと思っていたが、説明してなかったんだな。しかも理由が"面白そう"だからって……こいつは退屈しないで済みそうだ。少しだけ、ワクワクして来た。何事も刺激がなきゃつまらねぇからな。ガクエンチョウとは気が合う気がする。将棋もやりたいし、暇な時に遊びに行ってみるかな。


(それにしても……ジョウキューセイは周りが見えてねぇのかね?怯えてんじゃねぇか)


滑稽すぎて、笑えてしまう。こいつ等には周りが見えてねぇのかね?水色と青と萌黄色が怯えてるじゃねぇか……何で分かんねぇんだろうな……大切な後輩なんじゃねぇの?呆れつつも辺りを見渡していれば、タイラが自分の隣に居る萌黄色に何かしら声を掛けているのが目に入る。内容までは分からねぇけど、どうやら宥めているようだ。自然と肩の力が抜けていく萌黄色を見て、俺は小さく笑みを零す。
タイラはどういう訳か一回も天女に心を骨抜きにされたことがなかったらしい。カキュウセイのケアや世話を進んでし、同じ紫色や群青、深緑の説得もしていたんだそうだ。アイツには少しくらい多めに見てやっても良いかな、少しだけだがな。


***


「……なあ、あとどれだけ転べば気が済むんだ?」
「うう……僕も転びたくて転んでる訳じゃないんだけど……」
「転びたくて転ばれてたら困ります!ほら、早く立って下さい!サラさん、そこの書類を拾って貰っても良いですか?」
「わわっ、すみませんー!」
「おー、別に平気だけど……何かバラバラになってねぇ?」
「!読めるのですか?」

「流石に全部は分からねぇけど、少しなら読めるみたいだ。びっくりだな」


あの挨拶の後、俺はヨシノセンセに連れられて、事務室に来ていた。事務室には先輩であるコマツダシュウサクが居て、軽く挨拶をしたのだが、どうやら前の天女に何かされたらしく、何処かよそよそしい。まあ、別に気にしないのだけどな。コマツダはどうやらドジらしく、さっきから何もない所で転んでは書類を散らかし、拾ってはまた散らかし、と繰り返している。あー、これじゃあヨシノセンセから手伝いを懇願される訳だな。
足元にあった書類を拾えば、何処と無く見覚えがある文字に、ハッと息を呑む。少し違うが、クセルクセス遺跡にあった古の錬金術に似ている。書類を全部手繰り寄せ、順番に並べてみた。


「ヨシノセンセ、合ってる?」
「−−これは驚きました。合ってます」
「わあっ!サラちゃん凄いねぇ!」
「……ちゃん?」
「あれ、違った?サラちゃん、女の子だよね?」
「……小松田くん、何で貴方は変な所で鋭いんですかねぇ……」
「……良く分かったな、センセ達も分かったのはニイノセンセくらいなのに」

「……?えーっと、サラちゃんって綺麗な顔してるし、雰囲気的に優しいから女の子だなーって分かりましたよ?」


予期せぬ言葉に思わずポカン、としてしまう。……今、こいつは何て言った?綺麗な顔?雰囲気が優しい?……ちょっと待て、ちょっと待て。思考が追い付かない。雰囲気が優しい、ってのはアルにも言われたことがある。これは別に良いが……綺麗な顔、なんて言われたことあったか……?思わず口元を手で覆う。コマツダに深い意味があっての発言とは思えないが、流石に恥ずかしくなる。自分の顔が火照ってるのが見なくても分かった。


「サラちゃん?!顔が真っ赤だよ!」
「う、うるせぇ!!は、恥ずかしいことをいきなり言うからだ!」
「え……僕、思ったことを言っただけですよー?」
「……女扱い、慣れてねぇんだよ……!」
「……おやおや、可愛いらしいですね」
「ヨシノセンセ!」
「ふふ、すみません。さあ、仕事に戻りますよ。この書類が終わったら休憩しましょうか」
「わあ!僕、あとでお茶の用意しますね!おばちゃんから貰ったお茶菓子があるんですよー」

「あー……そう、だな。俺も手伝うし、早く終わらせるか」


まだ自分の顔が熱い。パタパタと手で扇げば、くすくす笑っているヨシノセンセと目が合い、軽く睨めばそれすらも笑われる。コマツダはコマツダでのほほんとしているし、悪意がないのは分かってるから注意し難い。こいつは……俺が慣れるしかねぇんだよな。取りあえず、ちゃん付けを止めて貰おう。話はそれからだ。俺はそう決意しながら、纏められた書類に目を通していく。……うん、やっぱり古の錬金術に似ている。分からなければコマツダかヨシノセンセに聞こう。
−−結局、俺とヨシノセンセがスムーズに終わらしたのにも関わらず、コマツダが終わらせた書類にお茶をぶちまけるという失態をしてくれたので、ヨシノセンセの雷が落ちたのは言うまでもないだろう。



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