幸せを噛み締める
ーーああ、今日という日が終わらなければ良いのに…
孫呉一丸となって、珠華ちゃんと翠青ちゃんを引き入れる為に甘やかしたり癒したりする日々は、とても楽しいし幸せだ。あまり耐性がないのか、二人とも顔を真っ赤にしては照れくさそうにもじもじしている姿をついついにやにやしながら眺めてしまう。あんなに言葉を失う珠華ちゃんは見たことないし、翠青ちゃんがあんなに顔を真っ赤にするのはかなり珍しいだろう。んふふ、私の幼馴染みはすっっっっごく可愛いだぁ…今日は魯粛様と陸遜様が頑張って誘った為、逢引きしてたりするんだけど…うーん、着いて行きたかっただ…
(上手くいってると良いなあ)
恥ずかしいから着いて来ないでくれって言われたから仕方なく待機してるけど、本当は張り付いて居たかっただ…!!まあ、翠青ちゃんはともかく珠華ちゃんが全く意識してないのは…うん、魯粛様頑張れって感じだけど、翠青ちゃんと陸遜様はなかなか良い感じだと思うだ。やっぱり火計っていう共通の戦術を扱うからかな?二人とも楽しそうに話してるし、距離も近くなって来てると思うし……もしかして、珠華ちゃんに畑仕事を教えれば魯粛様を意識するかな…?やってみたそうにはしてたし、教えてみるのも良いかも…!
「ーーふふ、本当に霞月は翠青殿と珠華殿のことが大好きなんですね」
「ああ、私達も霞月がにこにこしているととても嬉しい。…魯粛と陸遜が早く落としてくれれば良いんだが…」
「いやあ、それはかなり高難易度な目標じゃないか?陸遜殿の方は何とかなるかもだが、魯粛殿の方は厳しいだろう、まともに会話出来てないからな…まだ俺の方が目立てると思わないか?」
「手出しはしちゃだめですよ?」
「勿論、そのつもりだから安心してくれ」
「まあ、焦れったいと思ってしまう韓当の気持ちも分からないではないがな。ね、義姉上」
「そう、ですね……魯粛様にもう少し孫策様のような大胆さがあればまた変わるのかも知れませんが…」
「や、魯粛様は今の魯粛様だから良いんですよ!大胆さなんていりませんって」
大喬様と周瑜様と韓当様という、なかなかに珍しい集まりでお茶会をしていた所に出会し、いつの間にか参加させられてた私がお茶を啜りながら珠華ちゃんと翠青ちゃんへの魯粛様と陸遜様の恋心を話せば、やっぱり陸遜様の方はあまり問題はなさそうだけど、魯粛様は…って展開になった。珠華ちゃんへの好きって気持ちが強すぎるせいか、なかなか会話が弾まないのを目撃してるからだとは思うけれど、珠華ちゃんは例え味方判定していたとしても、自分の時間を無駄にするような人には手厳しいから、少なくとも魯粛様と過ごす時間を苦には思っていないのは確か。今のままで十分だと思うし、何より魯粛様が孫策様みたいになってしまったら困ってしまう。…大喬様には悪いけど、ね。
「あ〜〜、気になるだ……翠青ちゃんの方はすっかり陸遜様のこと気に入ってるみたいだし、早く孫呉の子にならないかなあ…」
「朱然殿も気に入っていたしな、あの子って陸遜殿と朱然殿が思い付かないような作戦を考えるんだろ?凄いよなあ」
「確か翠青殿の作戦には何回か出し抜かれたことがありましたね、孫策様が悔しがっていた時がありましたし…」
「…ああ、あの時か。割りと自信があったんだが…まさか追い詰めてる筈が追い詰められてるとは思ってもいなかった。孫策にも悪いことをしたな…」
「翠青ちゃんの頭の回転は本当に凄いんです!翠青ちゃんは先を見据えた策を考えるねって珠華ちゃんも言ってましたし!」
「その珠華殿も凄いよなあ、前に潜んでたら目の前に現れて死んだと思ったくらいだし…あの子って何であんなに気配も足音もないんだ?忍者だからって息遣いくらいはするだろ?」
「えーっと、…聞いてもはぐらかされるんであまりは分からないですけど…両親に仕事してる時は息をするな、みたいなこと言われたって言ってましたから…それ、ですかね?」
「息するなって……凄いことを言う親なんだなあ…」
「…それが彼女の抱える闇、だろうな。それに触れることが出来れば孫呉に来てくれる可能性は上がるが…」
「無理矢理聞いてしまうのは良くありません…今はゆっくり、貴女の味方は此処にも居ますよって教えてあげるだけで良いと思いますよ。ね、霞月?」
「はい、大喬様!」
…きっと珠華ちゃんは、無理矢理聞いてしまうようなことをすれば、心を閉ざしてしまうだろう。あの氷のような凍てついた目で、寂しそうな顔をしながら背中を見せるーーあんなあの子、二度と見たくねえだ。寂しいよ、悲しいよ、って言えないあの子は1人で泣くんだ。そしてそれを隠す。…あの子は隠すのが上手いから、きっとそれを知ってる人間は限られているだろう。…そこに魯粛様が入ってくれれば、少しは良い展開になってくれるんだろうけど、こればかりは魯粛様の引き際次第かなあ…何が引き金になるのか分からないのがこんなにも悲しいなんて…
「そんな暗い顔すんなって、霞月。お前は孫呉の末っ子なんだから、何も気にせず笑ってれば良いんだ。ま、俺よりも目立たないでくれると助かるけどな?」
「人の悲しみに寄り添えるのは霞月の良いところではあるが、喜びに寄り添っても良い筈だぞ?」
「貴女の笑顔には人を元気にする力があります。気分的に今すぐに笑って下さい、と言うのは難しいと思いますが…霞月、私は貴女の心からの笑顔が大好きですよ」
「義姉上だけじゃないぞ?孫呉の皆、霞月の笑顔で元気付けられているからな。大丈夫、君は無力なんかじゃない。自信を持ってくれ」
「そうそう。それに、翠青殿と珠華殿が欲しいのは戦力もそうだけど、可愛い可愛い霞月の友人だからってのが一番なんだぜ?お前には孫呉が一員となって行動するほどの魅力があるんだからさ、あまり軽視するなよ?」
「…どうして、そんなに…?」
「私は初めて出会った時に助けて頂きましたし、それ以降も守られて来ました。…その、大好き、と言われるのはまだまだ気恥ずかしいのですが…!私の為に、と慣れない戦場を駆け回る貴女の姿は、とても素敵なのですよ」
「…正直、最初の私は焦っていたし君にも辛く当たったと思う。それでも私を慕ってくれた霞月には救われたし、君の直向きな前向きさには目を見張るのもあった。…君の笑顔は孫呉の太陽だからね、焦がれてしまうのも仕方がないだろう?」
「あー…俺はあまり上手く言えないんだけどさ、地味な俺に対しても普通に接して来るし、急に野菜の差し入れをして来たりとなかなかに未知数な生き物なんだよな、霞月って。まあ、早い話が霞月と過ごす時間は好きな時間ってことだ。…改めて言うと照れくさいな、これ」
「…ふぇ…」
「…ふふ、照れている霞月の顔が見れたのは嬉しいですね。こら、そんなに目を強く擦ったらいけませんよ」
「泣きたい時は素直に泣けば良いと言うのに…これは霞月だけに限ったことではないが…何故君達は私達を頼りにしないだろうな」
「翠青殿と珠華殿については分からないが…霞月は敬愛してる大喬殿と周瑜殿に甘えるのは恥ずかしいんだよな?意外と恥ずかしがり屋さんだもんな、霞月は。ほら」
「うぅ〜〜!!!韓当様のばかぁ…!」
突然の褒め殺しに、顔は勝手に赤くなるし涙は勝手に出て来ると言う始末。腕を広げて来た韓当様に悪態を付きながらも飛び込めば、よしよしと頭を撫でられる。大喬様と周瑜様が焦りながら声を掛けて来てるのが分かったけど、今はちょっと待ってて欲しいだ…!!
ーー嬉しい。凄く、嬉しいんだ。認められてたんだって、無力じゃないんだって、ー此処に居て良いんだって。だって私はただの農民だし、翠青ちゃんみたいに策を立てられる訳でもないし、珠華ちゃんみたいに運動神経抜群でもない。畑を耕やすことしか出来ないのに、仲間だって認めてくれるんだ…!
(ーー私、心の何処かで怖かったのかな)
大好きな皆が、翠青ちゃんと珠華ちゃんの方に行ってしまうんじゃないかって。勿論、翠青ちゃんと珠華ちゃんには幸せになって貰いたいし、幸せにしたいと思ってる。でもーーそこに私が居ないのは、いやだ。だって、孫呉は私の居場所だから。村を捨てたことに後悔しなかった日はない、元の世界でたまに里帰りした時…両親やら親戚やら近所の人達やらと再会して嬉しかったのは事実だし、ホッとしたのも確か。それでも、一目惚れした大喬様が居ない、厳しくも優しい周瑜様が居ない、些細なことでも褒めてくれる魯粛様が居ない、手の掛かる子供みたいに構いに来てくれる韓当様が居ないあの村を、この幸せを知ってしまった私が寂しいと思うのは仕方ないことだろう。
「ーー霞月ちゃん?」
「「「あ」」」
「…どうしたの、霞月ちゃん。誰に泣かされたの?処す?」
「火計にしちゃう?」
「…だ、大丈夫だべ…!ちょっとあの、目にゴミが入っただけだべ!」
「「ふぅん?」」
「お、お帰り!思ったより早かったね?」
「ただいま。陸遜殿がね、あまり女人を遅くまで連れ回すのは悪いって送ってくれたんだー。お土産に分かりやすい本まで頂いちゃった!」
「大層な本ではないのですが…喜んで貰えて何よりです」
「ただいま。魯粛殿も似たような感じだよ、この優しさが蜀の人達にもあれば良いのに…今日は有り難うございました、楽しかったです」
「いや、その……楽しかったのなら、良かった。機会があれば、また、その…如何ですかな?」
「陸遜殿の薦めて頂いた本に外れはありませんから、いつも期待してますよ!」
「え、宜しいんですか?それじゃあ次は私のお勧めをご紹介しますね」
「「、」」
「…あー、二人には刺激が強かったみたいだなあ…」
「そうみたいですね…ふふ、幸せそうな顔で気絶しちゃってますね」
「…まさかこの二人のこんな姿を見ることになるとはな…」
「…翠青ちゃんも珠華ちゃんも罪作りな女だべ…」
至近距離での想い人からの満面の笑みを貰った陸遜様と魯粛様は、心底幸せそうな顔をしながら気絶してしまっただ。…恋って凄いなあ…ぎょっとしながら陸遜様や魯粛様の肩を揺さぶっている翠青ちゃんと珠華ちゃんだけど、多分それ逆効果だべ…肩を竦めてから、とんとんと二人の肩を叩けば、二人は心底心配ですという表情をしながらひたすら困惑している。うーん、非常に可愛い…此処までおろおろしてる二人を見る機会ってかなり少ないのでは??きゅん、と理解してしまえば胸が苦しくなった気がする。此処まで可愛い二人を間近で見れる陸遜様と魯粛様羨し過ぎない…?
「霞月ちゃん、どうしよう!?陸遜殿、固まっちゃった!!」
「魯粛殿も動かないんだけど…社交辞令だったのかな、図々し過ぎた…?」
「大丈夫大丈夫、ちょーっと二人の可愛いさにやられただけだべ」
「ええ??私が可愛い??可愛いのは霞月ちゃんじゃない?」
「え」
「可愛いと言えば霞月ちゃんだよね。翠青ちゃんはどちらと言えば綺麗系だし」
「珠華ちゃんはかっこいい系だもんね!」
「…私が、可愛い…?」
「当たり前でしょ、こーんなに優しくて可愛い女の子なんて滅多に居ないもん、良い幼馴染みに出逢えて良かったな〜っていつも思うよ!」
「…翠青ちゃん」
「…何が不安だったのか知らないけど、私と翠青ちゃんには霞月ちゃんが必要なんだから変なこと考えちゃだめだよ」
「…ん、…ん?それは珠華ちゃんだけには言われたくねぇだ!!」
「ゑっ」
「珠華ちゃんが何か隠してるの、私も霞月ちゃんも気付いてるんだからね!…無理矢理聞いたりはしないけど、いつかは教えてね」
「…参ったな。ん、大切な幼馴染みに言われたし、ほどほどにしておくよ」
あ、やめてはくれないんだな。と、困ったように笑いながら頬を掻く珠華ちゃんにそう理解した。翠青ちゃんも複雑そうな顔はしてるけど、一先ずは納得したらしい。…それにしても、私が可愛いかあ…美人で優しくて可愛い翠青ちゃんと、綺麗でかっこいい珠華ちゃんに褒められたんだし、少しくらいは調子に乗って良いのかも?思わずにへ、と表情が崩れれば優しく笑ってくれている大喬様と周瑜様、ぽんっと撫でられた手は韓当様のものでーーああ、こんなにも私が笑ってることを喜んでくれる人が居るのだと改めて理解し、噛み締める。
この場所は誰にも渡さないし、譲ったりなんかしねぇだ。これからも一緒に居たいし、どんどん陸遜様と魯粛様を嗾けていかないとね!
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