素直じゃない人達を知る
ーーこれがうぃんうぃん……ってコト…!?
翠青ちゃんと珠華ちゃんはなかなか手強いだ……孫権様の褒め殺しにもなかなか屈してくれない。たまに私に流れ弾来るのはちょっと意味が分からないけれど。陸遜様と魯粛様も頑張ってはいるけれどいつも邪魔が入るだ……まあ、翠青ちゃんと珠華ちゃんが鈍いのは認める、うん。遠回しに言えば意図は2人に伝わらないし、ちょっと積極的に言おうとしたら邪魔が入る、郭嘉様とか馬岱様とか。まっっったく気配ないのに良い感じになった瞬間現れるあの2人って一体なんだべ……郭嘉様に対する翠青ちゃんはまだ大丈夫だけど、馬岱様に対する珠華ちゃんは満面の笑顔だから……いや、可愛いよ?めちゃくちゃ可愛いけど……魯粛様が悲しそうなの気付いてあげて…!!
「……はぁ、もどかしいだ……」
今までの培った付き合いが長いからなかなか靡いてくれないのは仕方ないとは思ってる。でも、それでも理想を追い求めてしまう私を許して欲しいだ……敵対する覚悟、出来てたはずなのに。ここでの生活が長引けば長引くほど揺らいでしまう。やっぱり私、翠青ちゃんと珠華ちゃんと刀を交えたくない。それはきっと、翠青ちゃんと珠華ちゃんも一緒で……更にもどかしくなる。小さく溜息を付いてから収穫した野菜を厨に持って行こうとすれば、ふと孫呉ではなかなか見られない青と緑が見えて視線が移る。あれはーー……
「ー夏侯惇様?姜維様?お2人共何をしてるんですか?」
「っっっ!…霞月か、あまり人を驚かすな」
「べ、別に何もしていませんよ」
「ええと、翠青ちゃんと珠華ちゃんならここにはいませんよ?」
「べ、別に翠青に用があった訳じゃない」
「珠華に用があった訳じゃないんですけどその、……彼奴はうまくやってます?」
「翠青ちゃんは元々愛想良いし優しいからよく周りから取り合われてますし、珠華ちゃんは周りに良く気付くし、かっこいいからよく女性陣に囲まれてたりしますよ!」
「………そうか、それなら、良いんだ」
「………はい、良かったです」
良かった、って顔にはぜんっぜん見えないけど???気分が下がってるように見えるし、姜維様に至っては拗ねてるように見える。夏侯惇様は……無理矢理自分を納得させてるように見える。んん……それに、他の誰でもなくこの2人がここに居ることがなかなか信じられない。だって、翠青ちゃんも珠華ちゃんも夏侯惇様と姜維様にはあまり良く思われてないって言ってただ。まあ、夏侯惇様については翠青ちゃんが怖がってるだけらしいけど、姜維様は自分が尊敬している諸葛亮様にあまり良くない態度を取る珠華ちゃんにきつい態度を取ってるんじゃなかったか……??
「あの……なにか2人に用があるなら伝えておきましょうか?」
「いや……なに、特に用がある訳ではないのだ」
「…少し時間が出来たので、ちょっとその、様子を……」
「そうなんですねえ」
「…その、何か不自由とか…してないだろうか」
「へ?」
「…その、珠華殿は人によって対応を変えたりするので、その変な角とか、立ってたりしませんか?」
こ、これはもしかして……2人を心配してる!!?夏侯惇様と姜維様が!!?翠青ちゃんも珠華ちゃんも好かれてないと思っている2人に!!?こ、これは聞いたことがあるだ……!!不器用過ぎて伝わらないつまりーー…一方通行!!!普段は鋭いけどたまにそんなに鈍かったっけ?ってなるくらい急に鈍感になる翠青ちゃんと珠華ちゃんにとって、もう少し素直になれと曹操様にたまに苦言を呈されている夏侯惇様と、風当たりを弱めなさいと諸葛亮様に諭されている姜維様の気持ちが伝わる訳ねぇだ!!!
翠青ちゃんも珠華ちゃんもどうしてか自分が好かれるという気持ちに有り得ないって見え隠れしている気がする。珠華ちゃんなんて、特にそう。あんなに素敵な、大事な大事な私の友達なのに。貴族も忍者もそんなに関わって来なかった2人の心境を私は分かりはしない。でも、分からないからこそやれることがあると思うだ。それに、この2人を巻き込むのはどうだろう。翠青ちゃんと珠華ちゃんを信頼してるのは目に見えるだ。彼女達に、こんな人達の優しさに気付いて欲しいなあ…
「…霞月?その、俺達は変なことを聞いただろうか」
「も、申し訳ありません。ただその、…彼奴が、無茶してないか気になったものでして。答えづらかったでしょうか」
「へ、あ!そ、そんなことないです!ちょっと考え事をしてしまってて…私こそごめんなさい」
「ああいや、謝る必要はない。…何か困りごとでもあるのか?」
「…困りごとと言うか、それこそ翠青ちゃんと珠華ちゃんのことなんですけど…」
「…翠青…?」
「珠華が何かに巻き込まれてるんですか!?」
「……ああ〜〜……嘘つきめ」
なーにがよく思われてないだ!!!翠青ちゃんと珠華ちゃんの名前を出した瞬間、ピリッと肌寒いくらいの殺気を放ちながら目を据わらせた夏侯惇様に、心配ですという表情を隠さず声を荒らげる姜維様。こんな風にあからさまに表情に出すこの2人の気持ちを、翠青ちゃんと珠華ちゃんは気付いてすらいないらしい。いやまあ、夏侯惇様と姜維様が不器用だと言うのが1番問題なのは分かっているけれど、そうだとしても流石にこれは不憫過ぎる。
「えっと、2人は大丈夫です。先程も申した通り、頼りにされてますし大切にさせて頂いてます。魏と蜀からお預かりしてますから」
「ーー…そうか。なら、良いんだ」
「……ええ、本当に」
「ただその、…非常に言いづらいのですが」
「…なんだ?」
「気にはなりますが、言いたくないのなら無理強いはしないで大丈夫ですよ…?」
「…翠青ちゃんも珠華ちゃんも、…夏侯惇様と姜維様に、嫌われると思ってるのがその、非常に勿体ないなあ、と…思いまして…」
「、俺が、翠青を嫌い…??」
「なっ、確かに珠華の対応に不満はあるが嫌いだなんて…!!」
「……デスヨネー…」
ガーン!という効果音が聞こえて来そうなくらい絶望している夏侯惇様と姜維様に、思わず頭を抱えてしまう。しかし、何かしら思い当たる節があったのかどことなく納得したような、そしてそれに対して更に落ち込むという悪循環に陥ってるように見える。それはそうだよなぁと後一歩まで追い詰めた鼠に逃げられたみたいな農民達みたいな表情を浮かべている夏侯惇様と姜維様に同情する。自分なりに、交流していたつもりなんだろう。それが一切伝わっていないどころか、まさか嫌われてると思われているなんてそりゃあ……ものすっごい酸っぱい梅干しを食べたような気分になるだ……
(悪い人達では、ないんだよなあ)
夏侯惇様も姜維様も周瑜様や頭の良い方々から一目置かれているのを私は知っている。今は味方ということで知恵をお互いに貸したり貸されたり出来ることに感謝していたから。この2人の欠点は……交流に対して難があるということだろうなあ……言葉が下手という方が良いかも知れない。基本的に夏侯惇様の傍には夏侯淵様や夏侯覇様、荀ケ様。姜維様の傍には徐庶様や趙雲様といった方々が居ることが多い。理由は……余計な火種を作らない為なのだと聞いたことがある。その人達が居ない、ってことは……
「…誰にも言わずにこっそり様子を見に来た、?」
「「!」」
思わず声に出てしまった言葉に対し、夏侯惇様と姜維様は肩を跳ねさせる。何かしら言われているのか、気まずそうな顔色を浮かべる夏侯惇様と姜維様。飼い主に叱られるのかと不安がっている犬や猫に見えて来て何だかんだ可愛いく思えてしまう。翠青ちゃんや珠華ちゃんを想う気持ちは私も一緒だ。どうにかして夏侯惇様と姜維様の気持ちが伝わったら良いんだけど……それには、誰よりもこの2人の決意が不可欠だ。
「…翠青ちゃんも珠華ちゃんも、いっぱい人を見てて、色んなことに気付いてくれるんです」
「…そう、だな。翠青の機転の速さにはいつも驚かされる」
「…忍、ということを考慮しなくても彼奴は色んなことに気付き、私達が気付く頃には終わらせていることが多いですね」
「でも、自分への気持ち……んと、平たく言うと好意について嘘みたいに鈍い時があるんですよ。さっきまでの鋭さどこいった!?みたいな」
「「…ああ…」」
「覚えあります?翠青ちゃんと珠華ちゃんに遠回しな言い方は伝わらないんです、素直にならないと………そんな、無理だぁ、みたいな顔しないでくださいよ…」
「う、……すまない、俺はその、どうしても言葉の選択を間違えてしまいがちで……」
「…どうしてもその、丞相への態度がチラついてしまって……」
んんん、どうにかしたいって思ってるのは伝わって来ただ………言葉に対しては性格もあるだろうし、夏侯淵様みたいに朗らかになったりしたらそれはそれで違う気がするし、姜維様の懸念に対しては珠華ちゃんも悪いとしか言いようがない。珠華ちゃんは大好きだけど、万が一大喬様に対して変な態度取ったらきっと許せない。もう少しどうにかするように言ってみようかなあ、私からなら聞いてくれるかも知れない。翠青ちゃんの方は……夏侯惇様優しいよ、怖くないよって少しずつ擦り込ませるしかないかなあ……まずは翠青ちゃんが夏侯惇様に抱いてる恐怖心を和らげないと仲良くなれない気がする。
「…珠華ちゃんには、ちょっと私からも伝えておきますね。私にも命を懸けても守りたい人、いますから」
「!!霞月殿…!!有り難うございます…!」
「いえいえ。私だって大喬様に対して存外な態度取られたらいくら珠華ちゃんでも許せないですから!翠青ちゃんに関しては…多分、言い聞かせるというか伝えるしかないと思います」
「…翠青は、俺が居るといつも緊張しているように思える。俺に恐怖しているんだな」
「……あー、何かしらその、心当たりとかが…?」
「俺に気付くまでは談笑していたのに、気付いた瞬間言葉が消えたら、その、理解しても仕方ない、だろう」
「…思えば、珠華も私が来たら一瞬だけ面倒臭いの来たなって顔してましたね」
「翠青ちゃんと珠華ちゃんが申し訳ありません……!!」
もうあの2人は!!!素直じゃなくていい時に素直になって!!これは夏侯惇様や姜維様じゃなくても何かとしんどい思いするに決まってるだ!!多分翠青ちゃんも珠華ちゃんも無意識なんだろう、でも無意識ほどタチが悪いものはないんだよなあ…!!何とかしたいけど、日中は孫呉に居る今じゃないと出来ないことって何かあるかな……やっぱり擦り込み…?んんん、私ではちょっと難しいなあ……
「…この話、周瑜様とかに話しても宜しいですか?あの人なら口も固いし、良い案を出してくれる気がするのですが…」
「…俺は別に構わないが、何の得にもならないのではないか?」
「…敵に塩を送るみたいなことを、するでしょうか」
「え、そんなのーーーみんな仲良くが良いに決まってるじゃないですか。今は味方なんですから」
「「…!」」
「仲間なんですし、友達のことですもん。微力かも知れないですが、力にならせてください」
「…霞月には頭が上がらないな……世話を掛ける」
「有り難うございます霞月殿…!!しかし、我々が何かしないのは少々気になるといいますか……」
「…そうだな……そういえば霞月は最近鍛錬を翠青や珠華に付けて貰っているんだったな。…あの2人を侮っている訳じゃないが、ちゃんと身になっているか?」
「え、と………まあ、かなり手加減されてはいますね。翠青ちゃんも珠華ちゃんも私に戦って欲しくないので……」
「でしたら、私と夏侯惇殿も鍛錬付けましょうか。これで借りは返せますかね?」
「え!是非お願いします!」
これは願ったり叶ったりだべ!!基礎を教えてくれる翠青ちゃんと珠華ちゃんの特訓も有り難いけれど、少し物足りないというか……孫呉の人達もどちらかといえば翠青ちゃんと珠華ちゃん側だから本当に基礎くらいしか教えて貰えない。私だって、大喬様を護りたいのに!!夏侯惇様の実力も姜維様の実力も、今の私には到底敵わない。でも、誰かの為に強くなりたいという私の気持ちを真摯に受け止めてくれている。これは絶対に今より遥かに強くなれる…!!翠青ちゃんと珠華ちゃんの気持ちをどうにかしたかっただけだけど、とってもいいオマケがついただ!
翠青ちゃんと珠華ちゃんが夏侯惇様と姜維様と仲良くなって、私も強くなれる!これこそ一石二鳥だべ〜!!
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